第38話 真面目?真剣?

♢♢♢ 九十二日目  王都脱出残り0日


仕事の流れは一通り再現出来た。あとはパート毎に完成度を高める、ジョンは規格のサイズにパーツ毎に切り分け、バズは下穴あけと塗りを行い乾燥の間にハトメとポールの先の金具、石突きなどを金属を溶かして鋳物で製作してもらう。ケリーはジョンとバズが離さずこの場に居てシニアメイドに教えを受けながらひたすら縫製に精をだす。


こんな感じの最終日。 延長が確定した。期日は決めていなかったがエインサークの馬車に取り付けるお茶会仕様のロールタープを製作してから海に行く事になった。


ココはオーナーチェンジを受け入れ、社内に通達し離職者が二人、ライムグリン家に良い感情を持っていない貴族の庶子達。相談を受けその家は援助は受けていないがどの時期に接触してくるかわからない。他にも貴族席を抜けた者や関係者が多数居た。斡旋先ではないが生地の卸先で人手を欲しがっている所を紹介するくらい。

離職者には労いの意味も含め三月分の金額を渡した。どちらも五年以上勤めていた者。

元貴族の者や庶子が多いと思い問うと、彼女達は佇まいがシャンとしていたから雇ったらアレだっただけ。

ココは王都店に出入りしているとベックの目につくので、エル達の宿舎に仮住まいする事になりメイドが二人ついて来たのに驚くと「減らしたのよ」と困惑のココが居た。


ケップにも連絡して「あんたの騒動の煽りを受けて店を手離さざるしかなくなった。これ以上は支援しない」と送った。店の前の結界にベック他数名が結界に抗っていた。

問屋街の結界は侯爵家が生地問屋を買い取ると仕事の邪魔になるので荷馬車が通行し易いように小さく縮めた。悠々と、太々しく結界の中に居たベック達は慌て出し、騒ぎ立てる。

今迄が罰にしては快適過ぎたので、罰則としての結界を施す。 

個別に分け、高さも抑えられ黒く色付きになり、各自足元のトレイが入る隙間だけが灯りとりと外部との接点だ。しかし棺桶結界よりは大きい。

このサイズになると引いたり押したり移動ができる為、住民達が牛や馬を使い道の端に追いやり問屋街は通常の通行が出来るまでになった。


後に、問屋街の住人達は街道封鎖結界の時は男爵の兵隊が厳つい顔で睨みながら時に威嚇しながら悠々と太々しく過ごしていたので恐ろしかったと、しかし、個別の結界から数日すると泣き叫ぶ男の声が気持ち悪かったとも、その時のことを語り、それを解決してくれたライムグリン家のキリング様には感謝しきれないと。



商業組合の手続きも始まりオーナーチェンジ、土地家屋の賃貸契約、屋号は変えずに登録していく。


ココはこの宿舎で暫く過ごす事になり一緒に食事をする際、エル達はあの方に心からの御祈りをしてから食べ始めるのを見て、

「何処の宗教なの?この地域では見ない御祈りね」と何気なく聞いた、あの方への感謝の気持ちを絶えず忘れない為と言われたが、ピンとこない。 

新しく雇われた若い三人も見るからに一所懸命に御祈りしているので、聞いてみると、

「俺の足の怪我を治してもらいました。折れたまま放置していたので痛みも酷くて化膿もしていて侯爵家の方に診てもらうと足を切断して化膿が広がるのを止めないと命に関わると言われました。それが治ったんです。 こんなの体験しないと信じないと思いますよ。傷口も消えてまるで無かったかの様なんです」 ジョンの話しの内容は胡散臭いが表情は真剣そのもの、

「ジョン兄ちゃんは泣いて跳んで喜んでたもんね」 ケリーも証言する。

「それに毎日ちゃんと御祈りするといくら仕事で疲れても、ベティさんにこき使われても(オイオイ!)翌日に疲れが残らないんです。働いてでしか恩返しが出来ないので御祈りも仕事も心から精一杯やるんです」 ジョンは特段に真剣だ。

ココも人を使い仕事をしてもらうが皆んな真面目に仕事はしてくれる、しかし真面目と真剣は違う。どう違うかはその者から伝わる気迫と想いが違う。

この子達兄妹は、エル達の為に働いているのが伝わり、ココはここまで真剣になれるんだと感心していた。


♢♢♢ 九十三日目  脱出失敗一日目


取り扱う生地の問題は無くなり、材料を組みだす。巻芯に生地を巻き、塗りの乾いた材料で組みつける。ロールタープの完成品だ。 

ここで重大な事が発覚した。馬車に取り付けるのに、エル達の馬車はルーフキャリアを用いている事だった。ルーフキャリアを取り付けないお客は天井に取り付ける為に穴を開けなければならずどうしょうかと、天井の形に合わせないと雨漏れが心配だ。ここはゴムの出番だとエルは発言する。 しかし、今回は保留だ。 ルーフキャリアに取り付けての販売のみに絞る。 ルーフキャリアの左右に取り付け、どちらでもお茶会が開催できる様に

ロールタープの試作サンプルは完成したが、薄手生地の無地で黒塗りケースの標準タイプ。これをルーフキャリアに取り付けポールの長さを決める。

市販のルーフキャリアを取り寄せるまでに幾つか無地の黒塗り標準タイプを作っておく。

ハトメとポールの先と石突きの部分の金物も多めに作り置きしておく。


薄手生地用のロールタープは一応の完成を見たので、厚手生地の幌布も試作品を作る。こちらは、既に馬車に取り付けてあるので規格サイズを真似て作成していく。そして、完成すると不具合が無ければまたバラしてサイズ取りをして同じ寸法の材料を用意しておく。


部品の用意や雑用をこなしていると四日程が経ちルーフキャリアが届いた。


♢♢♢ 九十七日目  脱出失敗四日目


ルーフキャリアが届くとロールタープを組み付けて完成となるのだが、侯爵家の紋章入り薄手生地が出来上がったのでその生地でロールタープを作り直して組み広げる、キラキラポール、キラキラロープ。 少々派手な気もするがデモカーなので黙っておく。


使用には問題はなさそうだ。これで当初の予定通り受注出来れば良いのだけれど。


「デモカーも出来ましたし、オレ達は少しバカン‥、出張に出掛けます。以前より話してました、ゴムの木が有るかどうかですので一月ぐらい留守にします。皆さんよろしくお願いします」 エルは夕食の後に皆を集めて話しをする。 

「エルさん、楽しみにしてましたもんね」バズはエルから様付けからさん付けに換えさせられた。

「エル君はかえってくるよね?ちゃんと綺麗に縫える様に頑張るから戻ってきてね」 ケリーは何か気付いているのか帰ってくるか心配の様だ。

「エルさん絶対に帰ってきて下さい。オレやって行く自信は無いっすから」 ジョンらしいっちゃジョンらしい。

「あなた達が私を引き込んだのよ、ちゃんと帰ってきてね!」 ココも少し寂しそうだ。

「大丈夫ですよ、今回は軽く調査してみて今後の指針を決める為の遠征?出張ですから」 ベティも出張と言う事を殊更主張している。

ブロロ『そうよね、暑い地域って美味しい牧草無さそうだもんね』 食い気のピンキー

ブロブロ!!キャッパオも同意している様だ。

「まぁ、現地を見てからだね!」 エルは至ってマイペース。決めてしまうとシャムとも別れなければいけないとの想いもあり、この世界を隅から隅まで見てみたい欲求にも抗えない。

「明日一日は用意に費やして明後日に出発します」 エルが断言して行動が決まる。


エルはピンキーとキャッパオの居る馬房で何か旅にいる物を聞きにきたが『特に無いね。あっ、暑いから岩塩は要るね。ミネラルと塩分は要るよ』それぐらいで他は大体揃っていた。

じゃあ出ようかって時に待ったがかかる。  エインサークだ。

「藍子お前は行かんでもええんじゃないか?牧草がええんか?用意さすからここで待たんか?」 エインサークは藍子を近くに置いておきたいのだ。

ブロロ『もう、おじいちゃん!また、帰ってくるからお留守番しといてね』

「エル、藍子は何と言うとる?」 戸惑うエインサーク

「そ、そうですね。おじいちゃんの紋章があるから大丈夫!って言ってますよ」疲れ顔のエル

「よし、南に行くんじゃな!任しとけ!爺ちゃんがあんじょう しといたるさかいな」 エインサークはご機嫌さん。


「嵐は去ったかしら? 藍子の事になると人が変わるよね」 ベティの問いかけ

ブロロ『ごめんね、昔はあんなじゃ無かったのになぁ』 むかしを懐かしむピンキー

「しょうがないよ、やっと逢えた肉親でしょ?可愛い孫だしね」 苦笑いのエル

「エル君達の元の世界は家族の繋がりが強いんだね。 貴族の結婚で二度と家族と会えないとか普通だわ。私が薄情なのかしら?」 ベティが少し考える。

「元の世界でオレ達の地域では、貧困で亡くなる方はあまり居なかったし盗賊はまぁ居ないし、ましてや魔物や魔獣は存在してないし、病気や事故で亡くなる方が多かったよ。 犯罪は詐欺が多かったね。寿命も平均で70〜80歳くらいだったよ。オレ達は早かったけどね」 アハハと苦笑いのエル

「ふーん、そんな世界もあるんだね。  明日は予定通り買い物して、海までのルートも決めようよ」 感心しながらも話しを戻すベティ。

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