第15話 いでよ驢馬娘



♢♢♢ 六十一日目 


ブロロ『エル、窓のロールカーテンに薄いレースだと涼やかだよ。巻き戻したいよね、ゼンマイか?金物屋だね。』 ピンキーは昨日の話を聞いてこれも作れると案を出す。


「ベティさん、ロールカーテンをお願い。ーーー」 エルは簡単な説明をベティにする。


「まぁ、やってみるわ、わたしもピンキーと話せたら良いのに。」 ベティの素朴な意見にエルとシャムは顔を見合わせニヤける。シッシッシッ。


「「ピンキー、本気の御祈りの時だよ。ここしかない、いつするの、◯でしょ!」」 


ブロロ『エルもシャムもそれ言いたいだけじゃんかー、

ってなんでシャムが知ってんの??昔の流行り言葉だし。だいたいシャムの副音声は英語でしょ?

わかりました。ならないかもしれないよ。それとローブを背中に掛けといてよ。』 腑に落ちないピンキー。


ブロロロロブロブロロ『いつもの日常に感謝を。ーーーーー』 ピンキーの祈りが続く、次第にピンキーに光が集まりだす、ぽわんと光り、ふわっと一陣の風が吹きシャンと微かな鈴の音。


「「やったー成功だー」」エルとシャムは小躍りして喜ぶ。


「‥‥」 ベティはまた絶句する。目の前に妙齢の女性が御祈りしている。驢馬の耳クルクルと尻尾フリフリしながらローブを纏っている。


『ピィー!』ボォウ。ドサッ。 

シャムが「待ってろ」(コツン)と指示。すでにステッキを持っている。

ベティは立ち直り近くの剣を片手にエルと驢馬娘の前に出る。

グレッグが間者を焔で囲みながら威嚇している。

「グレッグ、よくやった。あとは任せろ。(コツン)さてお前に聞きたい事があるのはわかるな」 シャムが中の見えない結界を張り、グレッグはエルの肩の上に戻りエルの頬に頭にスリスリしている。


木材屋で火の気は大敵で、グレッグの火を感知して屋敷が慌ただしくなる。


~結界の内側~

「先ずは何処の手のものか?目的は?」シャムは自身に体にピッタリフィットの結界を張りステッキを間者に向ける。


間者は目を見開き

「お前達こそ何処の者だ?猫が喋るなど。親方様に近づこうなんて不届き者であろう。領都か王都の貴族の手の者か?」 この時点でシャムはケップの部下が独自で動いている予測を立てた。分からなくもない、一代限りの男爵位でこの城が持てるほど資金が潤沢にあるのだろう当然資金を狙う貴族は多いだろうと。 シャムは萎えて結界を解いた。 ~~



間者の周りに炎が揺らめく、屋敷の者が消化の為に水を撒く。シャムはグレッグに鎮火のサインを送った。炎は消え去り、悪意がエル達に集まる。


「言い訳はございますか?」 ベックが鋭い目付きで丁寧に問いただす。


「聞いてくれるのかい?監視していたんだろ。そこの男に聞けばわかるんじゃないのか。黒幕は…お前かお館か参謀あたりってところか。」 シャムがベックを見ながら問うも、どうでもいい感じだ。 ベックは監視と言う言葉を聞いて眉を歪める。


「エル出発の時間だぜ」

「そのようだね。残念だよ。ベティさん剣は仕舞ってね」

「なんかこの展開は…」

「ベティさん、そこは大目に見ましょう。悪気はないんですから」


「何事じゃ、火の気は消したか? んっ」  慌ただしくケップが牛車でやって来た。


「爺さんか、世話になったな。詳しくはベックとそこの火傷覗き魔男に聞きな。行こうぜエル」


「エルの猫か?喋るのか? もう一頭の小さい馬は?娘が増えとる? 覗き魔?」 ケップは話しを整理していく。


エル達の馬車はゆっくり進む、キャッパオによる一頭引きでのゆっくりの出発。シャムはステッキでコツンとする。馬車が軽くなり軽やかにキャッパオは進む。


『せっかく人の姿に成れたのにご飯、ねえご飯は~、わたしのごはん~』 ピンキーいや藍子の心からの日本語での叫びに反応する者が。


モーーモォォ『やっぱり日本語だ。あの驢馬は日本語を話せる。おーい、ちょっとおーい話だけでもー。なんで人の姿に成れんのもー、教えてモー。』


「シャム様、エル君。ピンキーの秘密ってこれ↓」 ベティの膝の上でご飯を食べ損ねて盛大に泣いているピンキーを見ている。


「ピンキーは食いしん坊だからね。」 エルは答える。


「エルにはわからないよ、牧草と葉っぱしか食べれないんだよ、この姿もいつまでかわからないんだよ、せめて、お肉、お魚、あースパイスの効いたおかずが食べたいー。」

暫くシクシク泣いていたが、突然ガバッと起きて辺りを見渡し一点に見つめるピンキーの目はバキバキに血走っていた。


「シャム!前面硬化フィールド展開!(イエス・マム)、グレッグ!火炎用意(ピィーー♪)、キャッパオ!全速前進用意(ヒヒン)、ベティ!抜刀(えっなに?)、エル待機(役立たず?) 取舵、三十度固定。突撃だーファイヤーー!」 ピンキー⁈藍子の声が響き渡る。


一行は北門から出てすぐの森に消えて行った。グレッグの獲物を見つける嗅覚で前方の大猪を見つけ、火炎で混乱させ、馬車ごと突撃の後、嫌がるベティに大猪を仕留めさせ捌かせ、今まで役立たずのエルに串うち(贅沢スパイスでの味付け)からの焼き。一同疲労困憊。

ピンキーはお腹をポッコリさせて幸せそうに眠っている


「さっきのピンキーはちょっと怖かった。それにバットウ(抜刀)ってなに?」 ベティ談。


「誰が権力者かわかったろ。ベティ。 あれが魔王さ!」 シャム談。


「オレなんて待機よ待機。役立たずって事。当たっているけども」 エル談。


「ヒヒン(ピンキーだからね)」 キャッパオ談。


「ピィ〜♪(姉御は絶対)」 グレッグ談。


一同は来た道を眺めてる。先には進めず戻るしか選択肢が無い。ド派手に突撃して空けた直径三メートル程の森のトンネルは若干焦げ臭く、火炎シールドでの突撃で延焼していないが燻っている。戻るのには少し恥ずかしく満場一致で暗闇に紛れて去ることにした。



ゆっくり動く馬車はガタゴト揺れているが馬車の中に放り込まれ幸せそうに寝ている藍子。


「思い出しみると、エル君達と出逢った時、ピンキーが蹴られてグレッグがファイヤーでしょ、今回はピンキーの御祈りを邪魔した間者をグレッグがファイヤー?」 ベティが整理していると、シャムがグレッグは仲間意識が強いんだろ。と結論を出した。


「ピィ〜♪」 と嬉しそうに鳴くグレッグ。


「そう言えば、グレッグが卵から雛に孵った時はシャムが卵が肉に代わったって喜んでたのはグレッグ知らなんもんな。それでグレッグはやっぱり魔物なの?」 エルはその時の事をかたる。


「だろうな、ファイヤーバードじゃないか?幼体だから気付かないな」 とシャム。


「魔物と獣の違いはなに?」 エルはイマイチわからない事、シャムに問う。


「違いか?

獣が魔力を持って魔術を使えば魔物さ。

だから、俺達から見れば人が魔力を持って魔術を使えば魔人とも言えるのさ」 さも当然のようにシャムは答える。


「…キャッパオ一人だと寂しいだろ」 エルは話題を変える。魔人と聞くと悪役っぽく聞こえてくるから不思議だ。


「いやキャッパオにはわたしが付いているから、大丈夫さ。なっキャッパオ。」 慌てるベティ。避けるキャッパオ。


グレッグは大猪の臓物を啄み満足気にベティにスリスリしていた。見方によってはベティで顔を拭いているのではないかと勘違いしてしまいそうだ。

血生臭くなるベティから徐々に距離を置くキャッパオ。


周りを片して暗闇の中をゆっくり進み、

そろそろ出口と言う所で、衛兵らしき人と目が合った「「あっ!」」ケップさんの屋敷に案内してくれた門兵のルーさんだった。何をしているのか聞いてみると。

奇声と共に赤い火の玉が森の奥に飛んで行ったかと思うとこんなトンネルが出来てたとの事、危険が無いかはっきりするまで立ち入り禁止になり、その警備として駆り出されたらしい。


俺達は道に迷って進んできたらこちらに出た。事にした。

「お疲れ様です」って事でさっきの大猪で山の様に焼いた肉を門兵さんにもお裾分けしてその場を去った。


街道の待機場で休憩し日の出前にはその場を跡にした。細い脇道を迂回し進み南下して行く。この先は野宿が続きそうだ。



後にトンネルの調査が進むと、突き当たりには大猪の残骸(人の手による物)が見つかり、人々を驚かせた。残骸はゆうに三メートルを超えた巨体で主かもしれないと伝えられた。

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