第29話 あの人

♢♢♢ 七十七日目 


朝からココの生地問屋に道具を持ってやって来た一行プラスわんこ。

昨日は宿舎に帰ってからエインサークに馬車の大きさを測る許可をもらいロールタープの取り付け許可と紋章の使用許可、これが一番大事。 でっ、お昼のひと時お茶会仕様にする事が決まる。 一見陣幕の様でもある。


「おはようございます。今日からお世話になります」 エル

「おはよう御座います。今日から場所をお借りします。少しですが皆様でお召し上がり下さい」 昨日のお茶菓子を追加で買っていた、気の利くベティ

「まぁ、組合に出ていたやつね。美味しかったわね」 にこにこココ

「場所はここで足りるかしら?狭かったら言ってね。それと紋章よね。信じてないわけではないけど、本当だったんだね」 疲れ顔のココ

「生地はシルクは無しで、薄めで軽い防水で構いません。 今回のロールタープは木陰の様な心地良さを、女性でも簡単設営これが目標です。 いつものメイドさんが簡単に天幕を設営してお茶を嗜む。良くないですか! 突然のスコールくらいは大丈夫ですか? 陣幕の様に紋章を入れてこれはサイドに左右と、ポールもピカピカにオイルで磨きます。ロープも綺麗な色付きは出来ませんか? 」案が次々と出て楽しいベティ

「良いわね!」 喜ぶココ

「しかし、これは取っ掛かりに過ぎません。 貴族のお茶会仕様もそうですが、私達が使っている野営仕様も次の段階で作ります、そして商売用にも。商売用には紋章の代わりに屋号を入れ、商品を並べるワゴンを支柱として使うと雨の日も移動店舗として使えます。新たな販売方法にもなると思います」 女商人ベティ

「そこまで考えているの?誰が上から見えるの?」感心ココ

「二階や三階のお客様に見えるでしょう。なので将来的に、貴族用、庶民用と分けてもロールタープとサイドカーテンの大きさは変えません。その代わり特注はやりましょう。 儲かりまっせ。 以前お話しした、ロング、ミディアム、ショートの縦幅に、伸び幅は馬車の横幅の150%としましょう。紋章や屋号は手前の100%で描いてもらいます、残りの50%は巻き取り幅になり隠れてしまい見えないからです」 ベティ

「これは貴女が考えたの?彼?」 ココ

「いえ、私達です」 自慢げなベティ

「!」 にっこりココ



~一方作業小屋にこもるエル~

エルは無言で木の反りの鉋を掛けて平らにしている。横には親方ピンキーが陣取っている。

ブロロ『板が悪いね、サイズも悪い、木の乾燥が甘いね、規格を決めたらそれに合わしてもらわないとね』

「そうだね、呪文で木の水分飛ばして欲しいよ」 切実なエル

「なんだ水の移動か、(コツン)ほれこれでどうだ」 自慢げなシャム

「シャムすげー!すげーよシャム!」 シャムを煽てるエル

「そっか、まぁこれくらい目をつぶっても出来るさ!」 照れるシャム

「戻す事も出来るの?」 不思議そうな目でシャムを見るエル

「水があればな!」 鼻にかけるシャム

「このお湯を木に含ませられたらすごいけれど、そこまではいくらシャムでも無理でしょ」 エル

「それこそなんの問題もないさ(コツン)」ホカホカの板の木になったのを自慢するシャム

「じゃあ、そのホカホカの板を結界で挟んで平らになんか出来ないんでしょ?」 エル

「俺の結界呪文で出来ないものはねーよ、見てろ(コツン)」 見てみろオーラを出すシャム

「わー、スッゲー、シャムはやっぱすげーぜ。でもその木の結界を張ったままこの熱い水までは移動できないっしょ」 エル

「水でもお湯でもあれば移動できるぜ、(コツン)ほれ」 シャム

「流石にすごいなシャム。おみそれしやした」 頭を下げるエルの前には真っ直ぐになった板がいっぱい。

体良く使われた事を知られたくないシャムにピンキーはヒヒンヒヒンと笑い転げる。


一人で作業をしているはずの少年が騒がしくしている、何事かとも思うが会長の客人でもあるし覗く訳にもいかず、危険になったら声掛けしようとメイド達は話し合っていた。


  *生地問屋ココの従業員は全てココのメイド扱いとされている。そう、ココは貴族のお嬢様だった。嫁ぎ先が商家だったのだ。

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