第12話 覚えてる?


♢♢♢ 五十日目 


「昨日、一昨日と元気がない様だけど、どうしたの?エル君?」 心配そうに聞くベティ。


「…気z、…旅の 疲れ ですかね」 何気なく誤魔化すエル。


エル達一行はブルー領に来てから組合が運営貸出しているコンドミニアムの宿を四泊借りている。

一階は標準荷馬車一台と馬一頭が休めるガレージで二階は休憩室、炊事場とトイレ、洗い場は共用の簡単に宿だ。ここの良いとこは雨が降っても荷馬車が濡れずに済むので滞在中についつい多めに仕入れてしまうのが狙いだとか。 しかし、狙いを知っている組合員にも結構人気らしく常に満室だ。炊事場の傍にひろめに作られたテーブルは組合員達の社交の場であり、情報交換の源だったりする。    *標準荷馬車=小型自動車、エル達の馬車=軽自動車の感覚で読んで頂くと幸いです。


街には普通の宿屋ももちろんあり、食事が美味しかったり、部屋が綺麗だったり、警備がしっかりしていたりと、それぞれ特色を活かして共存している。



「ベティさんはこの街を見てまわってどうでした?」 エルは無難な話題を提供する。


「そうね、初日に聞いた通り、薬草関連の商品や仕事が多そうだわ。食事も薬膳料理って言うのがあるそうよ。食べに行ってみる?」 ベティの感想として、領主の評判はすこぶる良い。貴族としては疑問も残るが、質素で慎ましくそれでいて領内の生活環境整備として上下水道に多額の融資をし領民の生活を助けていた。

この事業に参画した貴族が公金を着服していた事が発覚した際は中央広場にて粛正するなど烈しい一面もあると。


ブロロ『薬膳料理なんて、和食っぽいね。』 一階のガレージにテーブルと椅子を置き皆んなと過ごす事が多い。2階はエルとシャムが寝るだけになっている。 なので横からピンキーが話しかけてきた。


「お寺とかで出てくるあの薬膳料理?精進料理?」 エルはこんがらがる。


ブロロ『お肉やお魚を使わないのは精進料理でしょ、薬膳料理は薬草やスパイスを使った薬効が期待できる料理? 知らんけど』 ピンキーはそう言えば食べた事ないとも言っていた。


「オレも今まで食べた事ないな、今日でも食べに行きますか、ベティさん。」 


「え、ええ、良いわよ。ピンキーはどう言っていたの?」 ベティはエルがピンキーと話しているのを眺めていたら突然話しを振られてので戸惑っただけ。


「ピンキーですか、食べた事は無いけど、薬草やスパイスを使って薬効がある料理じゃないかって。って言ってますよ。」 エルは事もな気に話す。 


「エル君、お店はピンキーやシャム様は入れないよ、ここでは良いけど、ピンキーと話し込むと他の人から怪しまれるよ。」 ベティはエルが気づいて話しているのか気になってしょうがない。


「えっ、そんなに話してました? それは気をつけないとダメですね。 」 エルは気付いていなかった。


ブロロ『エルは大雑把だからね。 ねぇ、味見したいから少しだけタッパーで持って帰ってきてよ。 ひと舐めで良いんだよ。お願い。』 ピンキーはエルにしか言葉が通じないから好きに喋りまくる。


「ピンキー、タッパーは無いんじゃない。こっち来てからプラスチックやゴムすら見てないよ。」 エルは懲りずに話していた。


ブロロロロ『エルは詰めが甘いよ、今わたしたちは南に来てるんだよ、南といえば南国、南国といえばゴムの木でしょ。 それに、ゴムじゃなくてもコルクがあればパッキンにできるでしょ? 

あれっ?これって現代知識チートって感じ?」 ピンキーはうんうん考えてる。ゴムは酢酸、炭素と硫黄か、どこかに温泉くらいあるでしょ。なんて考えてた。


「ベティさん、この世k‥、この領にコルクの木かゴムの木ってありますかね。」 


「え、ええ、そうねコルクの木は知らないけど、コルクは木から出来ているの?瓶の蓋に使われているから知っているわよ。 ゴムの木もしらないわ、ゴムって何かしら?」 ベティはゴムを知らないようだ。


「えっと、木の樹液から作られる、プニプニで伸びる素材?材料です。樹液は白色ですが、加工すると便利な商品になるんですよ。」 エルはこの時タイヤが出来たら馬車の乗り心地が良くなり快適だろうと考えた。


「エル君それは、ピンキーが教えてくれたの?」 


「ええ、一年中暖かい地方の木で、木の表面に傷を付けて樹脂を取るんだって。」


「そう、ここで調べてわからなかったら南下しようか。 先にご飯にしましょう。この地域の朝ご飯は麦がゆが一般的なんだって、ほらシャム様も、さっき買ってきたから温かい内に食べましょう。」 ベティがキャッパオ&ピンキーには飼い葉とお水、グレッグには干しモロコシ、シャムとエルには麦がゆを用意していた。


「我は肉を所望する。 昼は薬膳料理なんだろ、肉はいつになるんだ。」 すっかり肉食なシャム。


「やっぱり野宿の方が融通が効いて良いのかしら? グレッグも兎や鳥の臓物なら良く食べるのよね。 干しモロコシは突いて遊ぶだけであまり食べないし。」 ベティはすっかり心を許して、家族の様に扱っている。キャッパオは愛馬だし、グレッグとピンキーは突撃大作戦で助けてもらい、シャムもエルもあの方絡みで信用している。


商人として働けていないが、先の霊草絡みの件で依頼人が依頼達成とみなし商業組合に依頼料を振り込みしてくれていた。 新しい仕事としてエルとピンキーの知識を使って特許の使用料が商売にならないか思案していた。


朝ご飯がすみ今後の予定を話したいとベティが言い出して皆んなで一つのテーブルを囲む。

ピンキーは頭をエルの膝に置いてくつろいでいる。


「先ずは何か仕事をしていかないとこうして宿やご飯が食べれません。エル君が旅人としてこの世界を見て回りたいと聞いたけど、先立つもの…まぁ、お金だけど、要るからね。 この街の商品を仕入れて他所の町や村に売るのも、売り先の町や村の状況を知ってないと儲けが出なくて赤字になります。そこで、エル君とピンキーの知識を商売に繋げたいと思ってます。 どうですか?」 ベティは国を離れる時に今までしていた仕事は依頼人がいないからもう出来ないと思い、行商人を考えていた。

しかし、フラッツ王国ブルー領に来てみると、地域によって特産品があまりにも違い、アネスト王国より温暖な地域での売れ筋が把握できずにいた。いや、時間を掛ければ調べられるがそこまでの余裕がない。

そこで、エルは良くピンキーとお喋りをしていて、これなら作れそうとか、それで代用できるとか、それは無理とかの話しをよく聞き、情報を売るか、物を作るかを考えていた。馬車の購入時の事を思い出せば、まだ見ぬ物がありそうだったからだ。


「オレはベティさんに賛成します。お金は要りますよね、海の向こう側も見てみたいし。」

エルは何気なく話した事にベティが


「エル君は海を知ってるの? 見た!どこの海! 一体どこからやって来たの?アネスト王国は海に面していないのよ!  今更驚かないけど、相当遠いよ。子供の足なら相当な時間が掛かるし、危険な事も多いよ」

エルは仕切りにシャムを見る。シャムはヤレヤレ顔でステッキを持つ。


「ここからは俺が話しをしよう。先ずは、(コツン)この結界は遮音結界で外から聞かれないよ。 


エルには秘密があってな、この世界とは違う世界から来た少年だ。因みにピンキーもエルと同じ世界から来た。二人とも帰る事は出来ないよ。 この世界に来たのは、端的に言うと元いた世界で亡くなって産まれ代わりがこの世界だったって言う事だ。

何に産まれ変わるか、どう産まれ変わるかは人それぞれだ。

亡くなった時の強い想いが産まれ変わりに影響している。

ただ、無理難題や危険思想な事を示す者はその通りにはいかない。ピンキーは驢馬って言う種類の馬に産まれ変わったんだが…なぜなんだろうな。

そしてなぜエルと話せるかだが、普段話す言葉が主音声とし、副音声って言うのがある、これは馬が鳴く時と同時に元いた世界の言葉が紡がれ発せられるから。二人は元同じ世界の同じ国の出身なんだよ。

俺たち修行者は他の世界の言葉も覚えるんだけどその世界の標準語を覚えるんだ。だから俺にはピンキーの言葉はわからない。ただ一緒に居て少しづつわかる言葉が増えてきたよ。

そうそう、人から見て動物とされる生き物は人の言葉を理解できるよ。個々によるけどな、キャッパオは覚える気がなかったんだろ。 なっ。(プィ)

ピンキーも以前元の世界の言葉を聞いたって言ってたろ。たぶん同郷だろうな。

まぁエルもピンキーも元の世界の方が文明が進んでいる、争いにならない製品や技術なら、あの方は寛大だ。」


「‥‥。」ベティは言葉が出ないくらい驚いてる。


「あっ、ベティ!覚えてる? 話しを聞いたらもう戻れないよ。んじゃ宜しく!」 シャムは姿を消した。


「うっそーー!、詐欺、ねぇ詐欺じゃない?」 ベティが慌てふためてエルに詰め寄る。


「詐欺ではないけど、悪どい?!」 エルは肯定も否定もしない。

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