第22話 晩餐会

♢♢♢ 六十八日目 


〜晩餐会会場〜

ライムグリン本邸の奥にある離れが隠居後の住処となる。

今日はモグの仲間である猫が率いる客人だと聞き、あまり人に聞かせられる話しではないのもあり簡単な夕食会を開く事にした。

馬と鳥を食堂に入れる訳にもいかず、テラスに面したサンルームを会場としキャッパオとグレッグの場所が用意されていた。


晩餐会に馴染みのあるベティを先頭に会場入りし藍子、エル、シャムと続く。


「本日は急なお誘いにも関わらず足を運んでもらい感謝している。私は隠居の身だが御力になれる事も在るだろう。エインサーク・ライムグリンだ。宜しく頼む。」

「エインサークの妻のキャサリン・ライムグリンよ。宜しくね。」

「ライムグリン家の長子、キリング・ライムグリンだ。王家の騎士隊の所属だ。父親の当主には後日面談してもらう。」


「私達は旅人で商人をしている集まりです。 既にご存知かと思いますが、私から、アネスト王国の王都で雑貨屋を営んでいましたベティと申します。テラスにいる小型馬が私の愛馬キャッパオにございます。」

「旅人で商人見習いでベティさんとご一緒させてもらっているエルと申します。ここに居ます猫がシャムと申します。」

「シャムです。」

「こちらの女性が普段は小型馬で驢馬のピンキーと申しまして御祈りが届きましたらこうして人の姿になる時がございます。」

「驢馬の姿ではピンキーと、この姿の時は姫野藍子と申します。」

「テラスに居ります鳥は卵から孵したグレッグと言います。」

『ピィ〜♪』


一通りの挨拶が済み席に着くが、一人立ったままのエインサークの目からキラリと光るものが落ちる。


「兵庫県赤穂市の姫野藍子か?」 呟くエインサーク

「えっ、なんで赤穂市 知ってるの‥」 びっくり藍子。それもそのはず誰にも日本の住まいやフルネームの話しはしていないから。 ストーカー怖いからね。

「ワシの昔の名は  姫野  栄作 

ワシの初孫も藍子と言う。藍染めの藍に、子供の子。 目に入れても痛くないほど可愛い孫じゃった。 息子の良太は元気かのう  」 ドサっと椅子に崩れるように座るエインサーク

「 父さんの名前まで‥‥おじいちゃん?! 」 口に手を当て目を見開く藍子


静まる室内にシャムが「想いは引き合い惹かれ合う」


「この場の者達は口が堅いか。」 シャムがキリングを見る

「この離れは祖父様の手の者達だけだ。」 背筋はピンとしているが皆 シニア

「ワシが呼んでしまったのか?」 エインサークはシャムを見る。

「いや、互いに思う事が無いと起きない。藍子もその時に祖父さんを思い出したんだろ。 どう思う、ビッグ?」 シャム

「今の推測が一般的だな。藍子はシャムから聞いているんだろ。 前世の最期に何をしていたか、なにを想っていたかで変わる事を」 ビッグ

「結婚の話しをしていた彼の束縛が嫌で三十路前に別れたの、そして気分転換にバイクで牧場を巡っていたわ、 あっ、 それで驢馬なの?最後の牧場で産まれたばかりの驢馬の仔にすごく癒されて、バイクでの信号待ちで待っていた所までしか記憶に無いの」 藍子

「 よく孫を連れて牧場を観に行っていた。 それが繋がりかの?」 エインサーク

「答えは誰にも分からない、ただ可能性があるだけだ」 シャム

「エイン、これは答えの無い問答だ。誰かに非があるわけでは無い」 ビッグ

「わかっておる」 モグ(ビッグ)にバシッと言われ気が引き締まるエインサーク

「なんか納得したよ、ありがとう。シャムにビッグ。

ふぅ、納得したらお腹減ったよ」 藍子

「おお、そうじゃ今は歓迎の席じゃ。楽しまんとな。 藍子よここは、とりあえずビールは無いからな。ハッハッハッ」 エインサークは楽しそうに笑った目元に光る物が溜まっている。


晩餐会は湿っぽくならずに、エインサークは前世と今世の孫がおるって言って涙ながら喜んだ。使用人達も笑う主人が珍しいらしく皆笑顔になっていた。

妖精のシャムもビッグも食卓を囲み、妻のキャサリンも普段と違いすぎるエインサークに戸惑っていたが楽しく会話していた。 特に藍子とベティの肌艶に髪の艶艶、何を使えばそんなになるのか熱心に聞いていた。


会がお開きになる時、調子に乗って一本締めをすると言い出したエインサークを藍子が難なく宥める手腕を誰もが見ていた。



♢♢♢ キリングの憂鬱


自分が目を付けた者がヤバイ奴らかも知れない。

初めは変わった一行だなと感じただけだった、姉弟にしては離れてるし似てもいない。馬にしてもそうだ二頭引きは馬の体格を合わせないと早く馬が疲れて動けなくなる。それに猫に鳥とちょっとしたチグハグなサーカス団の様相だ。 

そしてトラブルに愛されているらしい。すれ違う先で門兵や衛兵と絡んでいる。


二回目のトラブルは以前から、きな臭い噂があるヨークド伯爵の手の者だ、これを皮切りに取り締まるか、取り締まれるか。 そんなチャンスを作った彼等と話しをしたいと思い、普段はやらない聴取を勝手出た、衛兵隊長も難なく許可してくれて、少しキツイ口調で着いて来させた。


聴取とは名ばかりのお茶を飲み、話しを聴く。ちょうどそこに我が家の犬のモグが来た、その時少年が犬の品種を言い当てた。昔お祖父様から聴いた物語の話しを少し混ぜ[この世界]と言う単語を使ったら少年の動きが止まった。俺の心も止まりそうな程びっくりしていた。顔には出さないが。  物語は作り話だから物語なのだ。


するとただの猫がいきなり喋り出した。呆気に取られているとモグまでもが喋り出す何がどうなっているのかわからない。顔には出ていたと思われる。


喋る犬に喋る猫、物語の世界ではクー・シーとケット・シー。 誰も実際には観た事が無い妖精。見た目はごく普通どこにでも居そうな犬に猫。つい昨日までは犬に意識すらしていない。


お祖父様は良く「ワシの下につけ」と言っていた。 今ならわかる クー・シーであるモグの恩恵が受けられるから。 クー・シーの話しなど誰にでも出来るものでは無い。

先ずは信じないし、武勲を重んじる者は馬鹿にもするだろう。

他人は思うだろう、先に言ってくれれば良いのに。言ってくれないのはズルいと言うかもしれない。 

藍子も言っていた、話せる事と話せない事がある、それを判断する権利は自分には無いと。或いは世間に知られれば、それで終わり。次は無い。


シャムは言っていた。この屋敷には結界が張ってあると。なるほど、結界にシャムの何かを察知してモグが走って来たのか。

私が物心ついた時から私の元にモグが来ることは無かったのに気にならなかった。藍子にも言われたモグの扱いが悪いと。 知ってしまってからならわかる、遣いの者に対する扱いでは無いな。


ライムグリン家史上最強と言われたお祖父様。武術が秀でている訳でも無く、呪文が秀でている訳でも無いただ皆が攻めてきても斃せない。 鉄壁。 


藍子との話しの後にお祖父様の部屋を訪ね、モグの事を聞くとあっさり認めた。自分からは話せない、モグがバラしたなら別に構わないと。

モグを譲って欲しいと頼んだら、それはモグの意思かと問われた。お祖父様が自由に出来る案件では無いとも。モグが本来お仕えする方のご意思によってこの地に居てくれている。

お祖父様がモグを飼っているのでは無い。共に居てくれる友。

「特殊な状況下での処置で自身が特別なのでは無い。」そうお祖父様は言う。何度も。

モグの扱いも聞いた。特別に優遇されるのはダメで、他人の目がある場所では特に気付かれないようにしろとモグに言われていると。 家族にも話せない、話して良いかどうかはモグが決める。


晩餐会でも衝撃的だった。お祖父様に前世の記憶がありそれをモグが知っている。特別いや、これこそが特殊なのだろう。 それも驚いたが、藍子だ、藍子は前世のお祖父様の孫だったと、藍子も前世の記憶を持つ特殊な者。だからシャムが付いてると思い話しを聞いていた。


ところが藍子にでは無く少年のエルに憑いていた。話しの流れ的に彼もか? 彼も特殊な者だった。前世の記憶があり10歳と3日の時に病気で亡くなりこの地に降り立ったと。しかし、お祖父様や藍子のように自身の記憶は無い、藍子と同じ時代の記憶もあり10歳の子供とは別の記憶も混じっていると言う。

突拍子もない話しばかりで、内容について行けてない。無理もない。


お祖父様は藍子にここに住めと言うが。藍子は「老い先短い爺ちゃんが死んだら私なんて捨てられるよ!それならたまに来てお茶する位が丁度いいよ。」って言ったよ、切り捨てられても不思議では無い物言いに、「なに、来てくれるんか!いつじゃいつ来るんか」と、はしゃぎっぷりには歴代最強の面影は無い。


彼女達はこの地にある物を探しに来たと。その物はお祖父様も知っている物で、この世界にはまだ無い物。 

馬車も改良するそうだ。すると、お祖父様が手伝うと言い出した、隠居の身で数年掛けた家督の引き継ぎも終わっているので暇だと言い切った。暇な訳無い。


彼女達は侯爵家預かりになるだろ。お祖父様もお気に入りだ、モグとシャムは仲間みたいだし、しばらくは侯爵家に居るだろう。トラブルにならなければ良いのだが。無理だろうな。


あぁ明日が憂鬱だ、聴取の報告は衛兵隊長に頼もう。

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