第17話 王都のとある宿屋
♢♢♢ 六十七日目
あれから五日ほど彷徨いながら旅をしている。大きな街には寄らずに門兵の居そうにない村に寄ってはお肉と野菜を物々交換しながら進んできたが、これより先は迂回路が見当たらない。城壁に沿って歩く事一日半城門が見えてきた。
藍子、ピンキーまぁどちらでも良い、
二日驢馬娘で三日目の朝には驢馬に戻っていた。
マットの上でベティはピンキーの下敷きになり朝から騒がしくて起きたくらいだ。
藍子の時はこちらの言葉も話せるようでベティとレディの会話を楽しんでいた。女子会かな?
驢馬の姿はピンキー、驢馬娘の姿は藍子、に決まった。どちらで呼んでも返事はする。念願のお肉を食べて満足したのかキャッパオと仲良く馬車を引っ張ってくれている。相変わらずキャッパオとのお話も欠かさない。
城門の少し先に川が見えたのでそこで洗馬してから城門を潜ることになり川を目指す。着いた川原を降り川を覗くとちょっと匂う、いや大分匂うので取り止めて城門に戻り入城門に並び待つ。Tメーカーの異名を持つエルとグレッグを馬車の中に押し込み御者台のベティとシャムは連絡用小窓でエルと会話していた。
「大きい城壁だっだけど、フラッツ王国の王都らしいからそんなもんだろう」 と話していると、横に並んでいた徒歩の冒険者風の男性三人組が話しかけてきた。
「可愛いお姉さん、王都は初めてかい? 馬車も可愛いサイズだね。俺たちが案内してやるよ!こんな猫なんて降ろしてさ」 と手を出した男性にシャムの尻尾がビタンとすると男性は体勢を崩して転けそうになり、他の二人が剣を手に鞘のままシャムを突きだした。
これにはベティも放っておけなくなり馬車の底に隠してあったランスを男達に向けた。その時、門兵が騒ぎを聞きつけやって来た。男達は喚きだしたが、周りに並んでいた方々が「先に男どもがちょっかいを出していたと」と証言して、男達は逃げ出したが騎馬兵により呆気なく捕縛された。
入場門の列から離れ門兵の詰め所で事情聴取を受ける羽目になった。
エルは馬車の中でグレッグの熱い嘴を掴んで止めていて、Tメーカーは返上だなと考えていた。
ベティのランス遣いを見た騎馬兵がすぐに訓練を受けた兵隊と気付き聴取が長引いたのだ。
ベティは隠す事もないので、商人になるまえは騎士をしていてランスもその時の物で護身用だと、なので、護衛も付けずに旅をしていると説明していた。
調書が長引き解放される時には辺りは夕刻になっていた。門兵に馬車預かりがある宿屋を聞くと、詰め所の牢屋が空いてると揶揄われ「冗談は美子さん」と冗談で返し詰め所を後にした。門から近くの宿屋はほぼ埋まっていて空いている宿屋は馬車が置けない。
意図せず中央広場まで来てしまい一本奥の路地に入った。ピンキーが流れるようにある一軒の宿屋の前で停まりブルル『ココやエル』と鳴いたのでノッカーを叩いて呼んでみた。
「遅くにすみません、空き部屋はありませんか、馬車も停めたいのですが」 エルが問う。
「はーい、少しお待ちくださいな。人が二人と馬車一台ですか、空いてはいるんですけど、最近夜にーーー」 と宿の女将さん。
「では、一部屋ツインベットと馬車一台馬二頭でお願いします。 簡単な物でも良いので食事は出来ますか?」 少し腑に落ちないながらもお願いする。
宿の横から裏に廻る時にピンキーに「なぜここにしたの?」聞くと『飼い葉の良い匂いと日本語が聴こえたよ』。 それは同郷の者が居る証。
ーーー
人が寝静まるころ人知れず動く影と歌声? 『鬼~のパンツはいいパンツ〜』『川◯浩が〜洞窟に入〜る〜カ~メラマンと照〜明さ~んのあ~とには〜い〜る』
ブルル『なんだこれは、歌なのか語りなのか』 ピンキーは思わず脚を踏み間違え、コケそうになる。
ゲーコゲコゲーコ『まさか元日本人か、俺だ、ここだ、下だ。そうだカエルなんだ。俺をカエルにしやがったんだ。頼む助けてくれ。何でもするから。もう三度目なんだカエルばっかりに産まれ変わるんだ、頼む』
ブロ『見えんな』 脚をバタバタ踏み鳴らす。ピンキーは厩舎の馬達も煽り他所の厩舎の馬達もそれに倣い脚を盛大に踏み鳴らした。
ゲコゲーコゲーコ『やめてくれ踏まれちまうよ、あぶねー』
ヒヒン『皆んなちっこいのがうるせーだろ追い払え!そらド派手にいっとけー!』
バタドタバタヒヒーンブロローーーーー
ヒヒーン、ドゴン!
ブロロ『キャッパオのバックキックすごーい!』
その日を境にカエルの集団になやむことはなくなった。
ピンキーは聴かされていた、小生物に何度も繰り返し転生する者に良識人はいない。
カエルの彼はあと幾度の転生を経て良識を得るか誰も知らない。
宿屋の主人が見にくる頃にピンキーとキャッパオは入り口近くで静かに横になって居て主人から良く調教されているとお褒めの言葉を頂戴していた。
翌日朝早くに宿屋の主人連中がそれぞれの厩舎を見て廻った。厩舎の外には蹄鉄の跡が付いた引きカエルが多数。
蹄鉄の大きさからもピンキー&キャッパオの関与は疑われたなかった。
小さい蹄跡の付いたカエルが隣家の屋根で干からびていたのは誰も知らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます