第34話 職人育成
侯爵家の門を潜り抜け宿舎に着く。
「すいません、ここは、貴族様の御屋敷でございますか?」 恐る恐るのジョン
「そうね、離れの使用人宿舎を借りてるのよ」 ベティ
「あのう、ベティ様もエル様もお貴族様でしょうか?」 額に光るものが流れるジョン
「今は違うわ」 ニッコリベティ
「YES ma'am」 咄嗟に出てしまったが、使い方を間違っているジョン
緊張して何も言わないジョンに、物珍しく辺りをキョロキョロとするケリー。
この日は早めの夕食のあと仕事の内容についてと、これからについてをざっくりと話しておいた。クライアントと話す事は基本無い。価格や交渉毎は組合長と侯爵家の方に任せる格好だ。
「先ずは脚をどうにかしないとね。例の薬草でいけそうかな?」 エル
「まだあったのね」 ベティ
「無いってことにしてるよ。実際に人数分しか残ってない。知らない人より仲間が大事だ」 エル
「デモンストレーションは要るよね。私達の価値を上げる為にね」 ベティ
「見届け人ですか?」 エル
「先ずはエインサーク様、交渉事を担当してくれる執事さん。 彼らの邸への出入りの許可もお願いしないといけないわ」 ベティ
「先にアポイントを取らないと。 ビッグ!お願い」 エル
「なんだ又なにかやらかす気か?」すぐにやって来て楽しげなエインサーク
「デモンストレーションです。結果は明日になりますけどね」 エル
「薬草による治癒実験です。
ロールタープの製作をお願いする彼の治癒実験です。実験前の怪我の具合を見て頂き、明日の結果と見比べてもらいたいのです。それと彼らの兄妹の侯爵家の出入りの許可をお願い致します」 ベティ
「何の為のデモンストレーションなんだ?意味があるのか?」 エインサーク
「我らの有用性、我らに敵対あるいは、排除すれば手に入らない物がある事を、エインサーク様と彼等に見てもらおうかと」 ベティが指差す先に半透明の小さな箱がいくつか転がっていた。
「聴きたくは無いが、聞かないといけないのだろう。
何なのだあの箱は?」 嫌そうな声のエインサーク
「良くぞ聞いて下さりました。モグの結界に阻まれ邸の外からこちらを監視していた者達、間者でしょうかね? それを小さな結界に個別にまとめてあります。我らは棺桶結界と申しております」 饒舌なエルの口はモゴモゴしてビッグはニヤケ顔
ヒヒーン『持って来たよ』ブロロ!!ピンキーとキャッパオは新たな箱を引きずって来た、棺桶結界を。
そして、例の薬草の食む食むタイムが始まる。
ジョンは、脚を痛めた苦痛に比べたら苦味なんぞ取るに足らないと、豪語していた。
彼は今、闘っている己と。
食む食むと食めば涎が垂れるが、ベティ隊長は許さない。顎をクィッと上げ薬効成分の唾液を飲ませる。又、食む食む食むと食めば顎をクィッと上げ薬効成分を飲まされる。永遠とも取れる行いに観客からは悲壮な声が漏れ聞こえる。
実時間にして約10分。ジョン時間では計り知れない時間の経過だったろう、彼の意識が無いから。彼は最後にちから尽きた。
ベティ隊長は観客に手を広げ腰を折り礼をすると退場し、代わりにエルがジョンに少量の水を口に運び飲ます。座らしていた椅子を伸ばして簡易ベッドに変形さすと観客の前にジョンを運び確認させた。
息はあり、意識が無いだけだと。明朝に又、確認願いたいと申し渡した。
♢♢♢八十八日目 王都脱出残り四日
~ジョンの目覚め~
ジョンは清々しい目覚めを体験した。自然に目が覚め、瞼が重く無い、いや軽い。眠気けも気にならないくらい快適。ただ良く眠れたにしては爽やか爽快だ。あぁこの感覚が爽快感か初めての感覚に戸惑うジョン。
目はぱっちり開いて知らないベッドに寝ていた?前日は何をしていた?ここは?隣のベッドには可愛い妹の顔がスヤスヤ寝ている。 なぜ?どうした?
親が亡くなってからも借りていた借家が俺の怪我で出て行く羽目になり、二つ下の弟は住み込みの仕事に就いた。妹は俺と一緒にスラムに流れ着いた。空き家を見つけ細々と暮らす事二月。少年に声を掛けられ、綺麗なお姉さんに仕事の依頼を受けた。
貴族の邸宅に連れて来られて仕事の話しも聞いた。足が治るかもしれないがチャレンジしてみるかどうかを問われ即答する。治したい!ただこの上なく苦いと聴く。足の痛みに比べたら苦味などあって無いに等しいと言ってやった。
あれっ、足が動い て る ?んっ!「動いてるー!足、俺の足があるー!痛くも無い。足の指もちゃんと曲がるし、開くし、治ってるしー! ーーー」 「うぉー!」
「お兄ちゃん、うるさい。まだ夜明けすぐ出し、ベティさんやエル君に迷惑だよ」ケリーは冷静に、ベティとエルを逸早く信じた彼女はこの奇跡の様な出来事も必然なのだろう。
ジョンが目覚ましがわりに騒いでたので、そそくさと朝の用意をしグレッグを連れて侯爵家の森に入る。獲物はグレッグが探してくれるので索敵は上達しない模様、弓の技術は辛うじて兎には当たる程度で鏃によっては刺さらない事もあるくらいで、一矢では仕留められず二矢、三矢でやっとの状態。
穴を掘り、血抜きして臓物を取ると、グレッグは喜びの舞バサバサをする。グレッグが臓物を啄む間に皮を剥ぐこれがなかなが難しい分厚いと皮に脂と身が残り、薄いと皮が破れて価値が無くなる。ちょうど良い塩梅は難しい。
グレッグの朝ご飯が終わる頃、ベティさんがオレたち向けの朝ご飯を用意してくれる。なぜか最近はベティさん自らの手でスープを作ってくれる、味にばらつきはあるものの手料理って言うのは嬉しいものである。
朝ご飯の前にジョンの体の状態を診て確認したあとエインサークにアポイントを取りにビッグが走る。俺が戻るまで食べるのは待ってくれと、それなら食べた後に行けば良いのにと思うがすでに走り去っていた。
皆んなで食事が終わった後に報告会が開かれる事になったと連絡が来た。
ジョンはいつになく饒舌で聴いてもいないのにペラペラと話していた。ケリーは邪魔くさそうに見つめていた。
ジョンには必要以上に答えるなと教えておく。情報は小出しにするから価値があると。 そして、報告会へ。
「それでは昨日の結果を見ていただき、判断してもらいたい。ジョンこちらに」 ベティ
ゆっくり歩くジョンは足を怪我していたとは思えないほどのランウェイ気取りの足取りで歩き顔はニヤついている。 エインサークの前で屈伸し、靴を脱ぎ足の指も出して握ったり広げてみたり自慢げにしている。
同じように棺桶結界に入居中の彼等にも見せると一人だけ驚いた者がいた。彼は鑑定などの特殊技能持ちと思われる。
棺桶結界の入居者は先に猿轡の結界を掛けてから棺桶結界に入居して頂いたので奥歯に仕込む様な自決スイッチは使えない。そしてエインサークの手の者に特徴を観察されている。似顔絵に始まり眼の色、身長や結界込みの体重に結界の外からしか触れないがいろいろ計測されている。クライアントの元に戻ったら次は侯爵家には来ないだろう。
そんな報告会も終わり、棺桶結界を鹵獲した位置に戻してから一斉に結界を解除し放った。途端に散り散りに消えて行った。 エインサークも驚きを隠せない。馬車の装備品を売るよりこの薬草を売って稼げと。
けれど、残念最後の一本ですよと報告すると。なんて勿体無い事をと嘆いていた。
画して[食む食むタイムデモンストレーション]は閉幕した。
催し物が終わりやっと職人修行が開始される。
ジョンには職人修行と言ってはいるが、技能的に教えられる事は無く、特許の基準に製作していく、図面を説明し寸法通りに材木を切り進める後は組み付け。金具などは金属を溶かして型に入れる鋳物が主流でそれも習得してもらう。
ケリーは布地の縫製を主に担当してもらう。布地にアイロンでプレスして型を付けてから縫い付ける。仕上がりは木の加工と違い誤魔化しが効かないのでただひたすら練習してもらう。
説明して昼食後に実際に作業で行ってもらう。ジョンはエルよりも材木の切断面が綺麗で問題なし、ただこの世界は木の反りに対して寛容な為、仕上がりに気を付けてもらう。
ケリーはまだ仕上がりで合格点には届かず練習してもらう。 試しにシニアメイドに縫ってもらったら余裕で合格点。内職の届出をキャサリンに頼もうと心に誓う。
夕食前まで作業し夕食後も又、作業が待っている。
翌日からは午前中は先のロジーとエリスに混じり読み書き計算を習得してもらう。午後から各自作業をしてもらう流れを話した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます