7
気が付くと、二人は森の中ではなく屋敷の目の前にいた。
空を見上げても、先ほどの事が夢だったのかというくらい、太陽の位置が動いていない。
二人できょろきょろと辺りを見回していると、二人の周りにのそっと気持ちよさそうに寝そべっている二頭の獣がいた。
「「ゆ、夢じゃなかった……」」
レリアとコリアは安堵していいのか、それとも驚けばいいのかわからなかったが、ひとまず顔を見合わせて息を吐いた。
「レリア様!!こちらにいらしたのですね」
「良かった、帰ってきてたのか、コリア様」
少し離れたところからジェスとロナルドが走ってくるのが見えた。いつも飄々としているジェスが汗だくで近づいてくる。
「お二人ともご無事で何よりです」
ジェスはそのまま二人を抱きしめた。
ーーなによ、私たちが必要だから焦っただけだわ。
そう思いながらも、この世界に産まれてこんなにも自分たちを大事にしてくれる人に初めて出会った二人は複雑な思いながらも嬉しくて、その場を動かず、おずおずとジェスの背中に手を回した。
「レリア様、コリア様!!」
ジェスが感極まったような声でつぶやき、更にぎゅっと抱きしめてきた。
レリアとコリアはジェスの腕の中で顔を見合わせ照れたように少しはにかんだ。
その様子を近くで見守りながら、ロナルドは安堵のため息を吐くのだった。
「な、なあ、そろそろいいか……。こ、こいつら、大丈夫なんだよな?」
暫くその様子を見ていたロナルドがおずおずと二頭の獣を指さして及び腰になる。
ジェスも腕をほどき、初めて気が付いたかのように固まった。
その様子を見てレリアとコリアは軽く笑いながら、「「大丈夫ですよ」」と返した。
「……ご説明いただけますか?」
「うん。妖精女王様の知り合いからのプレゼントだって」
「誕生日だしね」
「「……プレゼント……」」
唖然とした二人の手を引き、家に戻ろうと促す。その後ろを二頭の獣はのゆったりとついてくるのだった。
「では、妖精女王様がその方々については私がしっているから説明は私から受けるようにとおっしゃられたのですね」
「正確には、二人からってことみたいだけど」
「「はぁ」」
ふたりはそろって頭を抱えた。
「てことは、俺らの予想通りってことか……」
「伝承でしか知らない出来事をこの目で見ることになるとは思いませんでしたが、長生きはするものですね」
「「ん???」」
どういう事と首を傾げたふたりに遠い目を向けたジェスは、「ちょっとお茶を入れてきます」と席を外した。
ロナルドも頭を抱えて考え込んでいる。
「ロナルド、どういうこと?」
「ーーちょっと待ってくれ、ジェスさんがお茶を入れてくれてから話そう。ちょっと頭を整理させてくれ」
やたらと参っている様子のロナルドにきょとんとしながらも二人はおとなしくジェスがお茶を入れてくれるのを待つのだった。
後ろではのんびりと二頭の獣が大あくびをしてくつろいでいた。
「では、ご説明させていただきます」
二人の向かい側に座ったジェスは少し呼吸を整えると話し始めた。
「その前に何点かお伺いしてもよろしいでしょうか?ーーでは、お二人は妖精女王様の知り合いに二頭の獣をいただいたとおっしゃっていましたが、それはどなたか教えていただけたでしょうか?ーーなるほど、お二人も知らないと。もう一点お伺いしたいのですが、私共にはお二人がその方々と契約をしたように見えたのですが、どのような契約をされたのかわかる範囲にお伺いしても?」
「主になって欲しいっていわれたよ」
「額に触れて欲しいっていわれたからそうしたよ」
「ーーなるほど。ロナルド」
「持ってきましたよ、ジェスさん」
「ご苦労様です。では、お二人とも、こちらをご覧ください」
広げたのは一冊の童話の絵本でした。ジェスさん曰く、もっと古文書みたいな本もあるみたいだが、こちらの方がわかりやすいとのことで持ってきたようだ。
その絵本は二人が今まで読んだことがない物だった。ジェス曰く、この辺境に伝わる伝承を童話にしたもので、帝都などでは出回っていないとのことだ。
「えーと、魔との境に精霊の血族である第五王子が辺境伯と任命されたーーーーーー」
それは今から千年以上前のお話。初代辺境伯に当時の第五王子が任命されたが、魔物との戦いがあまりにも激しすぎて早々に命を失いそうになった。その時、妖精女王が彼女自身の空間に彼を招待し、傷を癒し、そして精霊王から託された神獣を贈った。それにより、彼は周辺の魔物を掃討し結界を張り、現在の辺境伯領ができたという内容だった。
「次にこちらをご覧ください」
ジェスにそう言われたのは一冊の神学書だった。広げられたページには伝説の神獣の一覧が載っている。
その項目読み進めていくと、挿絵付きの項目に目が留まった。
「「これって」」
レリアとコリアは思わず自身たちの後ろで寛いでいる二頭の獣とそのページを見比べた。
【天獣チェーロ】【地獣テラ】
羽が生えた雄々しいホワイトタイガーと美しい水色の鹿のその姿は多少の違いはあれど、その挿絵とほぼ変わらない姿でそこに在るのだった。
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