第16話 ケップの憂鬱


行ってしもうた…


~~

店が大きくなり、人が増え、立場が男爵になると、金で買った爵位だと揶揄されたが、援助の話しになると掌を返し靡きよる。国王が与えた爵位に異論があるのか、と言うと黙りよる。当然だ。異論は国王に対しての叛逆。言えるはずがない。


商売や融資の案件は大小関わらず山の様に舞いこむ。執事が、精査した物が渡され確認するが心に響く物は無い。

息子達に爵位は継げないので各々に仕事を割り当て、土地も後に分割し易い様に、分けて建物も建てている。事業によって多少の大小は仕方なかろう。


偶に牛車に乗り木材を引き取りに行くのは気晴らしもある。ゆっくり進む牛車に乗り人々の暮らしに足りない物を見ている。

その日も牛車でゆっくり進む、ゆっくり過ぎて閉門に間に合わないので手前の待機場で一泊する事にした。途中にある村で薪と交換で分けてもらった食料で簡単なスープと堅パンで食事をする。竈門の消えゆく火を見ながらお茶を飲むひと時が気分を落ち着かせた。


日が傾き暗くなりかけた頃彼らはやって来た。旅人なのか小さい馬の二頭引きの箱馬車、箱馬車はかなり小振だが馬のサイズにはマッチしていた。 そんな馬車をお茶を飲みながらぼんやり眺めていた。 小僧がバタバタしていると馬車の横に天幕が出来ていた。それも馬車を覆い尽くす程の大きさ。小僧が一人であの大きさの天幕を立てられるのか?

好奇心が勝り、気がつくと小僧に声をかけていた。


「ちょっと坊主。それ見せてくれんか?」

「んっ?どうしました?」 小僧

「それは、天幕かい?簡単に張れたのう、どないなっとるん? ほぉー、便利な物があるんじゃな、ワシの荷馬車にも付かんかの?」 ワシ

「加工次第では付けられるよ。オレのはアネストで付けたんだよ。フラッツの工房は知らないから紹介は出来ないな。」 小僧

「木材の加工ならワシとこでも出来るぞ。何が必要じゃ?のう?」 ワシ

「エル。どうしたの?」 女性

「すまんの、怪しい真似してしもたな。木材屋のケップだ。あんたらの馬車に付いてる物が気になってしもうて、坊主に聞いてたんだ。」 ワシ

「ーーー、なるほどのう、よう考えたの。 どうじゃワシの工房で指導してくれんか!手間賃は当然払う、職人の家族用社宅が一軒空いとる、ちと狭いが二人なら充分じゃろ。ワシとこはちゃんと商業組合にも入っとるし、オレンジベリーシティの北門入ったらすぐじゃき。商業組合のノルンいう男がウチの担当じゃそいつに言うといたらええさかい。ほなら、明日は頼むでな。」 ワシは久々に楽しくなった。

商売的にもこの若い子らがちゃんと特許を申請していた事に好感を持った。 幌布か、生地屋のココは呼んでおくか。 楽しく、いや、これは忙しくなるぞ。もう少し豪華に飾れば貴族共は喜んで付けるじゃろ。儲けが出れば次の案件を考えればいい、考えてる間に寝てしまった。

目が覚めると、もうすぐ夜明けじゃし北門に向かう。 昼頃には小僧達は来るだろうから、用意をしてやらんとな。



ワシの子供達は良く働いてる。一代限りの爵位だから誰にも継げないし爵位による内輪の諍いは無い。今動いている事業をそれぞれが継ぐ為に精進しているのも知っている。

ワシを煙たがる貴族が居るのも知っているしそれを迎え討つ為の戦力としての自警団も組織して領主に今は有償で貸与して町の警邏に寄与している。 


以前、魔物の討伐隊を編成する為に自警団も参加せよとの領主命令があり参加させた二日後に、結託した貴族の私兵が攻めて来た。ワシの資産目当てだ。敷地内には職人や丁稚の寝泊まりする宿舎もあって、武器は無いが人手と力仕事で得たパワーで蹴散らした。大八車に木材を積んで私兵目掛けて突っ込ませた、剣より長い丸太ん棒で私兵を押しやり、そのまま領主まで突っ込んで行った。 あの頃は若かった。 領主は慌てふためいたが事情を言い結託した貴族の処分を国王に委ねる旨を認めさせた。領主は交代、結託貴族は降格し財産取り押さえとし、職人や丁稚、自警団の補償。もちろん土地や屋敷の修理に補償の請求が認められた。


それに懲りた側近共がワシに近づく者を制限するようになりかなり自由がなくなった。しょうがない事とはわかっている。 こと膨れ上がった使用人を守る為だ。



ワシが見定めて呼んだ客人に監視者を付け、相手に見つかり攻撃された。

どこかの間者だと!? 見た順に話せ、時系列にと指示する。


小さい馬が御祈りする娘になり、その時他の者は?子供と猫ははしゃいでいた。女は口を開けて驚いた表情だった。もう一頭の馬は横になっていた。

鳥が火を吐く?監視者も驚いていた所に突然火の手が迫り脚を踏み外して落ちた所に火の手が迫り、辺りが暗くなり、その時他の者は?女が娘と子供を背に剣を手にしていた。もう一頭の馬は娘と子供の盾になる様に立っていた。鳥は見えていなかった。

暗くなった空間に猫が立っていて喋り出した、間者かと問い正すと無言だった。

暗くなった空間が無くなると、火も消えていた、仲間が周りに居て猫がまた喋り出した時にはワシが来たか。

ワシが来た時は猫は監視者に聞けと言った。


誰が鳥に指示を出していたか?


木材屋だ、火の手はボヤだろうが許されない。


彼等は間者か?! 否か?!


翌日、ココの奴にしこたま怒られた。自分で見つけてきた者と案件を持ってきた者とお前は何を信じてここまで登って来たのか。 本気で耄碌爺いと言い放って帰って行きおった。

内輪の諍いこそ無いが一枚岩でも無いか。


ワシの目は、ワシの目じゃ。ワシはワシを信じておる。

あの小僧は南の木を探すと言ってたな、


「ベック!  牛車を用意せい!

木を仕入れに行ってくる。 あとは任す。」

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