第27話 思惑



♢♢♢ 七十三日目 各々の思い



~フラッツ王国、王宮のとある執務室~


「ライムグリンの亡霊が動き出した?老ぼれがどうかしたのか?」 執務室主人Σ

「孫のキリングの話しですと、屋敷に探し人の客人が滞在して居るそうです」 使用人Φ

「先日の模擬戦も、客人が来て浮かれているのか?」 執務室主人Σ

「昨日に又動きがありましてエインサークが商人組合に登録したと。 理由は開示されていません。」 使用人Φ

「何をする気か?不審な動きがあれば知らせよ」 執務室主人Σ



~アネスト王国、某所私室~


「まだ見つからないの!いつまで掛かっているの?」 令嬢X

「すみません、お嬢様。ザクロ村での情報がありまして、生者が行き来でき無い場所に植っていると、最後の一本を例のスカーフェイスが使った様です。 商業組合のターロは真偽眼を持っていまして、顔の傷も日焼けや腕の切り傷も綺麗に消えていたそうです。そして最後の一本を使用した事も嘘の反応が無かったそうです。 ただ、現地の特定も出来ておりませんし、結界があるかどうかも分かっていません。 しかし、スカーフェイスと取り引きのある貴族夫人は霊草の調査依頼を出していたようです。そちらには間者を潜らせています、暫くお待ちを」オールバック執事の男の娘

「もういいわ、早くしてちょうだい」 パシンと扇子をたたむ令嬢X



~ケップ男爵~


ゆっくり進む牛車に乗り牛四郎に話しかける。

「牛四郎よ王都は遠いなぁ、ぼちぼち行こう。少し先に川があったはずじゃそこで休憩するかね?」 ケップは牛の声は聴き取れないが気持ちが解る感じがしていた。

 *牛四郎とは、ケップ専用の牛車を引く四代目、水牛の様に角が横に伸びている。

 *ケップ専用牛車とは、(標準荷馬車=4ナンバー貨物車相当)より大きく(1ナンバー貨物車相当)なり貴族章が掲げてある。もちろん水牛が象られている。


ケップは王都遠征に際してエル達のタープを見て、幌布とポールとロープを用意していた、馬車とは移動速度が異なる為宿場町で泊まらずに野営をして、エル達のロールタープの便利さを実感していた。

村や町に寄った時に痛みにくい食糧を買い込み自炊する毎日に昔を思い出して楽しみにさえ感じていた。

遠目に城壁が見えてきた、城門まではまだ先だがあと二日いや、三日かかるか。先に宿で汗を流してから納品だ。これでも貴族の端くれ、身なりくらいは小綺麗に。 

ケップも商人で空荷で王都まで行かない。 王都で人気のある椅子セットを牛車に数セット積み込み問屋に納品する予定た。



~ココ‥はどこ~


「ジニーまだかしら?」 忙しないココ

「会長、さっきから何度目ですか?昨日の昼過ぎからの出発ですよ、これでもだいぶと進んでますよ。積荷も少なくして、これ以上は早くなりません。ウチの商会でモッくんフッくんコンビの馬なんですから」 ジニー

「あらっ、じゃあヤッくんはお留守番なの? ちょっとショックよ」 ヤッくん推しのココ

「あの三馬は仲が良いんですけどフッくんが休みがちでたまには走らせないとダメなんですよ(知らない内に、立髪にメッシュなんか入っているし)、それにヤッくんは以前朝の仕事が続いてましたから少し休息です。モッくんはマイペースですけど」 情報通のジニー


そんな、車内の会話も知らぬまま二頭は街道を駆けていく。



~宿舎のエル達~


「海に行けなくなりましたね。」 ショックを隠さないエル

「そうね、すぐには無理ね。 予備の竿とか擬似餌だっけ、作っとく?」 提案のベティ


「まさか。工房を立ち上げるとか、考えてなかったな。 自分の家も無いのに」 エル

「私も家は焼けちゃったしエル君に老後を見てもらうよ!」 早くも老後の心配をするベティ

「老後って、まだまだ若くて可愛いんだから、素敵な男性が来ますよ」 エル

「エル君がお嫁さんをもらうまでは頑張るよ。 私はもう歳だし行き遅れだよ、結婚はもう考えてないんだ。この歳だと、隠居の後妻とかだしね。隠居が亡くなれば放り出されるんだよ。そうかエル君がもらってくれる?」 ウインクベティ

「え、ま、まだ早いと言いますか、 もう少しお互いの その」 真っ赤なエル

「冗談よエル君」 エルのおでこにキスするベティ


今日一日使い物にならなくなったエル



♢♢♢ 七十四日目 退屈


「王都に来てからあまり自由が無いね」 エル

「寂しい、エル君。 移動の時とは違うものね、寄り道も無いし。」 ベティ

「ベティさん、今日から狩りに付いて行って良いですか?それで教えて欲しいんです。」 エル

「良いけど私も教えるほど上手くはないわよ。鳥や兎は剣では狩れないわ、少し離れた所から急所を狙う弓矢が一般的ね。エル君に合った弓を買いに行きましょう」 ベティ


やって来たのは武具屋マル。ベティが矢をここで購入している、他のお店よりも自分の狙った所に矢が集まるから。弓を見せてもらい弦を弾かせてもらうとベティが使っている物より弾きやすいのでお買い上げ、矢も練習用なので廉価版をお買い上げだ。

今日はそのまま城門を出て獲物を探す。いつもの侯爵家の裏山ばかりだと狩り尽くしそうなので外に出られる時は外で狩りをする様にしている。

門兵さんに聞くと、城門を背に百メートル行くと左手の獣道に冒険者がよく入って行くよと教えてもらった。今日はピンキー&キャッパオはお留守番なので脇道や獣道もズンズン進む。

少し入ったところでグレッグが翼で教えてくれる。オレにはサッパリ見えない、ベティは見えている様で教えてくれるが分からず、ここはベティ師匠に一射目を射てもらう。見事命中するが仕留めてはおらず逃げ惑う兎に、二射目はオレが射るが大分手前の地面に刺さっている。鮮烈デビューとはいかなかった。通算三射目はベティ師匠によるヘッドショットが決まり仕留めた。その場で血抜きを行い臓物も取ってしまい周りを警戒する。血抜きの時はそれほど思わなかったが臓物を取り除く時は込み上げてくるものがあった、なんとか抑えたが耐えるべき事だと思う、お肉を食べている身として。

グレッグは野生なのか臓物も主に肝臓を食べる、食べれない部位は血溜まりと一緒に埋めてしまう。

ベティが「グレッグが居ると獲物を選んでくれる」と言う、オレにはただ食べたい獲物を『狩れ』と言っている様にしか思えない。まぁ獲物を探す能力は高いから助かる。 感謝しております。

そして次の獲物を探す。 この日、三羽の兎を狩る事が出来た。

オレの矢が獲物を射る事は無かった…。


宿舎に戻ったオレは藁束で兎型の的を作りひたすら矢を射る。 距離感の問題か一射目を外しニ射か三射目は当たるようになって来た。しかし、初めの一射目が当たらないと獲物が逃げてしまい距離が変化してまた外す事になり、初めの一射がとても大切なのだ。



♢♢♢ 七十五日目 道ナカバ


~ココ‥はどこどこ~


「ジニーまだかしら?」 忙しないココ

「会長、今日はこれで四回目ですよ。ケップ様の事を耄碌爺い呼ばわり出来ませんよ」 辛口秘書ジニー

「まぁ、ひどいわジニーったら。シクシク、(チラッ)シクシク、(チラッ)」 嘘泣きココ

「それはティーンエイジがするから絵になるんです。淑女は致しません」 潔癖秘書ジニー

「あらっ、あの芋臭い牛車の横につけて」 何かを見つけたココ

「はい、あの紋章…」 何かを悟った秘書ジニー


「あらっ、お久しぶりですわ、男爵。良い御天気ですし御散歩日和です事。おほほっ」 扇子片手にココ

「ご無沙汰しておりますな、ココ嬢。 お急ぎで無いならお茶でもご一緒にいかがかな」 誘う気のないケップ

「先約も御座いまして、今回は御挨拶だけで。 御膳失礼致します」 にこやかココ

「それは残念。次回にでも」 やれやれケップ


「どう思うジニー?」 疑わしいココ

「今回の件との事ですか? 時間が合いませんね。 牛車なら馬車の倍ほど時間が掛かりますから別件かと」 冷静秘書ジニー

「そうね、表面的にはそうなのよね、何かもやもやするのよ‥」 もやもやココ

「会長の感覚は馬鹿に出来ませんから、警戒しておきましょう」 優秀秘書ジニー

「先を急いで。モッくんフッくん頑張って!」 黄色い声援ココ応援 ~~



~その頃ケップは~


「なんじゃココの奴め、普段は爵位なんぞ言いもせんのに、これ見よがしに言いよる。のう牛四郎よ。 

いや、待てよ。奴も何か手がかりを持っておるかもしれんな、いや、わざわざ声を掛けるくらいじゃぞ、怪しい。 追うぞ牛四郎よ全速力じゃ!」

モォーモモォー『驢馬っ子に会えそうか!居るんか!行くか王都に!本気出して歩くべ』


♪四代目Japan Soul Cow 心の雄叫びを脚に乗せて、進め牛四郎!  ~~



~狩り~

今日もベティ師匠に付いて狩りに出る。本番での矢はなかなか当たらず掠める程度、まだまだ使い物にはならないが実戦あるのみ。 山鳩は一射目を外すと飛び立ち二射目はより難しく逃げられ、兎は脚に一射目が当たらないと逃げられるすぐにベティ師匠が間髪入れずに二射目で仕留める。外してばかりいるとグレッグの機嫌が悪くなり獲物を探してくれなくなり狩りが困難になる。

今日は血抜きと解体も体験した。あの生温い感触に血の匂い、少し込み上げてくるのを抑えて、お肉の為に必死に捌く。皮に脂が残っていたり身が付いていたりと散々だが捌き切り枝肉になった。 ずっと触っていると体温で傷むので水に漬けたりして手を冷やしながらの作業は長かった。 ベティ師匠は簡単にサッサッとバラしていたが、これには数をこなしての経験らしい。 

捌くのが遅いとグレッグが頭をツンツンして催促するから必然早くなるとの事。 わかる気がします。

燃やされたくないもんね。

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