第23話 先代

♢♢♢ 六十九日目


昨晩の晩餐会。あれが貴族の晩餐会かと問われると違う気がしてくる、上司に誘われた宴会の様だった。先代侯爵と藍子の関係性が明らかになり、シャムやビッグの妖精が暴露されて

オレも藍子も貴族の晩餐会への憧れがこそげ落ちた。

藍子はおじいちゃんに酌をし、おじいちゃんは違う世界の文化だと、使用人を下がらせ、スルメイカを要求するもオレと藍子しか分からず不発に終わり、もう少し南に下ると海が見えるので後日に釣りをする事になり、竿や釣り糸、釣り針、浮を用意する事になった。


旅の話しも盛り上がり、アネストの王都から門を突き破り脱出した話し[アネスト東門爆走突破事件]や、オレンジベリーでの[藍子暴走火の玉事件簿]などを面白おかしく話しをし楽しんだ。

藍子が「宴もたけなわですが今宵はここまでで」と言うも、先代侯爵が「ほじゃら、一本締めで終わるか」と言い出し、これまたオレと藍子しか解らず。藍子が宥めすかしてその場をのりきった。


なので今日は遅めの朝食の後まったりとしていると、先代侯爵がやって来て、午後一番に出掛けるから用意して置くようにと、昨日のベティがやらかした話しでチャリオットの突撃を見たいとの事でベティが用意させられている。 我ら拒否権無し。


♢♢♢ キリングの憂鬱は続く


朝から気が乗らない。これなら二日酔いの方が良い。精神衛生的に。


朝から衛兵隊の詰所に寄り、隊長にあらましを説明し報告を頼み、ヨークド伯爵の子飼いの者の報告を聞く。 奴はあの派手な馬車に難癖を付け奪うつもりだったと自白した。

昨日の今日でよく自白したなと聞くと、昨夕に軍務大臣の書簡が届きすぐ護送された上に薬を使った尋問を高官の前で行った。 その上での自白。 衛兵aも同時に護送されたが子飼いの尋問を見て、伯爵の有利になる調書にいくつかを書き換えていた事を認めた。

大臣の書簡はキリング様のご手配ではないか と聞かれたが覚えが無い。 ひょっとすると、モグからお祖父様に連絡が入っていたのかもしれない、関わらないでおく。

これで、ヨークド伯爵の貴族派閥の兵隊は中枢から離せる。


衛兵隊の隊長には『ライムグリン家の先代エインサークの客人だ。詳しくは言えないが、昔世話になった武人の末裔で探していた者達』 と言う事にした。全くの嘘では無い。

お祖父様の前世の孫だ、馬だが。 そしてお祖父様はこの地で武人の扱いだ。


あー気が重い。 これだけで午前が終わった、午後から本職の騎馬隊に合流しないといけない。


午後からの演習はパレード向けの魅せる為のもの。 この演習には年若い貴族の令嬢が良く見学に来る。若い騎士たちも良い所を見せようと気合が入る。

その横に見たことのある一団が…頭痛の種だ、いきなり現れた。

なぜかあの馬車では無く、チャリオットとお祖父様の馬車が置いてある。 

そこはかとなく嫌な予感がする、少し離れたところから伺うことにした。


なぜかライムグリン家の武具に着替えて出てきたベティ嬢が自前のランスを携えてる。横にはエル君が一角獣を模した兜と脚当てを着けたキャッパオを引いている。お祖父様の隣には藍子嬢が大きな帽子被り、尻尾が隠せるくらいの派手に膨らんだドレスを着ていた。


ベティ嬢は、硬化と速度超過の呪文を使うと申告すると。 『仔馬の戯れ、お嬢様が何を使われても問題ない』と騎士団のチャリオット隊長が小馬鹿にする。

ベティ嬢が「ほぅ、では御言葉に甘えて」と「グレッグ!」と叫び呼んだ。 エル君が慌てる、藍子嬢がにこやかに笑う。 お祖父様がチャリオット隊を五騎用意させた。

一騎対五騎の変則マッチ。 騎士団もお祖父様の時代の者はもう居ないし信じていないだろう。 チャリオット隊長もここいらでライムグリンの亡霊と呼ばれるお祖父様に釘を刺したいのだろう。


隊長の号令で始まると、キャッパオが嘶き動き出すグレッグは指示もなく火を吐くとキャッパオが相手騎馬中央から攻め立てた、中央の軍馬は焔に耐え向かって来た、すれ違いざまベティのランスがジョニーのランスをかち上げた。

キャッパオの気迫とグレッグのコンビネーションに、普段なら炎にも怖気付かない軍馬が小型馬のキャッパオに追いかけられグレッグの鳴き声に萎縮する。当然に攻撃を受けるも硬化と結界の呪文のダブルパワーを崩せず蹂躙する形となる。

お祖父様は「そこまでで良い」との声にグレッグは焔を止めキャッパオはクーリングランに入った。 側から見るとお祖父様が操ってたかの様にも見える(実際はベティが小馬鹿にされたのをキャッパオとグレッグが腹に据えかねたもの)。


お祖父様はチャリオット隊長に「花を持してくれてありがとう」と嫌味を言って帰り支度を始めた。

この位置からは隊長の顔が見えないが想像ができる。 胃がギューっと痛くなってきた。


帰り際、武具を外したベティに観客と化した貴族令嬢から今日一番の黄色い声援がかけられていた。

小柄なベティに、小柄な馬のキャッパオ、キャッパオの上にはグレッグが鎮座している。

お祖父様を先頭に引き揚げて行く一団に、尚も声援が続いた。

…胃がキリキリしてきた。


騎士団で騎士隊の俺の立場が、嫌味の一つや二つは覚悟せねば。 早退さしてくれないかな。

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