始発の罪人

鋼音 鉄

生まれの罪が晴れる時、または幸せのスタート

ある世界のある国、テピス王国にて黒渦にヒビが入る。


「これで、みんな、傷つかず」


そんな片言で呟くのはギルティ。仮の名前である。


しかしその仮の名前しかギルティには存在しなかった。当たり前だろう、世界に忌子と呼ばれた禁断の人間に名前をつける人間なんて存在しない。このギルティという名前も、テピス王国の騎士団長に一生罪を背負っておけと言われ、付けられた名前である。


ギルティはその罪の贖罪と言わんばかりに、身を粉にして動いている。そうすれば少しでも自分を好いてくれるという希望を抱いているから。そんな事、あり得るはずが無いのに。


人間の本質は綺麗などでは断じてない。支え合いという事でも無い。


愚かさ、それが人間を人間たらしめる。


「おい!化け物!こっちにくんな!」


黒渦近くに存在していた村の少年の一人がそんな事を言いながら石を投げつけてくる。それに対し、ギルティは、自身の得物である剣を握りしめて通り過ぎる。


分かっているのだ、ギルティ自身にだって。自分は化け物だったことは。それでも、自分を好いてくれるという希望を持たなくては、やっていられないのだ。


「化け物が!あの黒いのだってお前がやったんだろ!」


その少年の父、戦士は自身の武器であるハルバードを手に持ち、ギルティに振り翳す。グチュッ!という生々しい音が響き渡り、ハルバードによって斬られた肩から血が流れる。


「死ね!死ね!化け物め!」


戦士に続き、他の住人の戦士達も続いて武器を叩き込む。斬られ、抉られ、叩かれ、そんな激痛がギルティを襲う。


「何をやっているのですか、貴方達は!?」

「なんだ、アンタら。制裁をしてんだから邪魔をすんなよ!」

「不敬ですよ、この方はハイネル聖教国の聖女様ですよ」

「なっ!?」


ハイネル聖教国は少しゴチャゴチャしているので簡単に説明をすると、権力だけならば、大司祭と同等である。今代の聖女は教皇に娘のように可愛がられているので、発言力はもっと上かもしれないが。


「貴方方は制裁、と言いましたよね。私達聖教国は魔王とは関係ないと発表した筈ですが?」

「い、いや、それは……」

「答えられませんか、話す価値もありませんね。大丈夫……ではありませんね。酷い怪我」


聖女はそう言いながらヒールの魔法を唱え、回復させる。


「貴方はこの国にいては、幸せになれません。私と一緒に聖教国に来ませんか?」

「……!おね、がい」


その聖女の誘いはとても悪魔的で、長年の力と言葉の暴力で限界だったギルティはその手を取る。


「分かりました、幸せになりましょう。一緒に」

「てんし、さま」


ギルティは聖女の事が天使に見えたのか、そう呟いた。


ギルティが聖女の手を取った事、これが全ての始まりだった。


ギルティの生まれながらの罪を罪では無いと言い、幸せになるべきだと言った。


これはギルティの人生のスタート、または聖女との恋物語のスタートである。

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