第74話 ベースフォー

 シエラと地球とはお互いに潜在的な脅威、敵と対面しているという関係から情報を交換しつつ技術交流を進めていた。その中でシエラのAI技術と地球のハードの技術が融合した探査衛星の開発に成功していた。


 これは外見は300センチ x 100センチ程の大きさのデブリに擬態しているもので中にAIとレーダーが組み込まれておりこれを宇宙空間に配置して敵の動きを探査するものだ。

宇宙空間で放出されると無重力の中を惰性で飛行し、目的の座標に到達するとその場で停止しレーダーを稼働させて情報をシエラ、地球それぞれに送信する。中には自爆装置が仕組まれており異変を感じた際には中に組み込まれているAIの判断で自爆する様な設計になっていた。


 シエラはこれをファジャルのあるトレオン星系に向け、地球連邦軍はこれをエシクのあるロデス星系に向けて多数配置する。これにより今まで以上に隣接する星系の情報が手に入る様になった。お互いの長所をミックスさせたこの探査衛星はこれ以降2つの星の安全保障に大きく寄与することになる。



 太陽系連邦軍は自分たちが住んでいる太陽系の周囲にいくつも宇宙基地を持っている。以前にケンらが訪れたベースワンはブルックス星系方面の監視を目的に置かれており、それ以外にベースツー以下いくつかの基地があり周囲を常に警戒していた。


 その中にあるベースフォーはブルックス星系と太陽系を挟んで正反対の位置にあるロデス星系を監視する目的の基地であり、ここ数年はそのロデス星系の中のエシク星がちょっかいをかけてきていることもあり最重要ベースになっていた。


 ベースフォーはベースワンよりも規模がずっと大きい。従来の隣接している他星系の監視目的以外に常時連邦軍の艦隊が駐留しており有事の際の即応体制を備えていた。その連邦軍艦隊は1個師団が常駐している。彼らは空母5隻、駆逐艦20隻という堂々たる艦隊だ。このベースフォーは太陽系連邦軍の前線基地をも兼ねていた。


 シエラとの友好条約締結後に彼らから提供されたAI技術及びNWPエンジンを全艦装備しており不測の事態での迅速な対応が可能になっていた。


 そして今はこのベースフォーに駐留する1個師団とは別にもう1師団がベースフォーから5,000万Kmほど離れた小惑星群の中にある秘密基地に駐留していた。有事の際にはここから戦闘に参加する。こちらは前線基地よりも太陽系寄りにあることもありベースフォーよりもさらに大きな基地になっている。


 この小惑星群にある基地はベースアステロイドと呼ばれていた。元々ベースフォーのフォローをするために作られた基地なのでアステロイドと呼ばれている。こうして2個師団がロデス星系からの侵略者に備えて24時間体制で迎撃準備をしていた。


 この迎撃体制に加えて多数の探査衛星をロデス星系に飛ばしたことにより多くの情報が地球連邦軍の元に集まる様になった。そしてそれらの情報はシエラから導入した高性能AIが瞬時に分析をして前線本部や司令部に対してほぼリアルタイムで提供していく。


『ロデス星系におけるエシクの動きについては大きな変化はありません』


 AIから合成音が聞こえてくる。


「了解した。イヴ、引き続きよろしく」


『わかりました』


 ベースアステロイドに設置されているイヴという名前のAIが答えた。偵察衛星の情報は一旦全てここに集められ、処理されてから再びここから全てのベース及び地球の連邦軍司令部に報告される仕組みになった。以前のベースフォーのフォローだけではなく他のベースからの情報をまとめる前線基地の司令部的な役割になった。言うまでもなく連邦軍のベースにあるAIは全てシエラ製の最新のAIに置き換えられている。


 地球ではベースアステロイドからの情報はアメリカ大陸中央部にある軍総司令部とLAベースにある情報本部の両方でリアルタイムで受信していた。


 今はLAベースと軍総司令部の幹部同士がオンラインで打ち合わせを行なっていた。LAベースからは太陽系連邦軍LAベース最高指揮官であるブルー少将、太陽系連邦軍情報参謀本部長であるディーン准将、そしてその部下であるアラン大佐が出席していた。軍総司令部からは太陽系連邦軍副総司令官の地位にいるケネディ大将以下准将、大佐、作戦将校など5名が出席している。


「エシクがオーダーしたと思われる旗艦3隻の実戦投入はいつ頃になりそうだ?」

 

 軍司令部が聞いてきた。


「AIによりますと今から8ヶ月後から12ヶ月後の間に太陽系に進出してくる可能性が最も高いと言っております」


 LAベース所属のアラン大佐が説明をする。


「出現予定地点は?」


「こちらになります」


 そう言ってモニターに宇宙地図が現れた。出現予想ポイントは4箇所ありそれぞれの座標にマークが付いている」


「いずれもベースフォーから出撃して対応可能だな」


「偵察衛星をこの4箇所の周辺及びロデス星系に飛ばしておりますので十分に対応可能です」


 その後もやりとりがありお互いに情報を確認しあう。この会議に参加してそれまで黙ってやりとりを聞いていた太陽系連邦軍副総司令官の地位にいるケネディ大将が言った。


「ベースフォーにさらに空母1隻、駆逐艦5隻を回しておこう。ここでしっかりとエシクを叩けばしばらくはあちらの方角を気にしなくても良くなるからな。彼らが我々には敵わないと思うほど叩きのめすんだ」


「「わかりました」」


 会議が終わった5日後、地球から空母1隻と駆逐艦5隻が宇宙空間に飛び出すとベースフォーを目指して飛び立っていった。


 エシクの侵攻に備えて太陽系連邦軍はシエラから導入した新しい設備を備えた軍艦を多数配置することになる。

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