第13話 オレンジベリーシティ前

♢♢♢ 五十二日目 キャッパオと私


ベティはシクシクと泣き真似をしている。

シャムへの抗議行動だが、役にはたっていない。 シャムだからね。


「ベティ!我は肉を所望する!」 シャムは相変わらず、ベティを構う。


「シャム様!可愛い女子が泣いているのになんですか。」


「んっ、なんじゃ。元気じゃないか、明日の朝にはここを立つのだろう。注文した幌布とマットを取りに行って荷造りせんと。」 シャムにしては建設的な意見だ。


「エル、馬車で取りに行こうぜ。ピンキーもこれで快適な野営ができるんじゃないか。」 


ブロロ『期待してるよ。キャッパオも楽しみだって。』 


「そうか、キャッパオも楽しみなんだね。(ブルル)そうかそうか。」 エルがキャッパオを撫でていると。 ガバッと振り向く音がする。


「なんですと、 キャッパオが 楽しみ に し て い る 。

エル君、すぐに行こう、今行こう。」 ベティが一瞬で復活した。 


ベティに急かされる様に~幌と布屋のギル~に着いた。


「よう坊主出来てるぜ、見てくれよ!パリッとしてるだろ!ウチのはアネストより良い出来だろ!

それと、馬用のヤッケなんて初めて作ったぜ、ちぃーと苦労したがこれも良い出来だろ。

要望通り首と胴回りで外側は防水で内側は起毛にしてあるよ。確認してくれ。しかし、物好きだねお馬ちゃんに高価な生地を使うなんて。」 店主のギルはクライアントのエルに話しかけるが、動き出したのはベティだった。


「確かに、キャッパオに似合ういい色合いだ。」 これにはピンキーも苦笑い、普通の生成りの幌布地だ。


幌布サイドカーテン左右、グランドシート、馬用マット二枚、馬用ヤッケ二枚。 ベティが支払おうとタグを渡すと、もう坊主からもらっている、と。

ベティはエルに振り向くと、


「ロールタープの使用料が入金されていたので先に払いました。いつもベティさんにばかり負担をかけてしまって、少しづつ返していきますね。」エルは少し恥ずかしそうにしっかりこたえる。


「うぅ、立派になって」 ベティが嬉し泣きしそうな顔をしている横で、シャムの「身内の叔母さんか?」の囁きはベティには届かなかった。


こんなにキャッパオに似合うヤッケはないと、登録すると。

三度商業組合に寄り特許申請に聞くと馬のヤッケは登録済みですので何か新しい機能が追加されれば問い合わせしますよと言われた。 

似合うのは関係無いと。



♢♢♢ 五十三日目 寄り道旅


馬車に荷物を載せて出発する。

南の街を目指してブルー領をあとにした一行は、街道沿いから外れて森に入ったり、川を見つけてはピンキー&キャッパオを洗馬したりと寄り道に寄り道を重ね駅馬車で二日の距離を六日かけて到着した街オレンジベリーシティの閉まっている北門に着いた。


「残念、間に合いませんでしたね。朝まで待ちますか」 エルとベティが話していると、門の横にある通用口の小窓か開き、

「今日はもう閉門だ、明日あさの開門まで待たれよ。門前での火気の使用は検挙対象になるから、五分程戻った所の広場で休まれるが良い。ではな。」 門番はこちらの返事も待たずに小窓を閉めて去っていく。 口調はともかく、対応は悪くなかった。


エル達一行は少し戻り指示された場所に向かうと、二組の先客がいた。

広場には井戸が有り、石で作った竈門の跡が所々に見られた。材木を積んだ荷馬車と黒塗りの立派な箱馬車が停まっており、箱馬車にはまだ馬が繋がれており野営の準備を始めていなかった。


エル達は水場から少し離れた端の方に馬車を付け野営の準備を始めた。

馬用の桶に水を汲み石で竈門を組み直し薪にグレッグが火を付けるとベティと狩りに出掛けていく。暗くなってきているがグレッグの危険察知能力が優れているので然程心配はない。

ピンキー&キャッパオは仲良く近くの草を食む食むしに行き、エルは馬車に輪止め、ロールタープを広げてグランドシートと馬用マットを敷き、サイドカーテンを左右に広げる。エル達の小型馬車の真横に天幕が出来上がり生成りの幌布サイドカーテンが竈門の火に照らされより大きく見える。

いつもの野宿(あえて野宿)は人目につかない所なので、フルオプション状態でのお披露目は初めてだった。

エルはベティの帰りをスープを煮込みながら待つのがいつものスタイルだ。ピンキー&キャッパオがブロロ、ブロロ話しながら戻ってきて桶の水を飲むとトウキビ草の催促に来る、彼女達のオヤツタイムだ。一日一本。

そんな中、材木を積んだ荷馬車の初老のおじさんが話しかけてきた。


「ちょっと坊主。それ見せてくれんか?」


「んっ?どうしました?」 エルは何を見せるのか分からず聞き返した。


「それは、天幕かい?簡単に張れたのう、どないなっとるん? ほぉー、便利な物があるんじゃな、ワシの荷馬車にも付かんかの?」 初老のおじさんが聞いてくる。


「加工次第では付けられるよ。オレのはアネストで付けたんだよ。フラッツの工房は知らないから紹介は出来ないな。」 エルは申し訳なく話した。


「木材の加工ならワシとこでも出来るぞ。何が必要じゃ?のう?」 グイグイ来る初老のおじさんにタジタジのエル。

そこに救世主現る! 狩りから戻ってきたベティさん、今日は兎が二羽。


「エル君どうしたの?」 


「すまんの、怪しい真似してしもたな。木材屋のケップだ。あんたらの馬車に付いてる物が気になってしもうて、坊主に聞いてたんだ。」 慌てて弁明するケップ。 目を細めて怪しい者を見るベティにエルは首を縦に振っている。 

ヤバイ時はシャムがいるから大丈夫。 猫の手も借りたい時には、あまり役には立たないシャム。 軽く納得して話を聞く。


エルとベティはケップに馬車の加工の事、天幕の事、特許の事を話して作ったり販売するのに届け出がいる事もケップに伝えた。


「ーーー、なるほどのう、よう考えたの。 どうじゃワシの工房で指導してくれんか!手間賃は当然払う、職人の家族用社宅が一軒空いとる、大きくは無いが二人なら充分じゃろ。ワシとこはちゃんと商業組合にも入っとるし、オレンジベリーシティの北門入ったらすぐじゃき。商業組合のノルンいう男がウチの担当じゃそいつに言うといたらええさかい。ほなら、明日は頼むでな。」 ケップは言いたい事言って戻っていった。 


シャムはテーブルの上でフォークを持ち尻尾をビタンビタンしている。ご機嫌斜めの様だ。

取り敢えず晩御飯だっちゅう事で、ベティは狩った兎を捌き臓物をトレイに置くとすぐさまグレッグが啄んで食べ始めた。肉は串に刺して強火の遠火で焼き始める。

シャムはミディアムレアで構わないから早くしろと尻尾をビタンビタンしている。

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