第5話 出会い

♢♢♢ 廿五日目 T メーカー


そろそろ王都が見えてくる距離まで来た一行は、入都料と滞在費を捻出する為に色々な薬草を採取していた。


治癒の薬草、毒消しの薬草、体力回復の薬草、腹下し回復の薬草、消化促進の薬草、熱さましの薬草、あとは野草で甘いトウキビ草くらい。


王都に入る為に入門の列に並ぶ、暇つぶしでトウキビ草をガシガシ齧っていると後ろに並んでいたおじさんに声を掛けられた。


「坊や、甘い匂いがするがトウキビ草かい? おじさんに一本わけてもらえんか? ちゃんとお金は払うよ。」


「そうだよ、トウキビ草。 うーん、いつもの所に持って行かないといけないから売れないよ。この食べてるのはオレの駄賃分だから。」 エルとシャムは打ち合わせをしていた。子供相手に安く買い叩くだろうから渋るか売らないと決めていた。


「一本1鉄貨でいいだろう!ほれっ。」


「おじさん、他をあたりな!それっぽっちで売ったら親方に怒られちまう。」 エルはかまをかけて牽制する。


「じゃあ2鉄貨だ、それでいいだろ!」


「いや、おじさんには売らないよ。気分が悪い、他所に行きなよ。」 エルは気分も機嫌も悪くなる。


「子供の癖になんて口をきくんだ!」 男は怒ってピンキーを蹴り飛ばした。


ヒヒーン『なにすんのよ!』 突然の事にピンキーも怒ってる。ピンキーの上に乗ってるシャムは飛び降り、引っ付いていたグレッグはバサバサ落ちた。 グレッグは仲間のピンキーが攻撃されたので羽根を広げて威嚇し、男めがけて炎を吹いた。炎は一瞬だったが、男の顔の髭、眉、前髪はチリチリに、顔は黒く煤だらけ。 口からゲホッと煤を吐いたらコントだな、なんてエルは思っていたが、ゲホッはなかった。


騒ぎを聞きつけ門兵がすぐにやってきた。男は子供と火を吐く鳥に襲われたと訴えていたが、男の後ろに並んでいた顔に傷がある若い女性が門兵に告げ口していた。女性は周りを見渡し「私間違ってないよね」と言うと、概ね合ってるよと同意が得られたようで、門兵からエル達にお咎めは無かったが詰所で調書は取られ時間はかなり掛かったが王都には入れた。


詰所からエルとグレッグが厩舎にピンキーとシャムを迎えに行くと、さっき庇ってくれた顔に傷がある若い女性が待っていた。


「災難だったな。行くあてはあるのかい?」 若い女性


「ああ、さっきの。ありがとうございました、お口添えいただいて助かりました。僕はエルと言います。

いえ、これから薬草を売って宿を探します。 お礼を差し上げたいんですけどなにぶん手持ちが何もなくてすみません。」 エルは素直に感謝を述べた。


「あたしはベティ。これでも小さい商店をやってる。行くあてが決まってないなら寄って行きなよ。積荷も買い取っても良いよ。 

ん? 誤解するな買い叩こうなんて思ってないから適正価格だ。あたしは燃やされたくないからな。」 小柄で人懐っこいニパッとした笑顔の似合うベティについて行く事にした。


そこは間口一軒半ほどの小さなの商店、裏庭に小屋があり厩舎になっている。

ベティは商店の鍵を開けて、奥の談話室に案内し、

「狭いけどゆっくりして、ピンキーだっけウチのキャッパオと一緒に裏庭に繋ぎなよ。」 キャッパオはベティの愛馬で小さい馬だ、多分ポニー種と思われる。


「じゃあエル君、休憩してから積荷を見せてよ。」 

エルは王都に来た目的であるタグの申請と大まかな物価を調べる事を話した。ベティに聞かれてピンキーやグレッグの出逢いなんかも話して打ち解ける。


「じゃあエル君は脚の速い鳥?たぶんダーチョだね、の卵を取りに行ったの?やるねぇ!あれから逃げるのは骨が折れるんだよね。しかし良く逃げられたね。」


「僕とシャムはピンキーにしがみ付いてもう大変でした。勲一等は間違いなくピンキーでした。」


「でっ、その卵がグレッグなのかい?」ベティ


「そうなんですよ。一つだけ色違いで大きかったんですよ、どうせなら大きい方が良いかと思って。 殻は見ます? 器に使えるかもと取っておいたんです。真っ白で綺麗でしょ♪」上機嫌なエル


「エル君、グレッグを売る気はないよね?」何気なく聞くベティ


「‥ベティさん、 グレッグが狙いですか?」 エルとシャムの気が立つ。


「いやいや待ってくれ。争う気は無いよ!本当に。 ただ、狙われると思うよ。あたしはエル君と話して売る気は無いと感じたし、入手した方法も聞いた。 

グレッグはエル君の指示無しに男に火を吐いたんだ彼の意志で。これがどういう事かわかるかい?エル君に手を出せば燃やされる。あたしはそんなことで死にたく無いよ。 

ただ、王都の外門前とは言えちょっとした騒ぎは直ぐに広まる。門兵も報告しないといけないから軍部や貴族、有力者の耳に入るだろう。 

‥‥あたしの商売はそう言った有力者から受注して物を仕入れるんだが、注文が来そうだよ。

でだっ、ダーチョの卵奪取を手伝って欲しいんだ。こっちが本命だ。どうだろう、謝礼ははずむよ。

ああ、店先には日持ちのする当たり障りがない物を並べてる、これでも雑貨屋なんだよ。雑貨屋だけでは食べて行けなくてさ。」ベティ


「探すのは、そのダーチョの卵に混じってるグレッグの卵ですよね? 直ぐに見つかるとは思わないけど。」不審な目を向けるエル


「見つけるまでここの家に住めば良いよ!3食付けるよ!どう?」前のめりに聞くベティ


その時、店舗からドン!ドン!パリーン!火の手があがっている。火矢が撃ち込まれている。

「あたいの店が‥どうして‥」 放心状態のベティ。


「ベティさん危ない!」 エルは咄嗟にベティの手を引く。


『ベティ!居るんだろ!あのガキを匿ってるのか、同罪だな。そのまま燃やしてしまえ』


「あのチリチリ、 あの紋章…」 ベティの悲痛な囁き。



「ベティさん、表に出られないよ、燃えちゃうよ!」 少々パニック気味の少年エル。


「くっそー覚えてろあのチリチリーヤロー! 

どこかで見たことがあると思ったらあの紋章はシレット伯爵家のお抱えか。 同罪とかほざきやがって、でっち上げやがったな。


エル君裏口から出よう、五分いや三分待ってくれ用意する。」 

ベティは家の中を駆けまわり荷物をまとめる。


裏庭には落ち着かないピンキーとキャッパオがうろうろしている。

「ピンキー、昼間の男がやってきて、濡れ衣をきさせられてる。裏口から逃げるから落ち着いて。」動揺しているエル

ヒヒン『落ち着ける要素が無いんですけど』困惑しているピンキー


「待たせたな。」 裏口に先程とは見違える勇ましい姿のベティが立っていた。 キャッパオ!とベティが声をかけると、シャキッとしてチャリオットのような馬車に繋がれていた。


「エル君、ピンキーは鞍が付いてないみたいだがキャッパオの予備の鞍を付けるか?サイズが近いから合うだろう。」 エルはピンキーを呼んですぐに鞍を取り付けてみる。 そうこうしている間にもベティの店舗は燃えていく。店舗を見るベティは悔しさが滲み出ていた。


「あたしが先に行くからついて来てくれ。門は突破するから止まるなよ。」 ベティがキャッパオに何やら呪文を唱えている、唱え終わると一言だけ「行くぞ」、「ほぉ」っとシャムが呟き、シャムもピンキーに呪文を唱え出した。


裏口から静かに出立した一行は、夜の目抜き通りを過ぎたあたりから速度を上げ出し出入りの一番少ない東門をトップスピードで通過していった。 後にピンキーは『あの時は身体が軽くて走っても走っても疲れないしもっと走りたい感じでした。』と語った。 チビ馬爆走伝説の幕開けだった。


一時間後、呪文の効力が切れるとゆっくりクーリングランで近くの河原に向かい脚を止めると、キャッパオを労いエルを見るベティ。


「君は何者だ? あの速度と距離は特別なんだぞ、誰にでも使える呪文では無い。」 不審な疑惑の眼をエルに向ける。


「まだエルに呪文は使えない。 まず休憩だ!」 シャムが仕切り出す。


「なに!」 ベティはあたりを見廻してシャムを見る。「まさか、いや、いやいやありえん」 一人でぶつぶつ囁く。


「ピンキーもお疲れ様、ゆっくり休憩しょう。」 エル


ブロロ『すごく気持ち良く走れたよ全然疲れない』 ピンキーも興奮覚めやらぬ状態だった。


「エル、あっちの木の実を出して。」 シャムの注文だ。魔法か呪文か使ってピンキーの疲れを取りながら走ったのだろう気がしたので素直に木の実を渡す。 ピンキーとキャッパオにもお裾分け。


「シャムはケット・シー なのか? 妖精を従え、火を吐く魔物を飼い慣らす、君は何者だ?」 ベティは訝しみながらエルを見る。 居心地悪そうなエル。


「普通の少年だよ。 この星に愛されし者。 チャリオットなんぞに騎乗するくらいだそこそこの出自だろ、王家の問いにも抗えるか? お前は秘密を守れる者か?」 応えるシャムを、ベティは睨めつける。


「秘密なら違えぬ! 王家には忠せ‥それ以上か なら、全教会か?」 ベティは目を白黒させる。


「教会?あんな傀儡の三下なんぞに俺たちが仕えると思うか? 」 シャムは無言で指を空に向ける。 ベティの顔色は赤から青くなり今しがた白くなった。


「伝説の 創造 神 様‥‥」 ベティは白く燃え尽き意識を手放した。



「シャム、オレは良くわかんないけど、ベティさんに対して罪悪感を半端なく感じるよ」 直接的にエルが悪い訳では無いが少々シャムの悪戯が過ぎたようだ。


「ベティはこっちにつけようぜ。こってり使ってやるさ!」 悪い顔のシャムがいる。


「うっわ〜」 エルは関わらない事を心に決めた。

癒やしを求めてピンキーとグレッグの元に向かうとキャッパオが愛想良く寄ってくる、例の木の実が気に入ったのか物凄く甘えてくる。 キャッパオは道産子の様に脚も太く力強いがポニーの様に小柄でキュートだ。


「シャム、晩飯の用意どうする?俺たちだけなら木の実と果実で良いけど。ベティさんどうするかな? 明日には目覚めるかな?」


エル達は河原から森に少し入った所の開けた場所を今日の寝床にした。 

ベティは運べないのでシャムが隠蔽と結界の呪文を掛けてそのまま放置した。

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