第3話 となり村

♢♢♢ 十九日目 魔女


無事にダグも仮申請できたし、誤解も解けたようだ。 ようだ、と言うのは魔女の大婆様が王都からまだ戻っていないから。王都までは乗合馬車で片道三日程、何事もなければ帰りの馬車に乗っている頃だろうか。


シャム&エルは王都に向かうべく大地を踏みしめていた!

主に大地を踏みしめる担当はエルだが…

馬車を使わず少ない資金を節約しながらの貧乏旅である。


王都に続く主要な街道は整備されており比較的安心して移動できる。 しかし、ひとたび街道から外れると道幅は狭くボコボコで荷馬車の御者も歩くほどである。 

なので、街道沿いの村は大きくなり、街道から離れるほど村が廃れていく。


「シャム!森より街道の方が歩きやすいのに疲れるのが早い気がする?シャム体重増えてない?」


「失礼だなエル!俺たち妖精に重さは無いぜ! 疲れが感じるのはこの地の飯に馴染んできたのさ! それで普通さ、あの方の地と木の実が疲れ知らずをもたらすのさ!」



「そっかー。 シャムが魔法で大きくなって乗せてくれるとか! 高速移動できるとか! あっ、空を飛べないの?」


「何 夢みてんの?エル! 出来るわけないじゃん! 魔法はイメージが大事だけどさ、そんなに都合良くいかないよ? それに、何を対価にするのさ? 対価を払わずに魔法は使えないよ! 俺も対価として忠誠と労働を納めてるぜ! 対価と能力があれば魔法が使えるさ!」


「それじゃあさ、対価を納めたらオレにも使えるかな魔法!」


「無理じゃねえか?あの方に対して忠誠心は無いだろエル? 心からの忠誠と心からの御祈り。

民が熱心にお祈りしていても、あんまり魔法が使えないだろ、なぜだと思う?

太陽や月はこの星に影響は与えてるし信仰心は強いが、この星の神様じゃ無いし影響力も無い。太陽や月の恵みは全て偶然であり必然さ、御祈りの影響は無い。

山や海にも信仰心はあるし恵みは其れなりの食糧が対価だな。 

あとは、よくわからん三下の神モドキにお布施やお祈りしても対価にはならないよ、胴元の宣教師が肥えるだけさ。奴らは神じゃないし、そもそも与えるチカラがないから。

土着信仰は本当の神じゃないから。 お祈り先が違うんだよ。

貧しい民ほど心からの感謝の御祈りしているから、ちょっと可哀想だけど‥

民達はあの方を知らないから、見えないし。

 あの方はこの星の****だから‥

まぁトップだ。 格が違う。 」


「オレもよくは見えなかったから、なんかこうキラキラ輝いてて眩しくて目を瞑っていて見えなかったし、お祈りが通じないかな? 御祈りってどうするの シャム?」


「決まりはないよ! あの方は見る者によって違う姿に見えるから。 俺たちケット・シーには猫神様に見えるぜ! クー・シーの奴らは犬神様だってさ、ただよ、人が道具を使い出してからは人の姿をされているのを良く見るけどな。

だからよ、膝をついて手を合わせて心からの感謝の気持ちを届けるんだ。 心からの気持ちは通じるものさ!」


「御祈りしてみるよ! ほんと感謝しているんだ。 あの病室のベットから解放してくれた事、この地に来て身体が思い通りに動かせる事、 そして、 シャムに逢えた事。

本当に ありがとうございます。」 


ここは街道沿いの通行者が休憩する少しひらけたなにげない場所、エルは膝をつき目を閉じて手を合わせる。隣に居るシャムは、「嬉しくなんかねーぞ!」ってウルウルしている。

一陣に風が吹き シャン と微かな鈴の音が届いた。


♢♢♢廿日目 名のない村でギョギョ


カミナリオコシ村から二日、名のない村に着いた。

村人からはタケシさんの村って呼ばれてる二十人くらいの村。 宿屋も飯屋も無い、のどかな村。 少しの食糧を分けてもらい、納屋の軒先を借りて今日の宿とする。


朝方、納屋の隣の厩舎から村のおじさん達の声が聞こえてきた、

「このちっこいのは脚がもうダメだ。これ以上大きくならんし潰すか? いや、こいつの血はウルフを呼ぶし、村の中じゃいかん! しかし、運べんぞ?」 

ヒヒーン『ガビーん!』


エルは懐かしい言葉に耳を傾けた。 『ガビーん!』 ってなに? 厩舎を覗きに軒先から移動する。


「おじさん おはようございます。 その驢馬がどうかしたんですか?」 


「おう坊主ゆっくり寝てたな! こいつか?こいつは大人にならない馬さ! 脚を痛めて使えねえし潰すか思案中さ。」 *この世界は動物や獣の種類を細分化していない、驢馬やポニーは大人になれない馬として扱われている。


『ギョエー、イヤダー ツブサナイデー ハタラクカラー』 エルにはこの驢馬の必死な声が聴こえる‥。


「おじさん、潰すならオレに譲ってくれない? この驢B‥大人にならない馬!」



エルは拙い交渉の末、脚を痛めている驢馬を譲り受けることになった。もちろん有償だ、持ち金全てを払って。 


「エル、どうするんだ?このちっこい馬、二束三文だろ!しかも怪我してるし。」


「薬草でなんとかならない? それと、この子の言葉が気になっちゃって‥

鳴き声の裏に前の世界の言葉が副音声の様に聴こえるんだ。」


「ちょっと待てよ、、、」 

シャムがブツブツ呟いて`ほい`っとステッキを振るい、そして、

「なるほどなるほど、このちっこい馬さぁ、エルと同じ世界から来てるよ!」


衝撃の事実にエルはギョギョっと驚いた。 魚じゃないよ 驢馬デスヨ。


♢♢♢ ドンキーストーリー


私は姫野藍子29歳、約2年半付き合っていた彼氏と結婚を約束していたが束縛が厳しくこのままだと潰されると思い別れる事を決めた。

付き合っている時には止められていたバイクで旅に行くことにした。

2年半振りのバイクは車検も切れて埃もかぶってる、職場にフレックス休暇を申請して、バイクの車検も予約して、ウェアも新調した。

いっぱい走って、美味しいものいっぱい食べてリフレッシュしてやる! 

久しぶりのバイクは大きく重く感じた、少し身体をバイクに慣らす為に週末には日帰りツーリング!ちょうど仔馬の出産時期らしく可愛い仔馬で癒されに近場の牧場を巡っていた。

仔馬は産まれて間もないのにスタイリッシュでシャープだ、仔犬や仔猫の様にコロコロしてない。そんな中、ちょっと毛色の違う仔馬が‥

ろば・ロバ・驢馬・ドンキー。 

仔驢馬かな? 

馬とは違う可愛さがある。カワイイと言うよりキュートな感じ!で癒されながら帰り路での信号待ち。 後ろからブレーキ音が近付いてきた。 これ以降の記憶は無い。


気が付けば藍子は産み落とされた仔驢馬に‥‥正確にはわからないが2回冬を越しているので2歳と少し。 そして、 いつも以上に重い荷車、ぬかるんだ路、車輪が滑った一瞬脚を取られ挫いた。

『アッ、イタイ』

どうにか厩舎まで辿り着いたが左の後ろ脚が腫れていて熱い。折れてなきゃいいけど、と思っていると、いつものおじさんが


『このちっこいのは脚がもうダメだ。これ以上大きくならんし潰すか? いや、こいつの血はウルフを呼ぶし、村の中じゃいかん! しかし、運べんぞ?』


『こいつか?こいつは大人にならない馬さ! 脚を痛めて使えねえし潰すか思案中さ。』


「ガビーん」  「ギョエー、イヤダー ツブサナイデー ハタラクカラー」 

藍子は泣いた、痛みとやるせなさに‥ボロボロ泣いて、いっぱい叫んだ。藍子は知っている、脚を怪我した馬は厩舎に帰って来ない理由を。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る