第9話 捕縛⁈



♢♢♢ 四十日目 当事者


ザクロ町に着いた一行は、旅の消耗品と食糧の買い出しの後、商業組合に寄った。

ベティがカウンターに近づくと、カウンターのおじさんが出てきて手招きする、「ベティさんこちらに」と小声だ。 商談室に入るとおじさんが

「ちょっとベティさん!何やらかしたんですか?手配書が配られたと思ったら取り消しだって案内来たけど、、、ベティさんだよね?服はいつもの‥なんか雰囲気が、、、お嬢様?」


「顔の傷が治ったからかな、あははっ‥。 そうだよね手配書か 見せてよ似顔絵!」


「傷が治った?えっ確かに、ポーションでは無理でしょ、えっ、エリクサーってヤツ?存在するの?まだ手に入る?入るようなら俺に卸して!お願い」 


「ちょっと、落ち着いてターロさんって!エリクサーじゃないし、もう手に入らないから」

 

「もう、今もうって言った。 と言う事は。 使った!使ったの?あのお金に細かいベティさんが、使った。売らずに? あっ、そうだよねいつも明るいベティさんだけど気にならない訳ないもんね、女の子だもん。」 やっと落ち着いたターロさん。


「じゃ少しだけね、王宮に持ち込まれた霊草を調べてたんだ、体験させられたんだよ無理やり、その結果がコレ、傷が消えた。多分もう手に入らない。生者が入れない世界にあるらしい。 これ以上は有料。さてこっちの番ね。あたしの手配書あるんでしょ見せて、それと今の状況がしりたい。 」 ベティが仕事モードに。


「ベティさん、よく見ると日焼け後も無いじゃん、髪も艶艶じゃん、どうなってんの?」 ターロはまだ仕事モードになれてなかった。


「あー、例の霊草‥。それであたしの番!早く!」 ちょい照れのベティ。


「手配書はこれね、少し前に取り消しの連絡来たけど、手配書は一度貼ると剥がされないからね、気をつけて、でも、今のベティさんならバレないか。 タグはすでに使えるようになってるよ。あとは、事情聴取の出頭命令が出てるね。

でっ何をやらかしたのさ? 」 興味津々のターロさん。


「ある伯爵お抱えの商人に絡まれてる少年を庇ったら同罪だとほざいて伯爵の息の掛かった衛兵を連れて店に火を付けやがったんで王都から逃げたんだよ、説明しても無駄でしょ。 ちょっと逃げる時に東門を傷付けちゃって、てへっ。」 ベティは片目を瞑り舌を出し後頭部を左手を軽くで押さえてる。 ベティ完璧。


「あれは破壊では?」 エルはツッコミをいれずにはいられなかった。


「あれっそちらの少年は?」 やっと気づいたターロさん。


「こちらが絡まれた少年エル君です。」 ベティが紹介するが。


「エルです。オレが原因だったんですか?」 


「あれっ、気づいてなかった? あのチリチリ商人が伯爵に取り入って罪をでっち上げて捕縛しようとしたのを、あたしが匿った事にされたのよ。」 ベティが詳しく語ってくれた。


「ベティさん本当にごめんなさい。助けてもらってばかりで、お店も燃やされちゃて、僕に出来る事ありませんか?」 エルは初めて気づいた事にショックを受けた。 なんて鈍感なんだろうと。


「ま、まぁ後で考えるわ。」 ベティは言葉を濁す、ここでは話せないのに、エルが絡む「本当なんでもしますから」 エルの鈍感は気づかない。


「大変ですねベティさん…」 ターロはすぐに気づいたが


「それよりエル君も事情聴取があるわよ、当事者だから。」 ベティはエルに衝撃の事実を教える。当然の事だけど。 エルの心の囁き「ガビーん」は誰にも聞こえない。


♢♢♢ 四十一日目  T 生産再び


あれからベティさんが友人に手紙を送った。

冤罪の証明に尽力いただいた事に感謝を述べ、朝にザクロ町を出発するので明日の夕刻には南門から王都に入る旨を。


王都まではトラブルもなく順調に進み、翌日の夕刻、南門には騎士と衛兵の皆さんが待っていました。


「お手数おかけします。」 ベティが声をかけるが衛兵はベティとは気づかず、背後に居た友人のシルフィが


「ベルベッティ?!見違えたわ!どうしたの例の効果なの?学園時代の若さじゃないの?どうなってるの?傷は?日焼けの跡も無いじゃない!」 シルフィはベタベタとベティの顔を撫でくりまわし、疑問しか浮かばない、前に会ったのは仕事の依頼で三週間も経っていない、それなのにこの変わり様。 ベティは苦笑い。 騎士には元同僚も居てベルベッティを知っているのに気づいていなかった。門兵も愛想の良いベティは知っているのに気づかれずに見惚れていた。 ちょっと複雑なベティ。

エル達は置いてかれていた。


「君は何用だ?用が無いなら向こうに行きなさい」 衛兵がキツイ口調でエルに云い放つ。


「じゃ、僕の方からは用が無いので」 エルがすぐさま馬車に乗ろうとすると、衛兵はエルの腕を掴み歩いて行け、と押し倒した。

『ピーーヒュルルル』バサっと音がした、ベティは「危ない」と友人を抱き寄せ地に伏せた。

『ボォウ』

衛兵、門兵、騎士。エルに危害を加えた衛兵に似た装備をした者は炎に包まれた。


ベティは「グレッグ」と叫び、続けて「鎮火・ハウス」も叫んだ。 『ピー』とひと鳴き、馬車には帰らずエルの肩に止まる。


ブロロ『恐ぇー、グレッグ恐ぇー』ピンキーは心の声がダダ漏れだ。


シャムも(グレッグ良くやった!けど、めんどくセー事になるな)心の声は 漏れてなーい。




「では、衛兵が先に少年に手を出したと仰る、とは言え辺りは火の海だったと聞く。間違いないですか?シルフイエット夫人。」 事実確認の為に騎士と、事態が大きくなったので近衛兵まで駆り出されていた。


「しかし、やり過ぎですなこれでは虐殺ではないか、放置はできませんので身柄は確保致しますよ、夫人。 子供と鳥は拘束、馬車は確保せよ。」 近衛隊長の号令がかけられる。


「エル君!グレッグ!」 ベティは騎士達に腕を掴まれ自由が無い状態だ。どうして良いかわからず名前を叫んでしまう。


「人は相変わらずやね、権力を持つと弱者を甚振るよね、。 先に手を出したのはお前達だろう。」 シャムが話しながら馬車から降りてくる。


「シャム様!」 ベティが叫ぶ。


「猫が喋るだと?どんなトリックだ!我らを馬鹿にするとは、王国に対する反逆と見做す。今すぐ子供を縛り上げてやめさせろ。」 近衛隊長はエルがトリックで喋らせていると思い激情する。


シャムはステッキを地面にコツンと打つと、エルと馬車に結界が張られる。


「さて、どうしたものかね。」 シャムは結界の外で騒ぐ近衛兵を見ながらぼんやりしていた。


対立するのは簡単だがベティの立場が悪くなる、王都に家族も居るだろうし、先ほどの友人にも助けられたし、本来なら今回もそのはずだった。 たらればか。


「責任者はお前さんか、そう怒ってばかりだと話しが進まん。それとも、制圧が目的か?」シャムは問い掛けるが取り合わない。


「うるさい、さっさと障壁を解いて投降しろ。」 近衛隊長は変わらず横柄で威圧的のまま。


「俺たちはどうなる予定だ。」


「決まっているだろう、牢獄で再教育を施して利用いや 活用してやる、ありがたく思え。」 

近衛隊長の本音だろう言葉を聞いて方針を決めた。


「ベティ聞こえたか?俺たちを再教育して利用するんだと、賛成しかねるね。」 


「そんな、そんな事は許されません。」 ベティは真っ直ぐで素直な娘だ。受け入れられない事だろうが、現実はそんなもんだ。


「お前も仲間なら同罪だ、その女も縛り上げろ。 さっさとしろ、命令だ。」 

近衛隊長の檄が飛ぶ。騎士は昔の仲間に躊躇するがベティを知らない若い騎士達は取り押さえ縛り上げようとした時、キャッパオが飛び込んで、グレッグが滑空してきた。

 *グレッグはまだ幼体で高くも長い時間も飛ぶ事はできない、今は高さ三メートル程が限界。


キャッパオが突進して騎士達を蹴散らし倒れ込んだ騎士に馬上のグレッグが炎を浴びせる。そしてピンキーがサッサっとベティを攫って戻ってきた。

キャッパオが囲まれるとグレッグが炎を吐き退路を確保し無事に馬車の結界まで戻ってこれた。ベティはキャッパオに泣きつき感謝をする。


「仲間は返してもらったし俺たちに用は無くなった、これで帰らしてもらうわ。 シルフィさん悪かったね、折角和解の用意をしてくれたのに近衛兵は俺たちを利用したいそうだ、これで話し合いは終わりだ。」 コツンとステッキを鳴らしシャムがそう言うと馬車はサッと動き出した。 シャムが話しているのはピンキー&キャッパオを馬車に繋ぐ為の時間稼ぎだった。


「馬を回せー、逃すなよ。あんな馬車などすぐに仕留めろ。」 ゆっくり走り去るエル達の馬車。


「隊長、どうも結界に閉じ込められているみたいです。」 


「何をバカな事言ってい‥(ゴンっ)、くそっ出口を探せー」 近衛隊長の檄は飛ぶが状況は変わらず、直径20メートルほどのサークル型結界で出口は無くご丁寧に天井付きであった。各々剣や呪文による攻撃を行なったが結界を破壊も解呪も出来ずに時間だけが過ぎていった。 


シャムの結界は攻撃呪文を吸収しエネルギーに変換される為攻撃呪文が多いほどより強固に、より永く結界が続く、当然そんな事は教えない。


晩遅くに怒って帰ったはずのシルフィエット夫人がやって来た。指定された地面を掘ってみると小さくEXITと書かれたピクトグラムが現れた。「近衛隊に貸しにしておきますわ」と帰って行った。 近衛隊長は顔を真っ赤に歯を食いしばりながら「恩に着る」と一言だけ。


この結界はその後三週間形を維持したまま存在し南門の通行を邪魔していた。 何が言いたいかと言うと、人目につきその中に近衛兵が四名、騎士七名が閉じ込められていた事実が暗黙の了解として知れ渡る。この時の近衛隊長は騎士に降格、謹慎の後、北部の辺境の地に出向して行った。



シャムはシルフィエットへの感謝として、王家直属の近衛隊が南門前で結界に阻まれ不様を晒していたサークル型結界の出る方法を教える事で近衛隊とひいては王家に貸しを作れば伯爵位なら上出来だろうと、そして、もちろん時間稼ぎもだ。 

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