世の中でもっとも悔しいスタート

桃山台学

世の中で一番悔しいスタート

職場の仲間3人が残業後に一杯ひっかけよう、という話になり、飛び込んだ居酒屋で議論をしていて、どうでもいいような話なのだが、「世の中で一番悔しいスタート」はどういうものか、という話になった。三人とも疲れ果てていて、夜もふけており、なんとなく、そういう話の流れになったのだ。


「それは、箱根駅伝に繰り上げスタートだろう」

ユウヤが言う。

「箱根駅伝ではさ、復路で二十分以上差がつくと、前の走者のタスキを受け取れないままで次の区間の走者は走り出さなくてはならない。失格ではない。でも、受け継がれたタスキなしでスタートする、というのは相当つらいものだと思う」


「二浪して入った大学での最初の学期のスタートも割とつらいものだぜ」

とノリユキ。

「高校の同級生はすでに三回生になっている。体育会のクラブでいうと幹部で、自分は新入部員なんだから」


「そうか、お前も苦労したんだな」

ユウヤが返す。

「スタートというと、なんとなく、これから始まるということで明るいイメージがあるものだから、『くやしいスタート』という言葉自体が矛盾を含んでいるんだよな、『優しい悪魔』みたいなものだ」


タケシが焼き鳥の串をこそげながらしゃべる。

「ユウヤの駅伝の話じゃないけれど、ハンディキャップを背負って遅れてスタートする、というのがきついんじゃないかな。よーい、スタート、と走り出した段階ですでに少し絶望的な気分になるような」

「それは何かい、走る、というのは喩えで、遅れて開始するのがつらい具体的なものでもあるのか?」

「だからさ、やっぱ、これだよな」

ノリユキがジョッキを指さす。

「勢いで2時間飲み放題を頼んでしまって、よく考えると閉店まであと30分だと知ってしまったあとでの宴会のスタートだよ」


 たしかに、これこそが世の中で一番悔しいスタートであるな、ということで、参加者全員の一致を見た、わけである。


                                   了




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世の中でもっとも悔しいスタート 桃山台学 @momoyamadai-manabu

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