第24話 キャサリン

♢♢♢ 六十九日目夕刻 


「いやはや、愉快ユカイ。チャリオット隊長の顔を見れんかったんが残念じゃ、覗き込むのも失礼じゃし、写真機が欲しいの。 いやビデオカメラか。」 騎士団から屋敷に戻りエインサークは藍子達の宿舎に来ている。


「おじいちゃん、私そろそろ驢馬に戻ると思うの、おじいちゃんは動物の鳴き声の中から日本語は聴こえたことがあるかな?」 藍子


「ずっと藍子のまま居てくれるんじゃないのか?」 いきなり戸惑うエインサーク


「今までの様子だと、明日の朝には驢馬に戻っているよ。 おじいちゃんに逢えて良かった、ずっと一人だと思っていて、エルが助けてくれて。シャムやグレッグ、ベティにキャッパオ。皆んなが居たからおじいちゃんにも逢えた。 皆んなありがとう。」 謙虚な藍子。


「次はいつ逢えるんか?」 必死なエインサーク


「こればかりは分からない。でも、あの方に御祈りをしている限り。また逢えるよ。大丈夫」 藍子は強い


「あの方、とは誰なんだい。モグから聴いた事が無い」 エインサーク


「ビッグは修行者でここに配属されたから話せないんだよ。目的が違うと言うか。エルは特殊なんで、俺は初めからケット・シーとしてエルの案内人をしているんだ」 シャム


「シャムの修行者の使命は分からないけれど、俺は対象者に近づいてから適性があれば打ち明けて見届ける。今回は特殊の特殊だな。 シャムの言う通り、あの方はエルに寛大だと俺すら思うよ」  ビッグの話しに照れるエル。


「俺たち修行者同士で会うことはまず無い。エルはあの方の地に降り立ったんだ。藍子やじいさんみたいに転生で無くて転移に近いので特殊なんだ」 シャムは自慢げに話す


「あの地かぁ、木の実も懐かしいな、恋しいわ」 ビッグは遠い田舎を見るように目を細める


荷物をゴソゴソし始めるエルにシャムが「やめろ、出さなくていいから」

「あと少しだからね食べ切った方がいいよ、御祈りしていて痛まないかもしれないけどあと10粒のブルーベリーだよ。皆んなで分けよう。 一人一粒だね」 エルが取り出す


「おっ、本物か。今で摘んでからどれくらい経つんだ?」 ビッグ

「まだ、二ヶ月程だよ、人が良いなエルは」 シャム

「なんじゃ一粒しかくれんのか」 エインサーク

「ムッ、やっぱりこのジジイにはやらなくて良いぜ」 怒り気味のシャム

「おじいちゃん、この木の実はねあの方の地で採れた木の実だよ。特別なんだよ」 藍子

「藍子が言うならそうだろ」 エインサーク

「ジジイには勿体無いぜ、価値のわからない者にわざわざ教えてやる義理はない。 それに初めて食べても気付かない者の方が多いぜ、」 シャム

「砂漠の荒野での一杯の水か」 エインサーク

「そんな物だよ。説明してやらないと判らないような奴は、自分が優位者なのだろう、優位者なら自身で探せば良い」 取り上げるシャム

「シャム‥」 藍子

「ダメだ藍子。 では、ジジイお前はここの国王に一粒のブルーベリーを貰っても同じ事を言うのか?言わんだろ。 それは相手を軽んじているからだ。あの方を軽んじる者に、施しは無い。 ビッグ、教育が足らないんじゃ無いのか」 憤慨するシャム

「すまん。シャム。 もっと早くに打ち明けるべきだったのかもしれないな」 ビッグ

「…シャム様、その一粒はキャサリン様にお渡しする事は出来ますか?」 ベティ

「なぜだ? (ゴニョゴニョ) 

ベティ お主も 悪よのお~。 

ビッグ行こうぜ!」 シャム


♢♢♢ ビッグの案内


「すまんなシャム。エインも藍子の手前浮かれているんだと思う。」 ビッグ

「しかし、見過ごせん。助長すれば他の仲間(妖精仲間)と敵対するぜ。しっかり釘を刺すか、あの方の元に戻るか」 シャム

「シャムの対象者は優しい少年だな」 ビッグ

「エルか。今はな、ビッグみたいに五十年続くかはやってみないとな」 シャム

「着いたぜ、キャサリンとは話した事が無いんだよ」 ビッグ

「なに?人見知り、今更。  わかったよ。やれば良いんでしょ、ビッグパイセン。

(コンコンコン)キャサリン様はおいでか?(執事風なシャム)少しお話しとお渡ししたい物がございます」 シャム

「開いてますよ。入っていらっしゃい、可愛いお客様だ事。 どうぞお掛けなさい、お茶で良いかしら?」 キャサリンはお茶の用意が終わるとメイドを下がらせた。


「貴方達と面と向かってお話しするのは妙な気分ね、新鮮だわ。  さて、エインの事でしょ。 調子に乗って何かしましたか? 昔から何かを隠していたのは分かってましたが、モグの秘密も想像を超えていたわ。 うふふ」 キャサリン


「お分かりですか。我々はとある方に仕える者です、とある方のご意志のもと我々は赴き行動します。そのある方への暴言や誹謗や中傷、侮りなどは看過できません。 貴女達が国王に対し取ってはいけない行動、言動とほぼ変わりません。 些細な事でも見逃せません。 もし意識がその様に変様するならばビッグを あの方の元に返します」 真面目なシャム


「そう、彼が暴言でも仰ったのかしら、 私はあなた方に賛同します。誰しも自身が信心する者は違います、侮られれば気にも触りましょう。

モグも永らく務めてくれていたのでしょう。ずっと気付かずごめんなさいね。 彼もここ数日は元気になったし、本来の状況に戻るべきなのかもしれませんね。 私は彼と共にあると誓いましたので共に罰を受けましょう」 優しくて強さを感じるキャサリンが腰を折って礼をする。


「少し話しは逸れますが、藍子やベティの肌艶について熱心にお話しとされていた記憶があります。これを試してみませんか?」 ブルーベリーを一粒づつ渡すシャム


「あらっ頂けるの?お話しでは余り無いと仰っていたと。記憶してましたけど」 キャサリン


「最後の二粒になりました。ベティがキャサリン様にお裾分けをと」 ここは素直なシャム


パクッ、もぐもぐ。 パクッ、もぐもぐ。 キャサリンは躊躇う事なく口にする。

「新鮮で甘酸っぱいベリーね、美味しいわ。幾らでも食べられそうね。  うーん、 何か体が 味は変でもなかったわ、香りもベリーの良い香りだったし、何が違うのかしら?」 キャサリン

「その木の実は、あの方の地に成る、木の実です。我々にとっては極普通の物ですが、人の世界では違うようです。 霊草って聴いた事がありますか?」 シャム

「最近、隣国の王宮で話題になっているとか。 まさか? つまりこの木の実も」目を大きくして驚くキャサリン

「我らが持ち込んだのでは無いですが、周り回って。 明日の朝には体調に変化がありましょう。 我々はこれで失礼する」  シャムは礼をして部屋を後にする、ビッグも続く。


♢♢♢ シャムとビッグが抜けた部屋


「シャムが行ったね。」 エル

「波乱の予感…」 ベティ

「おじいちゃん、モグは帰って来ないかもよ…」 藍子

「な、なんでじゃ、モグはワシの ワシの犬じゃ。」 エインサーク

「おじいちゃん、特殊で優遇を受けてても感謝が無いんじゃ無くなるよ。 

‥私は荷馬車を引く仕事をさせられていて脚を怪我したんだよ。脚首の折れた馬の末路は、潰されてお肉になるんだよ。本当に怖くて恐ろしくて泣きじゃくっていた時に私の声がエルに届いたんだ。エルは荷馬車のおじさんにあり金全部渡して私を買い取ってくれた。脚も治してくれたよ。おじいちゃんには逢えて嬉しいけれど、私はエルとシャムが信じるあの方を信じてる。心からの御祈りが届いてると思ってる。 私も特殊だけど、おじいちゃんみたいな優遇は無いよ。恵まれているんだよ。おじいちゃん。」 藍子

「だが、お前にはシャムが居るじゃないか。」 エインサーク

「シャムはエルの案内人だって言ってたじゃない。私には居ないよ。 シャムも第一にエル。その次に私達。これは絶対変わらない。 だから私は恐くてもエルの前で壁になると決めている。ベティみたいに闘えないから。」 決意の藍子

「‥」 絶句のエインサーク

「いや、重いから、、、そう言うの。」 困惑のエル

「私もそうね、シャム様に言われたわ。シャム様の庇護下にする為に仲間に引き込んだと、庇護下にすると結界が使い易いとかなんとか言っていたわ。 私が初めに打算的にエル君達に近寄ったのよ、それが今やお尋ね者ね。」 ニヤケのベティ

「いや、本当すみません。借金は必ず返します。」 ペコペコのエル


重苦しい空気が漂うこの空間に風穴を空けたのは老齢のメイド、食事の用意ができたと告げに来た。 時間が少し早いが場の空気を変える絶妙なタイミング。 流石は年の功。


♢♢♢ 夕食


「先程はワシの我儘ですまんかった。」 しょんぼりエインサーク

「本当ですわエイン様。いちびり我儘な殿方は置いといて。 ベティさんベリーは頂きました、ありがとう。美味しかったわ貴重なんでしょう。身体の中心から暖かい感じがするのよ。心も暖まる様だし。これは効果があるのかしら?」 毒舌グイグイのキャサリン

「え、えぇ、シャム様曰く、身体中に栄養が行き渡るのは寝ている間って言ってました。しっかり水分も取ると良いそうです。」 戸惑いのベティ

「貴女達が食事前にしている御祈りが良いって聴いたのだけど、私も混ぜて貰えないかしら?」 ぐいぐいキャサリン

「もちろん構いません。私もお会いしていない方ですが、心からの感謝の御祈りを私達はあの方に捧げます。この星の全てに感謝を。」 だんだん解釈が大きくなる御祈りベティ


「では、頂きましょう。」 今日の仕切り屋キャサリン

夕食はいつもより静かではあるが険悪な雰囲気も無く和気藹々としていた。 流石は元侯爵夫人、夫の不手際を難なくリカバリーする手腕。 皆の関心を集めた。


食事が終わりお茶を飲む頃には、明日の予定の話しをしていた。


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