6
「「まさか!!」」
思わず、と言った風情でジェスとロナルドが叫んだのは同時だった。
レリアとコリアはその様子をきょとんと見つめている。
妖精女王はその様子を見てクスクスと笑った。そして二頭の背中を撫でてそっとこちらに押し出す。
レリアとコリアは巨大な獣の出現に思わず逃げようとしたが、どうしてか足が動かなかった。そのまま二頭はそれぞれレリアとコリアのそばにやってくる。
どうしよう、と二人が顔を見合わせていると、不意に頭の中に声が響いた。妖精達とは違い、頭は痛くならない。深くて渋みのある落ちついた声だった。
『心配することはない、我はそなたに危害は加えない。主よ、我のそばに寄ってよく顔を見せておくれ』
『逃げることはない、我が主よ、我らはそなたらを守るためにやってきた。どうか受け入れて欲しい』
声がすると同時に、レリアとコリアの体は勝手に動き、いつの間にかそれぞれのそばに寄っていた。
ままよ、とレリアは言われた通り、自身の目の前の獣と見つめあった。その様子を見ていたコリアも同じように見つめあう。
二頭がふっと笑ったような気がした。
そのまま二頭はそれぞれレリアとコリアに頭を垂れた。『『我らの額に触れよ』』声が聞こえた時にはなぜか最初から知っていたかのように、二人はそれぞれの額に自身の額で触れていた。
まばゆい光があたりを満たす。
そうして、光が収まったあと、あたりの様子は一変していた。
一面に色とりどり、大小の花が咲き乱れ、森の中だったはずなのに、開けた丘に変わっている。唯一、湖だけはそこに在ったが、きらきらと輝きを増していた。
森の奥に消えたはずの小さな妖精達が舞い踊っており、その合間に見たことがない光の玉がふよふよとこちらも踊っていた。
「「わあ!!」」
レリアとコリアが歓声をあげると、花びらが二人に降りかかった。
【契約はなされた。この妖精女王*****が契約を見届けたことを奏上する】
不思議な声音で妖精女王は高らかに告げると、天に手を広げた。そこからぽわーと白い球体が立ち昇ってゆき、やがて消えて行った。
「あれ?ジェスとロナルドは?」
暫く妖精達の歓待を戸惑いながらも受けていた二人だったが、ふと我に返り、コリアが二人がいないことに気が付いた。
レリアもあたりを見回すが、やはり見当たらない。
妖精女王が近くにきて、二人に話しかけた。
「驚かせてしまいましたね。あの二人はここに来る資格がないので、先ほどの湖畔で待ってもらっています。こちらの様子は水鏡をとおして、伝わっているので安心してね」
「妖精女王様、色々とありがとうございます。ですが、そろそろもとの場所に戻ろうと思います。少しお伺いしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんです」
「あ、あの、妖精女王様、資格って何なのですか?」
「ーーここに入れるものは妖精関係のギフトを持っていないといけません。それについてはジェスというものが知ってそうなので、詳しく聞くと良いですよ」
「妖精女王様、この子達は、一体……」
コリアが二頭の獣たちを指し示すと、女王は少しいたずらっぽい顔でふふふと笑った。
「彼らは、あなた方へ誕生日の贈り物です。とある方々からの、ね」
とある方々って、伝承によると、妖精女王が従うのは精霊か神様だけとあったので、その通りだとすると、そのどちらかということになるのだが、うん、怖いから考えないでおこう、と二人は思った。
「……わかりました」
「ええ、彼らについても詳しいことは湖畔で待っている人たちに聞くと良いですよ。……ああ、もう時間ですのね。あなた方に耐性があるとはいえ、ここにこれ以上滞在するのは体に負担をかけそうですね。そろそろ元の場所に送ってゆきますね」
妖精女王は二人に近づき、そっと抱擁した。
「レリア、コリア、あなた方に数多の加護があらんことを。たまに窓辺に甘い物をお供えしてもらえるとうちの子達が喜ぶわ」
「「わかりました」」
まだ聞きたいことが山ほどあったが、妖精女王は時間切れだとばかりに二人をポンと押しやった。
【またいつの日か会えることを祈っているわ】
そう聞こえた時、不意にビューと突風が吹き、二人の体は風に飛ばされて行った。
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