第20話 晩餐会に向けて

♢♢♢ 晩餐会の一刻前


ピンキーは気付いてしまった。大きな屋敷に、大きな庭、裏山まであり、多くの使用人、厩舎には立派な軍馬にサラブレッドの様なスマートな馬に、力強い道産子の馬、奥の厩舎には牛の声もする。古くてちっこい犬小屋もあるけど。

厩舎の飼い葉も確かに質は良いしっかりしていて新しい、寝床の藁も清潔だ。

一頭一頭別れており寂しいくらい離れている。


聴こえてしまった。

 いや、耳をダンボのように、耳の穴をかっぽじって、神経を集中すると微かに聴こえた、いや、聴こえてしまった、晩 餐 会 の三文字。

先に相談すると断るよな。断れない状況それが大事だ。


ピンキーはローブを羽織り祈った。今までの感謝を綴った。ただただ感謝を込めて御祈りする。 厩舎が淡く煌めき、ピンキーの目は鋭く光り口角が上がる。 キャッパオは見ない事、知らない事にし、耳も倒して背を向けた。


ベティが狩りから戻りグレッグの餌を用意してキャッパオと過ごす為に厩舎に来た。キャッパオはいつもと違い後ろを向いている。呼んでも向いてくれずキャッパオの前に回り込むと見えた。藍子だ。なぜピンキーじゃなく藍子が居るのか。


「ピンキーじゃなくて藍子どうしたの、ビックリしたわよ。」ベティが驚く

「飼い葉も寝床の干し草も新しいし清潔だし、つい感謝をしてしまったのそしたらね。

この姿じゃ飼い葉は食べれないなぁ。どうしよう。」 藍子、棒読みの台詞回し

「あ、私まだグレッグの餌の片付けが、、、」 厄介ごとを感じ焦るベティ

「厩舎の使用人さんが来ちゃうと困っちゃうなぁ。ヒヒンでバレないかな、桶の水も飲みにくいからカップでももらおうかしらね。この体だと飼い葉は噛めないのよね。このままここで待ってようかしら、使用人さんを驚かすような真似もしたくないけど。仕方ないわね」 藍子

「こ、こんな時はひとりで悩まず ミナデソウダンヨネ」 なぜか棒読みのベティ


何、どうかしたの、ピンキーとキャッパオに何かあったとバタバタと音がして

「あらっピンキーどしたの屋台も無いのに何か美味しそうな匂いでもした?」無神経なエル

「へーそういう風に私を見てたの」冷たい視線をエルに向ける藍子

「いえ、決してその様な事は  あっそうだ今日晩餐会なんだけど藍子の姿ならテーブル席を用意してもらわないとね」 慌てるエル

「まあエルにしてはこましな返答ね」 まだ冷たい目の藍子

「そうだ、ベットも  オレの部屋使ってくれたら良いよ まだ荷物も何も置いてないし」

「先に汗を流したいわね。用意はお願い出来る エ ル 」 目が笑っていない笑顔の藍子

「YES ma'am」 なにも知らないはずのエルはぎこちない敬礼をしていた


エルは駆け足で借りている住居に戻り、シャムを呼び覚えている事だけでも話してシャムを見る。

「藍子の事だ大方晩餐会の料理が気になったんだろうが、お前がそのまま言うからへそ曲げたんだよ。そういう時は下手したてにお願いしてみるんだよ。 でっ、他にも何かあるんだろ。

 風呂?湯舟?それを結界で作れと?呪文は便利屋じゃねーぞ! お湯はどうする? 結界の下からグレッグの焔で温める? シュールだなおい。火炙りの拷問みたいだぜ。 えっ 俺が断ったから出来ないとかやめてくれよ ずりーぞエル。呪文も定義がいるんだよ どんな定義で呪文を唱えるんだよ、やったことねーぞ。 えっ、水を逃がさない定義にする ほぅ ほぅほぅ それでなんだこの形は?猫脚?白色の結界? 色付きは力使うんだよ 藍子の為には使えないのかって? 俺を嵌める気か エルが恐えーよ 取り敢えず作ればいいんだろ いいかエル シャムは喜んで作らせて貰いました。 声に出して復唱しろ。 あと大きさは 場所何処にするよ 使い終わったらお湯が流せる所? 表で良いんじゃねーか 待て待て軽ーいジョークだよ 藍子に報告とか怖いから 井戸横の洗い場に幌布で目張りでもするか ポールも忘れんなよ あと石鹸とブラシ ふかふかタオル大判と髪用タオルにガウンはいるだろ 俺は先に洗い場で湯舟を作ってみるわ」 冷や汗物のシャム


そして、四回目にしてグレッグの焔に耐える乳白色の結界湯舟が完成した。

幌布とポールで洗い場のスノコと湯舟を囲いグレッグをセット。初めは竈門で沸かしたお湯を水で適温にして冷めてきたらグレッグの焔で調整する。 

グレッグには軽く焔を吐く、失敗は藍子を悲しませる。と言い聞かせた。


「藍子様、湯舟の用意ができあがりました。」 敬礼するエル隊員

「そう、時間かかったわね」 つれない藍子

「お湯が冷めましたらグレッグが追い焚きを担当します」 エル隊員

「よろしくねグレッグ。」 ニコッと藍子

『ピィ〜♪』 喜びのグレッグ

「この世界にもこんな湯舟があるのね。」 意外そうに思う藍子

「設計は私、制作はシャムが請負いました」 自慢気なエル隊員

「ここで結構よ。  何、一緒に入りたいの?」 冷やかし混じりの藍子

「いえ、ごゆっくりどうぞ」 エル隊員

「ありがと」 ハニカミ藍子

「「thanks ma'am」」 なぜか閉まりゆく幌布の向こうに敬礼するエル隊員とシャム隊員。  隊員二人は幌布に背を向け立番している。

キャキャウフフとピィ~♪。楽しそうな藍子とグレッグの声が聞こえる。

グレッグは喜び絶頂なのか焔と成り湯舟の上空五メートルほど火柱が立ち並ぶ。


「私は何を見せられているの‥‥」 呆気にとらわれるベティ


「あれが黒幕か。」 遠くからエル達を見る護衛と言う名のライムグリン家の監視者


[ほっこり湯舟大作戦]の裏で密かにベティによって進められていた[ミス・ドレッサーを狙え]は藍子の大人の魅力を嫌らしくなく派手になり過ぎない絶妙なラインを狙え。をテーマにベティが作戦リーダーを務める。いや、やらされている。

ベティの担当は風呂上がりの藍子だ。ボディマッサージのベットには尻尾が邪魔にならない様に急遽スリットを入れ、フェイスマッサージは特に耳に気を付けてもらうなどの注意事項の再確認とオイルは持ち込みの椿油(藍子のお気に入り)を使ってもらう。普段は出来ない爪のお手入れ、無駄毛処理は時間の都合上今回は見送る。


「おかえりなさいませ藍子様、ご用意が整っております」 臍の下で左手で右手を持ち礼をするベティ

「あらっ、ベティもなの。じゃあ付き合うわ」 ニッコリ藍子

「お脚元お気を付け下さい。 初めはうつ伏せでお願い致します、背中、尻尾、臀部、脚裏と各専任が担当します。 オイルはいつもの椿油を温めて香りを立てて使用します」 書類を片手に何かを書き込むベティ

「あっ、  ふぅ、  あふっ、  良いわね」 安定の藍子

「続きまして、仰向けにお願い致します、 (何この敗北感) フ、フェイスマッサージ、胸部、腕、腹部、脚が左右と各専任が担当します」 書類にサイズ訂正を書き込みドレス手直し部隊に渡すベティ

「うっん、  うふっくすぐったいわ、  こそばいわぁ、  良いわね」 満足の藍子

「続きまして、下着を合わして頂き髪結いの下準備を致します」 見惚れてベティ

「そんなに見られると恥ずかしいわ、ベティ」 薄っすら頬を染める藍子

「失礼致しました。 つい見惚れてしまい」 真っ赤に顔を染めるベティ

「嬉しいこと 」 ハートマークが付いてそうな小悪魔藍子

「そ、そそれで続きまして、ドレスにうつります」 ちょっとかみかみベティ

「ふぅふぅ、 イブニングドレスはブラックを基調にしたベアトップを御用意しております。

ヘアアレンジはアップを予定しておりますが、ご希望はございますか?」問い掛けベティ

「ベティにお任せするわ 」 安らか藍子

「はぅ、かしこまりました」 安堵ベティ


予定を消化し完了して

「皆様方、私の様な者の為に御尽力頂きまして誠にありがとうございました」 感謝を込めて礼をする藍子


こうして[ミス・ドレッサーを狙え]が滞りなく完遂した。

大人の魅力溢れる藍子に、普段の面影は見られない。 


そう彼女は 


驢 馬 娘 。

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