第36話 ケツ意
♢♢♢ 九十日目 王都脱出残り二日
「えっ、お給金まで頂けるんですか?!ほぇ?どう言う事」 驚きのバズ
「きっちりお仕事してね」 ニッコリベティ
「ハイっ、さしてもらいます。けど兄の治療代が、あんな酷い怪我が跡形もなくなるほどのお薬が一体おいくらするのか見当もつきませんが一生懸命働きますので…」 バズ
「薬草代は要らないんだって」 ジョン
「何言ってんだよ兄貴。普通のポーションだって一時間以内に飲まないと傷口が塞がらないんだぜ傷が深いと何回も飲む事になるし、それにポーションでは傷口は消えないんだ。兄貴の傷は時間も経ってるし、それこそ噂に聞く霊草が…あっ」 青い顔のバズ
ジョンに向いていたバズの顔がこちらに、ゆっくりゆっくり振り向く
オレたちは黙って皆で頷く。
「すぐに吐き出させますので、何卒何卒」 バズが慌て出す。
「落ち着け」 とジョンは言うが
「兄貴わかってるのか隣国で霊草なる物が発見されて、持ってきた者は貴族にすらなれるらしいぞ。あらゆる傷を治し若返る幻の薬草なんだぞ。払えない。いっそ死んで詫びるか」 バズは顔面蒼白で兄ジョンに詰め寄る。
「バズ、死んだら薬草が効かないからダメだな。しかし良く知ってるな」 感心するシャム
「俺…僕が入ってた現場が貴族さまの屋敷で話しているのが聴こえるんだ、です。それに狩猟組合に出入りしている冒険者たちの間で今一番の話題らしいです、食堂で良く聞く話題です。組合の掲示板に載っているから本当だと、貴族席かお金かどちらか選べるって書かれてありました」 バズ
「見に行ったのか?」 シャム
「はい、薬草で上手くいけば家が買えるんです、家族一緒が良いじゃないですか?その時は兄貴の足も治ってるなんて思いませんから、ケリーも寒い想いをしていないかと思い、早くお金になる情報を聴いてたんです。見習いが終われば妹くらいは宿舎に入れられるんですけど」 バズ
「それが判っているなら、他言無用だ。 それにもう使っちまったし、それに見合う仕事をしてくれよ、バズ」 シャム
「なんでもします。言ってください」 真剣なバズ
「仕事の内容は言った通りだ、貴族相手の商売だが窓口は侯爵家に任せるし、規格通りに作るのと特別仕立てとあるからな。失敗は無しだ。
仕上げの塗りがどうするか?納期と価格が変わるからな」 シャム
「俺、僕は左官見習いで仕事をしてました、役に立ちますか? 漆喰塗りと城壁のちょっとした地図とかも描いてました」バズ
「よし、バズに塗らそう。出来るな!」 シャム
「精一杯頑張ります」 バズ
朝ご飯が冷めるくらい時間が掛かったが落ち着いた様で何よりだ。
今日も朝から少し勉強会を行う。仕事で使う言葉と単語の書き取り、ケリーはお菓子を買う為に一生懸命になっていて、バズは前職で仕事で使う単語やお店の仕入れに使う単語を覚えていた。ジョンは頑張ってはいる。帳簿はバズに任すかな。
昼前から製品の組み立てを行いバズに段取りを覚えてもらい仕上げにタールで黒く塗る。二度三度と塗り重ねて艶と深味を出す。サンプルに塗らせてみたが鉋でしっかり木の肌が出ている所と木の肌が荒れている所で艶が変わってくる。
材料によって仕上がりが変わるので部品にした時点で、普通素材と高級素材とに分けて管理し、価格も変えること。を決めていく。
そうこうしてるうちに来客の知らせが来た。来客は生地問屋のココさんで受注の窓口を担ってもらう執事マイコーと一緒に対応する。
「ご無沙汰してますココさん、今日はよろしく」 貴族っぽい対応のベティ
「こちらこそよろしくねベティさん」 軽くあしらうココ
オホン、執事が咳払いする。
「ココさん、我々は侯爵家を代表して対応しております。御理解頂いていますか?今日はこれまでですね」 見下す執事マイコー
「ちょっとお待ちください、彼女とは知り合いよ。それに彼女は今は貴族ではないでしょ」 戸惑うココ
「スタルーン男爵の件もありますが組合長がどうしてもと仰るのでお話しをさしてもらうのです。それを踏まえておいでか?」 執事マイコー
「ちょっと待ってください」 慌てるココ
「(パンパン)ココさんはお帰りだ。 それでは参りましょうベティ様エル様」 柏手を打ち、容赦無く帰らす執事マイコー
「よかったのかしら?ココさん」 ベティも困惑
「私共も取り扱いは少量ですが生地の扱いが御座いますし、他国と取り引きしている中に生地が御座いました。まだ確認中ですが侯爵家が窓口を担っても良いのです」 執事マイコー
「少しかわいそうだね」 エル
「そんな事は御座いません。先に男爵側が木工職人に手を回してエル様の仕事を断る様に仕向けたのです。これは数名からの聴き取りでわかりました。そのケップと縁の深いココですから、致し方ありません」 執事マイコー
「そうなんですか、ココさんも大変そうですね」 他人事のエル
「取った取られたで大きくなった商会です。彼女が潰した商会も少なくありませんよ」 執事マイコー
「 …少し砕けた言い方にはなりますが、貴族と言う商売も舐められたままでは立ち行きません。温厚なキリング様が問屋街の結界の解除をお願いされませんでしょ?大臣クラスの方からの問い掛けをのらりくらりと交わしておいでです。 知っておいででしょうが監視は付けております。問屋街の様なトラブルなら侯爵家の看板は有効ですよ」 執事マイコー
「なるほど、それでキリング様は早くいらしたのね」 納得のベティ
「先日のデモンストレーションも有益だと思います。狙われる危険は高まりましたがそれ以上に多家に対して有益です。エインサーク様から四組の間者とキリング様から王家の噂としてお聴きしましたので四組の間者を捕らえたい所ではありますが急ぎませんし。 薬草は最後の一本を使ったのをキリング様に伝えておいででした。キリング様は友人の近衛隊の者にだけ話しをされるので間者の増減を監視ですね」 執事マイコー
「はー、オレの知らぬ所で繰り広げられる情報戦!なんかワクワ‥」 エル
「しねーだろ、エルは気づかねーし」 シャム
「おっとシャム様おられましたか。お疲れ様に御座います」 執事マイコーはシャムに対してもお辞儀する。
夕刻前に一通の手紙が届いた。ココからだった。
先程の謝罪からはじまり敵対する意思も気持ちも無い事、侯爵家を敵に回すような事は無い事、ケップ男爵の凶行には驚き賛同は出来ないが、今までの仮りが有り問屋街の結界の世話をしている事、お店の存続には変えられない事、信用と信頼が無くなった事も理解している、信頼回復に努める事が書かれていた。 出来る事なら、初めに会った時の様な気持ちで商人として接していきたい事。 わたしの一番大事なのは使用人の安全と安心。路頭に迷わす訳にはいかない。と締めくくられていた。
ベティとエルはココの手紙を読みつつ「ココさんも被害者」的に思っている。
実際にココから何かをされた、言われた。事は無い。
生地についてあれこれ意見を交わしこれからの展望を語り仮契約まで行っている。
エル達は担当執事マイコーと面談しココさんとは良好な商売が出来るのではと考えている事を話して理解してもらう。
ココとのやり取りはマイコーが行いベティとエルが対応しないならと言う条件付きで了承を得た。
~生地問屋ココ~
「はぁ〜、上手くいかないわね。」 ココは机に突っ伏しぼやく。
「しかし、ケップ男爵はどうしたんでしょうね、あれほど会えるのを楽しみにされていたのに何かスイッチが入った様に変わられて」 秘書ジニー
「それがわからないのよ?部下の暴走も今回に限らず以前にも有ったのよ」 ココ
「ライムグリン侯爵家の執事の方がお見えです」 店番の者から伝言がきた
「えっ、すぐにお通ししてちょうだい」 ココは慌てて手櫛で整え出迎え。
コンコンコン、
「入ってもらって」 ココ
「失礼する」 マイコー執事
「先程は御無礼な態度になり失礼致しました」 立ち上がり深々とお辞儀して謝罪するココ
「いや、結構。エル様とベティ様はココさんと取り引きを希望されています。 しかし、侯爵家として今のままでは取り引き出来ません。お分かりですね」 マイコー執事
「はい、ケップ男爵との繋がりですね…どの様な対応がお望みですか?」 ココ
「我が侯爵家の傘下に入ることが条件になります。当然ケップ男爵との繋がりは破棄していただき、取引先は見直しになります。我らは無理にお願いする事はありません」 マイコー執事
「事業を買い取る。 と言う事でしょうか?その場合使用人はどうなりますか?路頭に迷わす訳にはいきません」 真剣ココ
「概ねその理解で結構です。 使用人で希望者は残って頂いて結構です。待遇面は過去半年の平均を基準に見直します。本社を王都に移転しオレンジベリーは支店となります。他に希望はありますか?」 マイコー執事
「使用人のほとんどが女性で幹部も女性です。こちらに予定されている方は女性でしょうか?取引先の店主も女性が多いので男性よりも女性にして頂きたい。あとオレンジベリーのお店はわたしの自宅の土地にありますので賃貸として貸して、わたしでは無く子供達と契約をお願いしたい」 ココ
「会長!」 黙って聞いていた秘書ジニーもつい口を挟んでしまう。
「良いのよ、潮時だわ。秘書三年目、ジニーにもお世話になったわね。わたしは楽しかったのよ。あとは、ゆっくり隠居させてもらうわ。ペットでも飼ってみようかしら?ねぇジニー犬と猫どちらが良いかしら?」 優しげに微笑むココ
「会長ー!会長が辞めるならわたしも、」 泣き出すジニー
「少し宜しいですか。私はココさんとお取り引きと申しましたよ。ココさんが会社を去られますと契約不履行となりますよ」 マイコー執事
「えっどう言う事?買い取られるのよね?前の代表が居たらダメじゃない」 困惑のココ
「端的に言いますと、オーナーチェンジとお考え下さい。今現在の敵対勢力はスタルーン男爵家ですね、ただ貴族家との取り引きにはライムグリン家の判断を仰いで頂きたい。あとは、通常通り営業してもらいます。
今ココさんは会長職ですね、それが社長に降格、社長の御子息は部長にでも降格ですと人事異動が少なくて済みます。あぁ、ジニーさんは社長秘書に降格ですかね」 マイコー執事
「がーん!使用人で私だけが降格‥」 今は会長秘書ジニーは頭を抱えている
「それだとそちらに旨みがありませんよ?オーナーは侯爵様ですよね?」 ココ困惑
「御当主様はお忙しい身ですので先代当主のエインサーク様がオーナーとなります。すでに先日商業組合の組合員として登録もしております。大まかにはこの様な内容になります。
エル様とベティ様が出掛けられる前に決めてしまいたいのであまり思案する時間はありませんがいかがされますか?宜しければお話しを進めて参ります」 マイコー執事
「えっあの子達はまた移動するんですか?」 おおきなオメメで驚くココ
「そう聞いています」 マイコー執事
「マイコー執事様、明日の朝そちらに伺います、あの子達と話しがしたいのです、そしてその場で決めます」 決意のココ
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