第11話 そろそろ隣国


~アネスト王国某所私室~


「本当ですの?疑わしいわね。」 扇子で口元を隠す明るい金髪でルージュのドレスが良く似合う令嬢X


「あのスカーフェイスが跡形も無く消えて日焼け跡も無く色白との噂です。あと髪が艶艶だったとの報告が上がってきてます。 これは騎士複数人と門兵も複数人同じ証言です。

この内の二人はベルベッティの元同僚で言われるまで彼女とは気づかなかったそうで、情報の信頼度は高いかと。 あと別件で、一緒にいた二頭の小さい馬の毛並みがキラキラ艶艶で、輝いていたと言う者までおりまして、この件の目撃者は沢山いまして先ずは間違い無いかと。」 執事服にオールバック姿の男の娘が答えていた。


「ではその霊草とやらを用意なさい!費用などは気にしなくても構いません。 必ず手に入れなさい!」

パチンと扇子の畳む音がする。



~ランディ男爵家~


ベルベッティの兄オスカー・ランディも妹に逢える機会を失い落ち込んでいた。王都にはもう帰って来れないだろうから。

先の[手配書騒動]も動揺したが[南門前乱闘結界騒動]の当事者でもあり容疑者一味と逃亡したと聞き倒れそうになった。法衣男爵家なので取り潰しも覚悟していたが国からのお咎めが無かったのは   まぁ、そう言う事だろう。 ただ王家のメンツか、ベルベッティは王都からの追放と言うあまり意味の無い処罰だけだった。

後にベルベッティの友人のシルフィエット伯爵夫人から詳しい話しを聞くことができた。近衛隊には怒りを覚えたが左遷された事、南門前騒動の結界の真実も現場に居た夫人から聞きそれとなく真相を周囲にひろめている。 

ベルベッティからの手紙は迷惑かけて申し訳ないとの謝罪文で落ち着いたら連絡するとしか書いていない、相変わらず淡白な文面だ。

あの忌わしい襲撃で顔に傷を負っても周囲に心配を掛けないよう明るく振る舞っていたベルベッティ。

ただベルベッティが無事で楽しく過ごせていてさえくれれば、それだけで良いのだ、謝罪などいらぬ。



ベルベッティの噂が噂を呼び、庶民の雑貨屋ベティが元男爵令嬢だった事も知られ本人の知らぬ間に有名人に。騒動を証明するかの様な南門前ほぼいっぱいに広がる結界は通行の妨げになり隠しようがない事実として定着する。  

近衛兵の救助後に王家の魔導師団が結界の調査を行いより真実味を与えた。


スカーフェイスのベルベッティは騎士団でも有名で騎士の間で女を捨てた令嬢として不名誉に認知されていた。

現場に居た元同僚の騎士もベルベッティをよく知っていたしシルフィエットが不作法にも顔をこねくり回して問い詰めていたので、化粧や幻影の類では無い証明となっていた。 

その時の騎士は語る、女性の美意識は怖いと。


♢♢♢ 四十八日目 ~フラッツ王国・ブルー領北検問所~


「旅人兼商人? アネスト王国からと、拠点を変えるならタグのデータ変更するか、通過するだけなら変更しないが、どうしますか?」


「変更でお願い。はい二人分ね。」ベティに任せて変更してしまう。

これには訳がある。オレとベティさんのタグはアネスト王国では引っ掛かるので、ロンダリングする段取りだったが、データコード自体が一緒だったので一回解約して消さないとダメっぽい。


「タグは交換しないんですね、システムに関してあまり変な事も聞けませんし。先に用事を済ませましょう。」 簡単に切り替え出来たら犯罪の温床にもなるかと納得する事にした。


~ブルー領商業組合~


「こんにちは、んっ、初めましてかな?何のご利用ですか?」 カウンター受付の女性。


「薬草採取の買い取りをお願いします。」 エルが応える。


「このブルー領は薬草栽培をしていて、他の領より買い取り価格が安くなるけど構わないですか?今日採取した薬草ですか?」 


「いえ、昨日に採取したものになります、当日じゃ無いとダメなの?」 エルは問いかける。


「鮮度が落ちると価格が付けられないのごめんなさいね。 領主様が薬草の栽培に力を入れていてね、鮮度か大事とかで。当日採取しか買い取りできないの。そのかわり領民は安く医療を受けられるのよ。ーーーー」 カウンターの女性はなかなかのおしゃべりで、いろんな情報がまぎれている。 

薬草はどこでも育つ訳ではなく限られたエリアでしか栽培できず、運良く自宅で栽培でき検査に合格すると、補助金まで出してくれる。 なので庭のある領民は一度は薬草栽培を経験しているくらい盛んに栽培されている。 加工品として従来のポーションタイプにタブレットタイプ、軟膏タイプと魔女や薬師を雇い入れ日々研究している。 最近の課題は日持ちする為の研究。 

「ーーーそうそう、どの領も商業組合と狩猟組合の買取価格は一緒よ、エリア毎に価格は変わるけど、ここは薬草が安いエリアね。 安いエリアで仕入れて高いエリアで売る。商売人なら常識だけど鮮度が落ちるから無駄よ。よその領でポーション買うくらいならここの領産品は品質が良いわよ。オススメね!」


カウンター受付の女性にまで知られているほどに浸透しているポーション産業。秘匿事項は無いのか? すごい所に来てしまったと思った今日のエルだった。


♢♢♢ 四十九日目 再戦


昨日の善良な受付嬢に恐れをなして、もう一つの用事を言い出せなかったエルがリベンジに向かう。 向かう先は商業組合。


「おはようございます、特許の件で伺いたいのですが良いですか?」 エルは昨日と反対側の受付嬢の元に来たのだが。 担当に代わりますと言い番号札を渡され、呼ばれるまでこちらでお待ちくださいと言われて待っていると。


「特許A-3の方、こちらへどうぞ~」


昨日の受付嬢が手招きしていた。心の中でガックシきつつも用事を終わらせないとと言い聞かせ、笑顔を貼っつけ、いざ勝負!


「アネスト王国で申請した分の追加なんですけどよろしいですか?」 先手エルのターン。


「先に確認致しましょうか、タグの提示をお願いします。 

確かに申請は受理され、もう既に使用料が発生してますよ。 早い展開ですね。 これはなかなかーーー、少々お待ちください。」   受付嬢のターン、既に複数まとめてぶっ込みやがった。


「馬車のーー」 あっ、


「巻き取り式ロールタープの件ですか?これに追加事項の申請でよろしいですか? どの様な申請内容になりますか?」 受付嬢がオレのターンを掠め取る。

早いだろ、阪急蕎麦かよ。


「ロールタープを使用中に側面カバーと下部はマットタイプに追加装備にしたいのーー」 あっ、


「大丈夫ですよ。ポールとロープの様に、追加事項装備に付随申請にしましょう。 巻き取り式ロールタープの件での他からの申請は見受けられません。そのまま申請しましょう。ーーー 」 受付嬢がまたオレのターンを… 

速いんだよ…吉野家の牛丼かってーの。


ーーー

ーー



前日に続き今日も受付嬢のハイパーバッシュに成す術なく敗退。 

アホターン、スカターン、幸せターン! 今日のエルの気持ち。

 あ~高カロリー食べたい。

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