こんなのもう、やめてくれよ

篠騎シオン

それはいつも唐突に始まる


さあ、人を集めよう。

彼らは私の楽しいゲームの生贄となる人形ヒトガタたち……


あちこちから人を集めよう。

1、2、3、4……


『ハハハッ』


口から意図せず声が漏れる。

あっという間に人は集まってくる。

手間さえかければ、こんなに簡単に人が集まるなんておかしくってたまらない。

いつも人は、自分だけが有利な位置にいると思い込みたがって挑戦をやめない。

 

こいつらの条件はイーブン。

これは、そういうゲーム。

平等に自らの命を懸けて金を稼ぐ。


『ぶー』


観客から聞こえてくるブーイング。

何かと思い見てみると、人形ヒトガタが一つ倒れていた。

こいつにはもう、かけられる命はない。

完全なる失格。

目ざわり。


私は、その人形ヒトガタをつかむと空高くぶん投げた。


そして宣言する。



さあ、挑戦者、そして観客の諸君。

――デスゲームのスタートだ!!!!」







「おふくろ、やめてくれよおおおお」


部屋の中に絶叫がこだまする。

私がそちらを振り向くと、赤面した可愛い我が子。

我が子と言っても数年前に成人を迎えたれっきとした大人だ。

そして視線を戻した先にも、可愛い我が子。

10年以上前の息子のお人形さん遊びをとったホームビデオである。



「久しぶりに正月に帰れたと思ったら! いい加減、そのアソビやめてくれって。小さい頃の俺にアテレコしないで」


テレビを消しながら息子が言う。


「あらやだ。あなた昔からよくやってたじゃない。母さんもたまーにやりたくなっちゃうのよ」


「アフレコなら仕事でさんざんやってるだろ?」


「そうだけど~」


私は口をとがらせる。


「だってね。もう少しであなたの主演のアニメが始まるでしょ。なんだか落ち着かなくって」


「落ち着かなくてどうしてこれやるんだよ……」


あきれ顔の息子。

下積み時代とても苦労したこともあって、同じ業界には入ってほしくなかったが、反対するほど熱烈に、息子はこの仕事に就くことを望んだ。

そして今や、着実に、勢いを増して、私に追いつこうとしている。

その事実になんだか突然胸がいっぱいになって、私は息子に背を向け声だけを出す。


「おめでとう、でも、まだまだ私だって負けないんだからね」


「おふくろ、それでもプロかぁ? 涙が演技に滲んじゃってるよ」


息子にポンポンと肩をたたかれる。


「もう、そんなこと言わないの♡」


「うげっ。息子相手にハートをつけるんじゃない!」


涙の中に笑い声が混じる。



幸せと希望と、親心とそれから、ちょっぴり対抗心と。

色んな気持ちに包まれて、新しい年がまた始まる。


息子の主演の冬アニメは順調に人気が出るだろうか。



……実は、本心ではまだまだ息子には負けたくなかったりする私なのだった。

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