第75話 バードビル星周辺

 アイリス2に乗っているケンとソフィアはブルックス星系内で本来の運送業務をこなしていた。幸いにお金に不自由はしないので無理のない範囲で仕事を取っては星から星に荷物を運んでいる。


 今はバイーア惑星群 第8惑星を目指して宇宙空間を飛行していた。バイーア惑星群との取引は多い。この惑星から購入した小型だが高額になる機械や部品を運ぶ仕事はケン達中小の運送業者の仕事だ。輸送量が少ないので大手が引き受けない小口輸送を担当することによって大手と仕事を棲み分けしている。


『バイーア第8惑星まであと2日と5時間です』


「OKだ。48時間になったら向こうの港湾局にこの船のETAを送ってくれるかな」


『わかりました。48時間前に連絡を入れます』


「ケンが長居したくない星との取引が多いわね」


 この時間起きているソフィアが言った。ケンはあと2時間で8時間の休憩、睡眠となる。ソフィアが淹れてくれたコーヒーを口に運ぶと、


「バイーア惑星群はいわばブルックス星系の工場だ。どうしても出荷が多くなるよ。俺たち中小が大手のおこぼれをもらうことも多い。飯のタネが転がってる惑星群だな。本音では長居したくないが稼ぐためと割り切っているよ」


 今回の荷物の配達先はバードビル星だ。リンツ星と同じく宇宙空間にポツンと浮いている惑星で惑星自体はこれといった特徴もない星だ。この星の位置は暗黒星雲の近くにありブルックス星系ではこのバードビル星までが星系の影響圏としている。

 

 星系の端という見方をすればこのバードビル星やシエラ惑星群がブルックス星系の端に位置しておりシエラ惑星群が自星で防衛を担っているのに対してこのバードビル星では自星に強力な軍隊がいないこともありブルックス連邦軍が駐留して星系圏の防衛を担当していた。


 隣接する星系がなく暗黒星雲になっているので海賊が活動しやすい場所になっているこのエリア一帯。バードビル星政府は治安維持としてこの星にブルックス星系の連邦軍の基地を建設して星系軍の駐留を認めているがあくまで自星の勢力圏内についてのみであり範囲の外については治外法権という扱いだ。つまりバードビル星から少し離れるとそこは海賊が多くいる地域になっている。運送業界では有名な”やばいエリア”の1つだ。


 バイーア第8惑星についたアイリス2は小型のコンテナ2基を貨物室に積み込むとすぐに離陸した。ケンはこの星が好きではないのを知っているソフィアとアイリス。この星でゆっくりするくらいなら宇宙空間でゆっくりする方がマシだと常々言っていた。


『巡航速度になりました。バードビル星到着は今から40日と4時間後です。今のところ航路上に不安要素はありません』


「了解。ありがとう」


 アイリス2を自動運転にすると椅子から立ち上がるケン。先に立ち上がっていたソフィアがキッチンで淹れてくれたコーヒーを口に運ぶ。


「どの辺りからやばくなりそうなの?」


「アイリス、ここにルートをホログラムで出せるかな?」


『はい。今出します』


 そう言うと2人が座っているテーブルの上に3Dのホログラムが現れた。片側に荷物を積んだバイーア第8惑星があり、反対側の端にバードビル星がありその2つの星を結ぶ様に航路が伸びている。途中で色が変わっているのはワープゾーンだ。


「アイリス、悪いがバードビル周辺の星をアップしてくれるか?」


『わかりました。バードビル周辺の惑星、衛星をアップします』


 そう言ったがアップされたのはたった2つの惑星だけでそれも目的地のバードビル星からは相当離れている。えっ!という顔をしているソフィアを見たケンが言った。


「この星が一番近いがそれでもバードビルからはワープをしても10日の距離だ。この星だけがポツンと離れて浮いているんだよ」


「それでこのバードビル星というのはどんな星なの?」


 アイリスがアップした3Dのマップに視線を送りながら聞いた。


「特徴がない星だ。あえて言えば宇宙空間の補給基地。長距離を飛ぶ宇宙船がここで補給するんだ。そのための燃料ステーションが多数設置されている。大型から小型までのあらゆるサイズの宇宙船に対応できる様にいくつもステーションがあるんだ。だがそれ以外には特に自慢できる産業はないな。そして周囲に何もないが故にバードビル星から少し離れたエリアは危険だと言われている」


 燃料や食料、飲料水や衣料など燃料以外に生活必需品を販売することで星民が生活をしている星らしい。そしてこの星に寄港する小型、中型宇宙船を狙って海賊船がバードビル星の奥にある暗黒星雲のあたりにたむろしていることが多いと言う。輸送船も当然その情報をつかんでいる。なのでバードビルに向かう商船は船団を組むか護衛として戦闘能力の高い船を雇うことが多い。


 今回彼らが運んでいるのも機械部品となっているがおそらく燃料貯蔵庫関連だろうとケンは予測していた。ソフィアを見ながら話を続けるケン。


「いくらアイリス2が武装化して攻撃能力がアップしたといっても無闇に戦闘をする気はない。今回は新しく装備したデブリ偵察衛星を使ってバードビル周辺の宇宙空域を探索するつもりだよ」


「なるほど。あれなら安心ね」


「その通り。あれを使って取れる情報はしっかりと取ろう」


 シエラ第3惑星で武装したアイリス2は本体の武装化、船体の強化は当然ながらそれ以外にデブリに見せかけてある偵察衛星を数機積んでいる。これは地球連邦軍やシエラ軍が宇宙空間に多数飛ばしているデブリ衛星よりは小型で探査距離は短いが小型の分発見されにくいというメリットがある。このアイリス2には合計で8機の偵察衛星が積まれており船体の両側の側面のボットから放出できる様になっていた。


「アイリス、2機飛ばす準備をしてくれるか」


『分かりました。2機を発進する準備に入ります』


「具体的にはどうするつもり?」


 ソフィアが聞いてきた。バードビル星へのETAの連絡まではまだ時間がある、2人はオートパイロットにしてキッチンでコーヒーを飲んでいた。


「バードビルで荷物を下ろしたら一旦今の航路を逆にとって星から離れる。バードビルの

重力圏を出たところで2機放出。アイリス2はバードビル影響圏のすぐ外側で待機して情報を取る。もし海賊がいたらその映像を撮影してから偵察衛星を回収する」


 軍用ではないが十分に使えるという説明はシエラのMIBで説明を受けていたので実践でその効果を確認する必要があると考えていたところで今回はちょうど良いタイミングだとケンは感じていた。


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