第8話 話す
♢♢♢ 丗一日目 愛馬
「ピンキー・キャッパオ、繋いでるとこは痛くない? 疲れてない?」 エルは二頭が気になってしかたない。
「大丈夫だよエル君、痛いところがあれば嫌がるからすぐにわかるよ、心配性だなぁ。」
ベティと一緒に御者台に座り操作を習っているエルはピンキーと話せるから本当は手綱要らずだけど、まだ内緒、この事はエルとピンキーが異界から降りて来た話にも繋がるから話していない。もう少し信用してからでないと。
ピンキーとキャッパオは仲が良い。ピンキーが言うにはキャッパオは5,6回冬を越しているので立派な大人らしい。例の木の実をお裾分けしてから毛艶が良くなり若返って見えるから不思議だ。馬でも若返りには目がないのは世の女性共通らしい。
川原に降りれる時にはいつもピンキーを洗って、拭いてブラッシングしている。ピンキーに対しての労働報酬の代わりだ。
しかし今回はこの続きがある、道中にピンキーが椿の花を見つけて椿油でブラッシングしろと要望を訴えてきた。普段あまりわがままも言わずに手伝ってもらっているので猫の…シャムの手を借り、ベティは訳もわからず手伝わされ、丸一日かけて椿油を搾り出したので、洗車ならぬ、洗馬する為に川に向かう。
ブロロ『エル!川原だ行っても良いよね。キャッパオ行こ!』 ピンキーは勝手に進路を変えて川原に突撃して行く。
「ちょっと!待ったー! ピンキー!馬車の車輪が壊れちゃう。」 エルは思わず叫ぶ。
ヒヒン『そうだった、ごめんごめんエル。何処からなら入れるの?』 ピンキーはエルの顔を伺う。
「ちょい待ち、 うーん 少し先の方が岩が少なそうだ、そこから降りよう。」 エルが御者台から馬車のルーフキャリアの上に乗り進路先を見ている。
ブロロ『あいよ!』 ピンキーが返事するのと同時に動き出す。
ベティは何も言わないが、シャムの事もあり、何か隠し事をされている事は気付いていた。今はまだ聞く時ではないと。しかしベティは馬の為に寄り道か?とも思っている。
川原に着くとピンキーは忙しなくて、装備を外すと川に突撃して行く、キャッパオも装備を外してやると、トコトコ川に入りに行く。エルは桶と手拭いブラシを用意しピンキーの元へ向かう。
いつものように洗って拭いてブラッシングしてと、二頭居ると2倍の時間がかかる。そして一日かけて絞った油をピンキーにかけブラッシングしているエルに
「ちょっとエル君何をしている!せっかく絞った油を」 ベティが叫ぶ。
「大丈夫ですよキャッパオの分もありますし、ピンキーが終わったらすぐキャッパオもブラッシングしますから♪」
「そう言う意味では無いのだが、なんてもったいない‥一日かけた油だぞ」 ベティはなんとも言えない顔をしている。
「それがエルさ。」 シャムとグレッグは馬車のルーフキャリアの上でお昼寝タイムだ。グレッグは火を吐いてからミミズや虫以外も食べるようになり餌探しの手間がなくなつた。
二頭の洗馬をしてオイルブラッシングするともう夕方に、出発前の買い出しで食料はあるとは言え日持ちする食材は限られ、狩りの役目はベティになる。
本人はあまり弓は得意では無いと言っていたが鳥や兎は剣で狩るほうが難しい。シャムはベティにグレッグを連れて行けと言い、グレッグを肩に乗せ弓を持って森に消えていった。
ピンキー&キャッパオは艶艶になって戻ってきた。キャッパオは立髪を三つ編みに編み込まれてクリーム色の長毛と脚元の茶毛と相まってキュートになった。
ピンキーは焦茶色の深味が増して、より濃く、可愛くなった。
そしてキャッパオはよりエルに懐く事になる。
石で竈門を組み火を起こしてお鍋でお芋を湯がいていると、ベティが森の方から兎と鳥を一羽づつ持って出てきた。
シャムはベティに肉担当の称号を与えた。
ベティが兎と鳥を捌きトレイに肉と内臓と分けるとグレッグが内臓を啄ばむ。
シャムには素焼きにし、人の分は塩とスパイスで味付けして焼く。匂いに釣られてピンキーが来るがひと舐めして戻っていった。
晩飯は豪華に二種類の肉のグリルベリーソース添えにマッシュポテート。
あの方への御祈りを行い食事を食べる。
エルが涙を流しながら食む食む食べてる、エル君どうしたの?と優しくベティが聞いてくる。
「ベティさんに逢うまではシャムと木の実と果実だけの生活していたので、こんなに豪華な食事が嬉しくて。街ではピンキーとか一緒に食事は無理でしたし、このように仲間と一緒の食事が嬉しいんです。」
エルの飾らない言葉にグッときて思わず目頭が熱くなる、この子も苦労しているんだな。そんな思いに水を差したのが
「えっキャッパオ!なんでキラキラ艶艶なの?えっ!?」 そう、女性は感動よりも美への追求。焚き火の灯りに照らされたキャッパオ。 ベティを一瞥しエルに擦り寄る。エルが食事に感動して流す涙を慰めにエルの体に頭を擦るキャッパオ。反対側にはピンキー、上にはグレッグが『ピィ~♪』囀っていた。
「キャッパオはあたしの愛馬〜!」
♢♢♢ 丗五日目 ベティとスープ
夕飯の後ベティはキラキラ艶艶のピンキー&キャッパオを問い詰めエルに僅かに残った椿油をもらうと晩だと言うのに髪を洗う為に川に入り翌日風邪をひいた。 その日の食事は木の実と果実だった。
エルはシャムに習いながら三種の薬草を石で擦り潰しお鍋に入れ火にかける、沸騰しないように初めから弱火で温度が上がり過ぎないようにゆっくりゆっくり熱を通すなか、シャムが呪文を唱えて回復薬が完成。 見た目は青汁、香りも青汁、やっぱり青汁。違いはわからない。
隣では鳥の骨から出汁を取ったスープに賽の目に切られた根菜を投入し柔らかくなれば完成。
髪はキラキラ艶艶になったが目が死んでいるベティに回復薬をカップに入れて渡すと、寝ていれば治ると断固拒否。シャムがベティ専用に呪文を掛けてあると言うと渋々、本当に渋々ながら口に含む。ベティの顔のパーツがみるみる内側によると、「グッと行け」と辛辣に云い放つニヤニヤ顔のシャム。 カップが空になり頬が膨らんで涙目になってるベティ、無慈悲なシャムはベティの顎をグィっと持ち上げた。 ゴクンと喉が鳴る音のみが聞こえた。
静寂な時間を打ち破るように、ベティがシャムに詰め寄る、
「シャム様、あれは何ですか!あのような物をよ 弱っている女性にむ 無理やり飲ませて。」
「元気になったろ。」 シャムはあっけらかんと云い放つ。
「えっ、うわっ、ほんと、 こ 今回は許して差し上げます。」 ベティは顔を赤らめて馬車に戻って行った。
「ベティはおもろいなぁ。 そう思わんかエル?」
「ひでぇ‥。オレに同意を求めないで。 ベティさんは素直で可愛い人だね、真も強いし。一緒に居ても飽きないし。」
「それって誉めてるつもり?楽しんでるでしょエル!」
お腹が空いているベティは程なく馬車から出てきて、エルに渡されたスープを一口「エル君のスープ美味しい‥」 目尻には光る物が。
〜〜〜
王都からはベティを捜索する部隊が放たれていた、王都東門にはチャリオットで破壊されたと報告が上がっていて器物破損の容疑がかかっていた。
♢♢♢ 丗八日目 はなせる
追われている身として町や村に寄るのは昼前とし、ああ食糧を調達して昼過ぎには村を出るペースで宿は取らずに箱馬車での生活をしていた。 エルはキャンピングカーのつもりで楽しみ、ベティも野営はキャッパオがいつも一緒だったが、キャッパオの性格が甘えたな事に驚きキャンピングカー生活で一緒に寝たりとより仲良くなった事に感謝していた。
改装した箱馬車は小型ながらも快適でミニマムな生活となった頃、
「次のザクロ町から王都の南門なら馬車で丸二日なのよ、そのまま帰れば捕まるわ。南門から半日の場所に旅人の休憩場所があるから二、三日待機して応援を呼ぶわ。どうかしら?」
*ベティは顔の傷が消えてから女性らしい服装の時は女性言葉に、騎士や狩猟の服装(主にズボン)の時は男性言葉になります。
ベティの作戦に異議を唱える者はいない。 エルは「任せます」 シャムは「待機は良いけど兎か鳥はちゃんと狩れよ。 野菜は食わない!」 グレッグは「ピィ〜♪」餌のはなしで上機嫌。
えっキャッパオ&ピンキー? 仲良く草を食む食むしてます。
*村(ビレッジ)→町(タウン)→市(シティ)→王都、の順で規模が大きくなります。
「おーいピンキー&キャッパオ!そろそろ行くよー!」 呼ぶと可愛く耳をクルクルしてこちらを見てにこやかな表情になる。それだけでエルはハッピーだ。
ブロロロン『エル、あっちにトウキビ草があったよ、重くなってもいいから取っといて、前に刈った物食べちゃたから無くなったんだよね。補充♪補充♪』
「了解、馬車で入れるか?無理かー。シャム、ピンキーとトウキビ草刈ってくるから待ってて」 エルはピンキーを連れて取りに行った。肩にはグレッグが乗ってる。
「シャム様、王都に入る前にお聞きしたいことが、エル君はピンキーとキャッパオと話せますね‥ 。」 ベティは思い切って聞く事にした。
「半分正解。エルと話せるのはピンキーだけだ。ピンキーがキャッパオの通訳だな。隠す訳じゃ無いけどわかるよねあれじゃ、俺は少しならピンキーと話せるよ。 今はまだ理由までは話せないが時が来たら話せるだろう。ピンキーもちょっと特殊なんだ、その内わかるさ。」
「馬の気持ちが判るのではなく話せる?ピンキーが?」 驚愕のベティ。
「あーそうそう、知ったら戻れないから! んじゃ!」 シャムはその場を離れ、ベティは放心状態の後「諮られたのでは‥」 その呟きは誰の耳にも届いてい
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