第31話 人探し
♢♢♢ 八十五日目
~商業組合応接室~
「‥今回は大変失礼しました。私共としましても断れない規則がありまして、当組合は爵位による圧力が基本かかりません。ただし、組合の貢献度合いによる圧力には抗えないのです。端的に言えば高額納税者ですね。国にも組合にも税金の内からお給金をいただく為、無視はできません。上位高額納税者にはそれなりの特典があります。今回はそれを行使されたのでお断りが出来ず申し訳ありません。」 汗かきな組合長
「説明を受ければ、しょうがない事でその件は承知しました。ケップさんが武力行使とは思いもしませんでしたよ。結局は女、子供とたかを括っていたのかしら。それで、生地問屋のココさんとの契約はこちらの都合で破棄になりますか?」 呆れ顔のベティ
「ケップさんがこちらに寄られた時も、新しい原石を見つけたと仰っていたので、友好的に進むと思っておりました。 それとココさんにはもう一度こちらからお聞きします。継続か破棄か。もし万が一破棄の場合は…」 残念そうな組合長
「もう一週間ですかね問屋街封鎖。 こんな事ならさっさと海に行けば良かったです。宿舎に待機と言う名の監禁ですよ。 お陰で狩りは多少当たる様にはなりましたけど」 エル
「そうね、エル君。 旅人に戻る?」 問い掛けのベティ
「えっ、良いんですか!出来るなら戻りたいです」 乗り気なエル
「え、えぇー王都を出る気ですか?」 驚きの組合長
「期間を決めましょう一週間後に。 そして職人はこちらで探して教える。その子達の管理は組合と侯爵家にしようかしら。申請の内容は大方出来てるわ。今から提出して後日確認するわ。 ココさんと継続になっても価格が吊り上げられているなら破棄します。 今から使える場所はあるかしら?貸工房とか? それと孤児院ってこの王都にありますか?」 にっこりベティ
「職人って孤児を雇われるんですか? あんな得体の知れない者を?」 嫌悪な組合長
「私達が教えて嫌がるようなら雇わないわ」 ベティ
孤児院はギャング組織の人身売買の隠れ蓑で港の端にあるが、誰も実情は知らない。
探すならスラム街の手前側、奥は縄張り争いがあり近寄らない方がいい。組合長情報。
でっ、スラムに来ました。
「大人はダメね。 子供でヤル気のある子は居るかな? んっ、あの帽子の子は?髪が肩くらいの男の子、あの子ならエル君くらいじゃない?」 ベティ
「ねぇ君、人を探しているんだけど、教えてくれない?」 エル
「(手)」 帽子の子
ほいっと握手するエル
「ちげーよ、人に物頼むのに手ー出したら金だろ!マネーだよマネー!」 手を振り解き金をせびる帽子の子
「あぁ、そう言う事、いくら?」 エル
「‥金貨だ」 オドオドとする帽子の子
「ダメよ」 ベティが金貨を出そうとするエルを止める。
「貴女女の子なのね、仕事してみない、三食寝床付きで一週間。そうねやり切れば金貨一枚。」 ベティ
「上手いこと言って売り飛ばすんだろ。割に合わん」 帽子の子
「じゃ今日一日体験版でどう?」 ベティ
「もう昼だぜいくらくれるんだ」 帽子の子
「銅貨二枚にご飯を付けるわ」 ベティ
「銅貨三枚」 ドキドキ帽子の子
「なら無しね、行こうエル君」 ベティ
「待てっ、わかった銅貨二枚と飯だ大盛りでも良いか?」 帽子の子
「良いけど誰か居るの?」 ベティ
「妹が居る」 オドオド帽子の子
「じゃあ一緒に来る? 雑用でもいいなら妹さんも」 ベティ
「良いのか、呼んでくる。ちょっとだけ待ってくれ」 走って行く帽子の子
「ベティさん、慣れてますね」 感心するエル
手を繋いで走って来る二人
「‥あまり聴きたくないけど訳ありね貴女達。馬車に乗って」 ベティ
「汚れるからダメだ」 帽子の子
「じゃ御者台ね二人とも、手綱は膝の上に置きなさい。勝手に走るから。キャッパオ、ピンキー戻りましょう」 ベティ
~馬車の中では~
「ベティさんすごいですね、なんでそんなにわかるんですか」 エル
「それよりあのままの格好では屋敷は不味いわね途中で洗う?着替えが要るわね、
キャッパオ止まって!」 ベティ
「古着屋があったわ、少し待ってて」 ベティ
エルも外に出て帽子の子を見ると少し驚いている。
「ピンキー、川があったろ少し洗おうか」
ブロロ『この子達を洗うんだね、了解』
着替えと手拭いを買って戻って来たベティにエルが
「出ましょうなんか後ろに男が着いてきてます。 ピンキーに川に向かう様に言いましたよ」
「スラム絡みかな、賊ならグレッグに任す?」 ベティ
川原に着いて馬車からピンキーとキャッパオを外す、グレッグも放つシャムはルーフで日向ぼっこビッグは着いて来る
「後ろの連中は馬車狙いか?この子達とコラボ中か?どっちだろうな」 楽しそうなビッグ
「君たち名前は」 エル
「俺はアリー、妹はマリーだ」 帽子の子アリー
「その身なりでは宿舎に入れないわ。先に洗うわね。それで後ろの男達は護衛かしら?」 ベティ
「後ろの男? あっ、代表だ あたし達のシマの代表だよ妹をみててくれてる」帽子の子
「貴女も人が良いみたいね。 貴女を逃さない為の人質じゃ無いかしら」 ベティ
「そんな事は」 アリーの見てる前で馬車を襲おうとしている三人組の男達
「後ニ週で売れるんだよ勝手に人の物取っていったらダメだよお姉さん、親に教わらなかったかい。ついでに馬車も置いていきなよ!健気に髪を切って男の子の真似なんぞするから売り先が変わっちまってよ経費が掛かってんだよ」 三人組の男達
「そんな、 嘘だったのか!」 驚くアリー
「なに今更?ダァーハッハッ、新品好きが居るんだ。他の者にも手を出させなかったろ俺たちの優しさよ、価値が下がるからな。その間の奴らの華代もバカにならねえし、それはそこのお姉さんに頑張ってもらうわ。ダァーハッハッハッ。
殺すなよお前ら、商品になるくらいに痛め付けろ」 三人組の男達
「……」 絶句するアリー
「グレッグ!ファイヤー!ビッグ黒い結界」 エル
「エル君…」 ベティ
「先に二人を洗って下さい俺では洗えませんし」 冷静なエル
「シャム、他には居る?ビッグは?」警戒するエル
「他は居ないんじゃないか? これで居たら俺たちでなんとか出来る相手じゃないぜ、エル」 シャム
馬車内ではベティが洗い終わった濃い金髪の少女二人に聴き取りしている
「いきなりで、大変ね。仕事だけ覚えて欲しかったんだけど、そう言う訳にもいかないわね。アリーとマリー、スラム街に戻らないなら名前を変えなさい、偽名でしよ。そのままでは危ないの。爵位や家名は教えなくて良い、なにが有ったかだけを教えて」 ベティ
「両親が事業に失敗して借金が膨らんだと言ってました。 ある日『迎えが来たよ』って馬車に乗せられて『二人は先に行きなさい』と言われて知らない貴族の家に着きました。同じ様な歳の子たちが居て体に傷がいっぱいあって怖くなってその晩に妹を連れて抜け出したんです。さっきの代表が子供達を保護しているから大丈夫って言ってくれて、妹を預けて仕事をしてました。男の子の格好だと賃金が良くてそれで」 アリーはゆっくり答えてくれた
「これは正直に答えて欲しいのだけど貴女達の元住んでいた所はこのフラッツの王都?」 ベティ
「はい。もっと東の端です」 アリー
「仕事は覚える気はあるかしら?私達は一週間後にこの街を出る予定なの」 ベティ
「私達も連れて行ってもらえませんか?」懇願するアリー
「私達は旅人で商人なの連れては行けないわ」 ベティ
「可哀想じゃないですか」 エル
「エル君、貴方が彼女達を守れますか? グレッグにも、ビッグにも、シャム様にも頼らずに貴方自身が護らないと攫われてしまいます」 厳しいベティ
「まだ、 無理 です」 悔しそうなエル
「そうね、もっと強くなりなさい」 優しい笑みのベティ
「先代に預けようと思います」 ベティ
ヒヒーン『賛成ー!』
「良い返事かしら?」 ベティ問いにエルが はい と答える。
~宿舎に戻ったエル達一行~
エインサークにアポ取りしようとふと下を見たベティ、ビッグと目が合う。照れるビッグ。
「ビッグ、違うから。 エインサーク様にアポ取りお願いね」 ベティ
「YES ma'am」 ビッグ隊員誕生
暫くもしない内に、ビッグがエインサークを連れて戻ってきた。
「(何、暇なの)すみません、お呼びだてするような形になりまして‥」 ベティ
「藍子出て行くのか、何か気に入らない事でもあったか‥」 泣きそうなエインサーク
「(そっちね)ご迷惑をかけてばかりで」 ベティ
ブロロ『いろいろあるね、ありすぎる』
「ピンキーそれは言えない」 困るエル
エインサークが落ち着いた頃
「‥この訳あり二人を住み込みで雇えか? ふぅ、上はアリーかな?読み書きはどの段階だ?下のマリーは? 歳は?」エインサーク
「はい、二段が終わり三段目になります。 歳は10歳、今年11歳になります」 緊張ぎみのアリー
「はい、一段の初めです。6歳です」 なぜか笑顔のマリー
「構わんが、幾つか条件は付く。先ずは名前じゃな、偽名と言っても愛称じゃすぐに気付く、下町庶民の名を名乗りなさい。例えば、ミリーとか、ルーとかな。 ここは侯爵家じゃし知識と作法も上級でなくてはならん、途中でやめる事は許されん。仮に両親や親族に声を掛けられても違うと言え。これは絶対だ。 いいね。 あっ、モグ!
キャサリンを呼んで来ておくれ。今の決定権はキャサリンなんじゃ。あとからだと怒られる。早く頼むぞモグ!」 エインサーク
暫しあと
「何ですかいきなり呼び出すなど、困った方だわ」 キャサリン
「ベティすまんが説明を頼めるか」 エインサーク
ーーー
ーー
「‥そうね、構いませんわ。これもなにかの縁でしょう。ねっシャム様」 キラキラな目を向けるキャサリン
「あの、本当に雇っていただいてもよろしいのでしょうか?」 心配そうなアリー
「良いですか、知識も作法も気遣いも気持ちも上級でなくてはいけません甘くはありませんよメイドの道は。先に名前を決めてしまいましょう。明日の朝には紹介して躾に入ります。その為には呼び名が要りましょう。
二人は姉妹ですが躾はそれぞれ別々にします。部屋は一つでいいですね。朝は日の出と共に起き、夕方迄働いてもらいます。 真実を知るものは少ない方がいいわ。今この場で名を決めます」 キャサリン
「…私は ロジー にしたいと思います」 姉ロジー決定
「いい名ね、ロジー宜しくね♪」 キャサリン
「私はエリザベスがいいです」 妹
「いい名だけど、庶民としてはダメよ、そうねエリスはどう?」 キャサリン
「可愛いです。エリスにします」 妹エリス決定
「エリス宜しくね♪」 キャサリン
「ロジーにエリス、今日はここでゆっくり過ごして明日の朝に離れにおいでなさい。私の紹介とします。叔母と呼びなさい。わかりましたね」 キャサリン
「かしこまりました、叔母様」 姉ロジー
「かしこまりまりした、叔母様」 少し舌ったらずの妹エリス
「よろしい」 にこっとキャサリン
「何か疲れました…」 脱力系少年エル
「本当疲れたわ…」 脱力系ベティ
「職人を 取られたな」 冷静系シャム
「「うぉー何てこったー」」 二人の絶叫とも言える声がこだまする。
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