第26話 ショッピング


♢♢♢ 七十日目午後


げっそりと言う表現がぴったりくるシャムと現地案内人としてビッグも連れてこれから、ショッピングに向かう。


釣り道具を探す。 この世界にも釣り道具は存在している、流石にリールまでは無いが延べ竿に釣り針、釣り糸は綿や麻の素材からできた物だ。

しかし道具屋を回るも、竹に凧糸を付けただけ、そこそこの価格。 うん。作ろう。

釣り針だけは幾つか種類別大きさ別に買っておく。

竹を切る為の鋸、細工用のナイフ、釣り糸は綿の糸か麻の糸。あとは大事な釣り針、錘は適当な鉛にして、サビキ釣りみたいにカゴを使えば釣りやすいかな。

餌の虫は現地調達、練り餌も欲しい。マッシュポティトかな?オキアミとか欲しいな。 


必要な物を粗方揃えて買い物を終えグレッグの餌を獲りに行く為、城門出口に向かう。

城門の門兵が先日の模擬戦観戦者でベティを見て問いかけた。

「昨日の模擬戦の女性ですよね?

いや〜スカッとしましたよ。あいつらの隊は爵位で威張る奴が多くて、表立っては言えませんが応援してます。次に模擬戦する時も絶対応援しますから!」 第一ファン門兵

「あらっ、ありがと。 任しといて!」 安請け合いベティ


そんなやり取りをしながら城外へ。今日はフルメンバープラスワンワンコ!

細い竹のある場所だったり、鳥の羽根や昆虫の硬い羽だったりを採取していた、ベティはグレッグとキャッパオを連れて兎狙いでお願いしてある。

最近のベティは商人と言うより狩人の様である。必ず獲物を仕留めてくるのでグレッグはベティが大好きだ。いや、餌が大好きでベティも好き、そんな感じだ。

兎をバラして臓物をグレッグにやると、喜んですぐに食べる。食べ終わると、ベティに感謝を捧げる。血生臭い頭をベティにスリスリ。キャッパオが唯一苦手な匂い。それ故にキャッパオはベティを避ける。

ベティもやられっぱなしでは無い、やれば出来る子だ!  

グレッグが血生臭い頭スリスリのほんの一瞬前にタオルでグレッグを可愛がる。妙技[グレッグの頭スリスリ回避術]を習得した。

そして兎肉も手に入れた。


♢♢♢ 七十一日目 つくる


本日はクリエイティーブな一日になる予定。

昨日買い集めた物や採取してきた物を用いて新たな物を作る。

実に創作的、クリエイティーブな一日にする。


先ずはエルが手掛けるのは、赤いベレー帽に鳥の羽根で作った髭を装着し、吸えもしないパイプを咥える。これでクリエイティブがクリエイティーブに変わることだろう。 準備は整った。


竹竿チャレンジ! 

持ち運びを考え100cmの先と150cm二段の継竿、繋ぎ目は二段目の内側を削り差し込む。ハトメのリングと針金を使い糸を通すリングを数ヵ所付けて糸巻きのボビンを固定する。

イメージはフライフィッシングのリール。複雑な機能を付けずに、、付けられず、ただボビンにちっこいツマミを付けて回す。


擬似餌チャレンジ!

釣り針は大き目しか無く、木の板に挟みこみ形を決め釣り針の先が少し出る様に板を削り錘を少し足して松脂で引っ付けるそれを凧糸で巻いて固定する。擬似餌に先にリップを付ける。 乾燥したら形を整えてルアーのそれっぽく仕上げる。 一先ず完成。


擬似餌チャレンジパートトゥー!

釣り針に細かくした鳥の羽根を刺繍糸で巻き込んでいく、釣り針の軸が少し膨らんだら昆虫の硬いキラキラ羽根を巻き込んで留める。 上手く虫に見えてくれたら良いけど。


竹籠チャレンジ!

サビキ釣り用に餌を入れる小さいカゴを竹で編んでみる。竹を割って割って割って竹ひごを薄く薄く薄くして編み始めるも小さいのが技量不足で作れず。 チャレンジ失敗。

失敗は成功の母って誰が言ったのか知らないが、モンドリに変更。竹ひごを編んでそれっぽく仕上げて蓋に返しを付けて完成。


エルは一日中釣具を試行錯誤して作っていた。ピンキーは横から監督のように要所要所で声をかけ、ベティはグレッグの餌を探しに侯爵家の裏山に、キャッパオとシャムはエルを遠目に見ながら日向ぼっこ。 なんとものどかです。


♢♢♢ 七十二日目 予期せぬ


作ったら使ってみたくなるのは世の常。


釣り具も一応の完成をみた。海に行く為の情報が要る。情報と言えば商業組合。

で、商業組合に来た。 今回は組合の受付で事情を説明して馬車係に良く見てもらうようにお願いすると、畏まって対応してくれた。前回とは全く違う対応。どうしたのか聞くと、侯爵家の方ですねと聞かれ、違いますよと答えると。衛兵を呼ばれた。 まだ組合にも足を踏み入れてないのに。


衛兵の顔を見て見覚えが有るよな、無いよな、ごく普通の方だったが、衛兵が馬車を見て「ここに侯爵家の紋章が掲げてある、勝手に使ったのなら懲罰が有る」と言われてもだれも取り付けていないし、知らないが、今はそこに御世話になっている旨を話して確認する事になった。

暫くすると、先代侯爵エインサークさんが馬車で優雅に現れ、

「あれま、言ってなかったかの ウチの紋章は便利じゃぞ。ハッハッハッ」と笑い。衛兵に「わしの身内じゃ、手を出すなら心してかかれよ。」と謎の煽りを入れていた。

そして、ついでじゃからと組合にも付いてきた。 どのついで?


立派な応接室にお茶菓子付きで接待せれる中。先程の疑わしい目が引き攣った目に変わり…

エインサークさんは「王国内はワシが責任を持つから心配するな」と言うが、 いや、心配事しかありません。

海への準備で来たのがバレてわしを置いて行くのかとゴネだし一緒に行く羽目になった。

これには組合長も苦笑い。

タグを渡すと変化は無いが、組合の照合システムでライムグリン家との繋がりが判るようになったそうだ。その時に確認した馬車の装備品特許料の多さに頭痛がした。ベティへの借金は順調に返済中。

組合長が次に特許申請するならウチの組合でお願いします。って事なので、以前ケップさんに話をしていた事を組合長に話すと申請しましょう。と言う事になり、ベティさんと話しをまとめて申請。 他からの申請は無いので先ず問題無しと。


エインサークさんは「これがお前達の仕事なのかと?」御食事会の席で何度か話をしていたが藍子にしか興味が無かった事が判明した。そして、試作品を作る為の業者も探さないといけないなとベティさんと話していると、エインサークさんが侯爵家と敵対するとこはダメだと。

じゃあどこなら良いのよー。と叫びたいのを抑え、組合長に聞く。いや、選んでもらおう。エインサークさんの目の前で。

組合長が要望を聞くので「ヤル気がありフットワークの軽い方、口の軽い方はお断り」と言っておいた。あとは任そう。

エインサークさんにライムグリン家の系列の木工師はと聞くと「知らん」と一言。


「侯爵家に連なる方が良いのでは?」 ナイスなベティ

「それもそうか、ジイヤに聞くか」 エインサーク

「以前ケップさんと布屋のココさんとは話していたんですけど、ケップさんの部下の方に間者と思われたみたいでトラブりまして、ついでに南の木を調べるのと海の幸を食べる為に南下して来たんです」 困り顔のエル

「ケップさんはこの国でも上位の木工技術者ですよ、それを断ると次が探せませんよ」 組合長

「なぜトラブルんじゃ?」 エインサーク

「ウチのグレッグが監視者に火を吐いたんですよ、木材屋に火はご法度ですよね、それで間者認定されまして」 エル

「ケップさんの使用人でも上位の方からはあまり良い印象は無いですね。

呼ばれて出向いたのに、売り込みに近付いたと思われたのかな?」 ベティ

「確かに火はまずいのう。 ウチでは火を吐かんじゃろ。奴の背後からの無音の突撃はヤバイがの」 思い出したエインサーク

「その一件からグレッグに教えたんですよ火を使わない撃退方法を」 ベティ

「ここだけの話しにしておいて下さい」 冷や汗組合長


暫くすると息も切らせずジイヤが来た。

「ーーー、そうですね、侯爵家の建物管理を任せているのはゴンズですが、宜しいのですか?技術はあると思いますが彼は建物、依頼されるのは馬車の装備ですね」 ジイヤ

「軌道に乗ると忙しいようですが、侯爵家の管理と馬車の仕事と、あとは 僕のような子供やベティさんのように若い女性に使われるのに抵抗が無い人でないと教えられないですね」 エル

「そうね、プライドは大事だけれど強過ぎるとこの手の新しい仕事は出来ないわ。

ゴンズさんを知らないけれど、侯爵家の仕事を任される程の信用と信頼が有る方に、私達から意見されて、素直に聞くことが出来るかしら?」 ベティ

「そこが難しいですね職人は、

それとも立ち上げますか?」 組合長

「じゃ、作ろ。 ライムグリン家とは別口でワシ個人が出資する。木工職人以外はどの職人が要るのじゃ?」 即決のエインサーク

「生地屋さんと、金物加工屋さん。あとは仕上げをするなら塗装、漆塗りとか」 エル

「先程話に出た、生地問屋のココさんとは面識がお有りですか、でしたら一回ココさんにはお聴きするとして、木工職人と金属加工屋は個別にあたります。仕上げは当面外注でも良いのでは?」 組合長

「よし頼む。ワシも商業組合に登録せんとあかんの。早よ手続きせい。」 ワクワク顔のエインサーク

「は、はい。直ちに。」 ユッサユッサと走る組合長


「エインサーク様、こちらとこちらに本人のサインが必要です。あとの手続きはこちらで処理しておきます。」 出来る執事ジイヤ



~生地問屋ココ、オレンジベリー本社会長室~

「会長、王都の組合長から、ソクタツバードが届いています」 受付兼秘書ジニー

「何かあったかしら?申告で不備でもあった?まぁ良いわ。持ってきてジニー」 ココ


手紙の内容は挨拶から始まり、商人のベティとエルの事を知っているかと、王都で開業予定の工房があるので参画する意思があるか、有る場合も無い場合も速やかに返送されたし。尚、この件について他言無用を要求する。


「ジニー!王都の組合長にソクタツバードの返信よ、直ぐに王都に行きます。馬車の用意をお願い」 不敵な笑みのココ

「会長!何かあったんですか!」 慌てる受付秘書ジニー

「良い方の大変よ!忙しくなるわよー、例の防水生地の用意と、これがソクタツバードの手紙(参画するすぐ行く他所に回すなココ) そうだ王都支店にも連絡しといて当分私の拠点にするから。こっちは貴方に任すから。頼むわね」 ココ

「会長、あまりにも淡白な内容では?私は構いませんが。支店はメールバードにしますよ、通信費も馬鹿にできませんし。  馬車は玄関前に待機させておきます。メイドは誰を連れて行きますか?」 呆れるジニー


「誰が良いかしら?」 「婆やはどうですか?」 「馬車は嫌がらない?」 「年寄り扱いすると又怒りますよ」 「見習いのガビーはどう?経験を付けるの」 「多少の失敗はカバー出来ますか?」 「今回は無理ね」 「中堅‥」 「ジニー頼める?」 「えっ、私ですか 御手当次第です」 「二割増し」 「三割増し」 「二割二分」 「二割九分九厘」 「お昼ご飯」 「クッ、二割六分」 「デザート」 「ウゥ、二割四分」 「新しい味覚」 「ウグッ、二割三分」 「二割二分五厘決定!」 「…」



王都行きは、会長ココと食べ物に釣られた受付兼秘書ジニーに決まり。

オレンジベリー本社は会長の影武者も務めるムーン婆やが取り纏め。ムーンが一声掛けると皆が駆け足で行動する。

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