第7話 馬車
♢♢♢ G S C
グレートサボテンシティ商業組合に着くとピンキーとキャッパオを馬駐に繋ぎ止め館内に入る、手紙受付のカウンターに行くと、白髪混じりで七三分けに黒い腕貫のベテランオジ様が、「どこまで、何枚送るんだい」と慣れた感じで聞いてくる。
ベティも慣れた様子で 「王都まで、用紙は一枚を三件お願いします」
オジ様は 「王都は広いからエリアに分かれているよ、そこのエリア図を見てね。用紙はそこの引き出しね、書いたら持ってきて」
ベティは、高位貴族夫人の依頼人三人に、先日の門前広場の件で冤罪をかけられ店舗を焼かれたので王都から逃げ出した事、例の霊草は入手困難である事と摂取の仕方、噂の魔女はカミナリオコシ村で薬屋を営んでいる魔女の大婆である事を手紙にした。
そして友人の伯爵夫人には上記以外に店舗を焼いたのはシレット伯爵の紋章が見えお抱え商人(チリチリ)である事、霊草一本を試して凄い効果があり、顔の傷も消えた事、霊草は毎日あの方に心からの御祈りを行うと日持ちする事、ポーションに加工すると効能が弱まる事、伝説の創造神様は呼び名は違うが本当にいた事、今はあの方の縁者と一緒にいる事、すぐには帰れないけど安全な事、突拍子もない事ばかりだけど本当な事を手紙にした。
「手紙は四通になりました、A,B,G,H,地区に各一通づつお願いします。 それと荷馬車製作の場所教えてくださいな。」 ベティは支払いはこれでとタグを差し出していた。
「はい、確かにお預かりします。
それと荷馬車ね、すぐに要るならヤヨイ工房かな標準車なら在庫がある、高級になるとタマネさんかな時間かかるけど。 組合のドミーから聞いたと言えば対応してくれますよ。」 オジ様ドミーは少し考えて教えてくれた。
「組合のドミーさんね、ありがとうございます。ドミー!」 ベティの慣れたやり取りを見てエルは 出来る女性! に関心し、早速ヤヨイ工房に向かった。
~ヤヨイ工房~
「すみません、誰かいらっしゃいますかー?」 エルが少し大きく声をかけてみると、引き戸の奥からパタパタとサンダルの音と共に「はぁーい少しお待ちください」と返事があった。
ベティは今が正念場なんです、実はキャッパオがエルに懐いてしまいベティが焦っているんです。キャッパオの気を引くのに必死なんで工房はエルが対応してます。
「あらっお使いの方かしら?」 ほわっとした感じの女性が対応してくれた。
「いえ、小型の荷馬車を見せてもらいたいんです。組合のドミーさんからここなら完成車が有ると聞きまして。」
「あらっドミーさんね、 どのタイプかしら?引く馬と積荷によりますね」 店の女性。
「旅をしてまして、簡易的でも屋根付きの二頭引き。あっ、引くのは小さい馬なんです。 それと軽いのが良いです」 エルは思いついた要望を告げる。
「ハハハッそうですね、ほぼ特注ですね。親方呼んできます」 店の女性は作業場に駆けて行った。
「坊主がドミーの紹介のお客さんかい?」 店主で親方。
「共同購入ですね、ベティさーん!ちょっとお願い」エルはベティに助けを求めた。子供が支払えるとは思われないよね。
「‥うーん、坊主達は旅にも使いたいんだろ、幌馬車のが良いんじゃねえか? 幌をずらせば荷馬車にも出来るし。雨を気にするなら箱型だけど箱型はダメなのかい? 屋根にキャリア付ければそれなりには荷物も積めるぜ。直ぐってんなら中古も見てくか?」 親方はいろいろ提案してくれる。
裏庭の馬車置き場で端っこに小型の箱馬車が埃を被り佇んでいた、エルが見惚れていると親方が「貴族さんの子供の練習用」って言う。アレで良いじゃん。
「親方、あのちっこいのにするよ。ピンキーとキャッパオの二頭引きにしてルーフキャリアとサイドタープ付けて」 エルは頭の中で構想していた。キャリアを付けたらグレッグの止まり木になるし、横にサイドタープ付けたらピンキーとキャッパオが夜寝る時に雨に打たれないし、シャムはどこでも寝るから良いや。
「お貴族用に作ったからしっかりはしてるけど、小さいぞ良いのか? それとサイドナンとかってなんだ?」 親方に説明してみると作れるけど初めて聞くな。 その声にベティが
「特許を申請しよう、親方が今まで聞いた事が無い商品なんだろ商業組合も近いし確認だけでもするべきだ。上手くいけば手数料くらいはもらえるぞ。図は書けるか? 親方も良かったな廃棄車両が売れて新製品に試作も出来るなんて。 この手の新商品は貴族が喜ぶぞ。組合のドミーにヤヨイ工房を優先的に言っとくよ。 せいぜい勉強してくれよ期待しているよ! エル君、先に組合だ」 ベティはやはり商売人だった生き生きして組合に戻って行った。
~商業組合~
「ドミーさん、先程は良い店を紹介してもらいありがとうございました。 少しお伺いしたいのですが、特許の申請の確認をしたいのですがどちらでできますか? エル君巻き取り式サイドタープの図面は書けるかい、他に拡張できたり。」 ベティは楽しそうに話す。
「タープのたたみ方で大きくは出来ますよ重くなりますけど。 芯棒に幌布を巻き付けて箱で囲うようにして芯棒の受け口を片側にハンドル付けてーーー」 エルは図面を描きながら説明し取り付け方法や追加でポールとロープで固定するとより実用に耐えると説明していく。 するとドミーがヤヨイさん?タマネさん?と聞いてくるのでヤヨイ工房と説明すると ではそのように。 エルは何がそのようにかがわからなかった。
十分後、ドミーさんが類似する申請はありませんでしたと報告してきた。ベティさんはニマニマ、お金の匂いでもするのかな。 その後、ベティさんに商業組合の組合員になるように言われたので登録した、費用はベティさんが用意してくれた。
♢♢♢ 廿八日目 箱馬車
箱馬車の加工依頼してから一日しか経ってないが形になってきた。埃まみれの箱馬車は綺麗に掃除してあり内装の生地も補修してあった。
「ルーフキャリアは囲って下さい、グレッグの止まり木にもしたいので。 ロールタープはキャリアに固定で。タープの端はハトメで止めて下さい。ポールはハトメに刺しますので、ポールの先だけ一段細く丈夫に金属でお願いします。」 エルは最終確認していた。どうせなら自分で触らなくても良いように。
「ハトメってなんや? 穴を開けるだけじゃダメなのか? ボタンホールみたいじゃダメなんか?」 親方、幌屋さんに行こうぜ。
幌屋さんの場所を教えてもらい伺ってみた。
「ごめんください、ヤヨイ工房の紹介で来ましたエルと言います。」 エルが話すと、後ろでピンキーがケタケタ笑う。
ヒヒン『めっちゃ日本人。どちらかって言うとハローとか、オラーじゃない?』
「そう、通じないかな? 確かに不思議そうな顔してる。」
「ヤヨイさんに聞いたのかい、それでなんのよう?」 幌屋さんの大将はざっくばらんな対応だが相手が子供ではしょうがない。
「幌布の端は折り返して縫うと思うんですけど、端っこにハトメと言ってこんな金具を留めたいんです、このくらいのサイズの。ボタンホールはちょっと弱くて。」 の絵を描いて見せてみる。
「何に使うか知らんがここいらでは見ない留め方だな。」 大将は初めて見てどう使うか考えていた。
「ちょっと組合で聞いてきます。」 エルはそう言って店を出た。
日本にいた時には感じない不便さ、この世界は工夫してより快適にしようと言う感覚が無い、あの方は発展を御望みでは無いのかな? そんな事を思いながら組合に向かった。
~またまた商業組合~
「こんにちはドミーさん、またちょっと教えて頂きたいのですが、ーーーーー」 そう言ってエルがハトメの絵を描いてドミーに説明していくと、「うーん調べてきます」と席をたつた。
「これも特許としては申請されていません、ジーンさん‥幌屋さんでも知らないのですよね? これも申請しますか?」ドミーが問う。
「使うにはかしめる治具が要りますよ、こんな治具で上からハンマーで叩いてかしめるんです、かしめるのではずせません。」 エルはまた絵に描いて説明していた。
♢♢♢ 丗日目 完成
「やっと出来たよ。」 エルは泣きそうになりながら黄昏てる。シャムもベティもピンキーも素面で呆れ顔。
あれからエルは、金物屋に出向きハトメを探したが、やはり見つからずハトメになりそうな材料を揃えて加工してもらい、治具も揃えてジーンの幌屋さんに行ったりと慌ただしく活動していたのがやっと報われたのだ。 感無量、そんな顔にみえた。
「ベティさん、いろいろお金を払っていただいてありがとうございます。ちゃんと返しますから。」 箱馬車から追加の加工も宿泊の宿代も全てベティが払った。
「エル君良いのよ。例の薬草にはこれ以上の価値があります。 元貴族だった話しはしたわよね、あの傷を負った時に両親が頼んで色んな術師と薬師に診てもらいましたがそれでもあの古い傷は消えなかったわ。 それに比べたら安いくらいよ。 だから気にしないで。 ただ王都には一度戻らないといけないわね。」 ベティは店舗を焼き払われた恨みを忘れていない。
「そうですね、ここは少し居過ぎましたね。追われていました。」 エルは箱馬車の事ですっかり自分の立場を忘れていたのだ。
王都に一度戻る事にした一行。追ってに遭わないように大廻りする事になった。
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