第73話 実弾訓練
厳重な警戒の下、周囲から完全に隔離されているポートシエラ15番ピアに着陸したアイリス2を待っていたのは情報本部の連中だった。シュバイツ准将以下スコット大佐など錚々たる面々がその帰還を待っていた。
「かなりの装備になっただろう」
「想像以上ですよ。これなら何かあった時のこの船の対応方法が変わります。NWPを見せることなく対処できるでしょう」
アイリス2から降りたケンとソフィア。2人が降りると情報部員とこの船のメンテナンスを担当する技術員らが入れ違いに船に乗り込んでいく。計器類の最終チェック及びAIの動作確認だ。
「MIBでも聞いたかも知れんがこの船には我がシエラ星のVIPが乗り込む可能性があるからな。今の時点で考えられる最高の武器とシールドなどを装備したと聞いている」
「そうみたいですね。それでチェックが終わったら試験飛行で動作確認をしたいのですが」
「そう言うだろうと思って事前に試験飛行空域を設定してある。このチップをアイリスに読み込ませれば大丈夫だ」
准将の隣に立っていたスコット大佐がケンにチップを渡す。
「メンテと最終チェックは明日一杯はかかる。試験飛行は明後日以降にしてくれ」
2日後15番ピアを飛び出したアイリス2は事前に指定した空域に向かって分速55,000Kmの速度で宇宙空間を飛んでいる。
オペレーションルーム、操舵室ではケンとソフィアがアイリスを交えて計器類のチェックを行っていた。アイリスはアップデートにより戦闘処理能力も追加されており、AIだけで戦闘にも対応することが可能になっていたがケンはAI任せにせずにしっかりと新しい設備について身につけようとしている。そしてそれはソフィアも同様だった。
『ワープ5分前』
アイリス2の声が船内に響いた。2人ともシートベルトを締めていたのでそのまま着席しワープに入る。飛び出した場所が指定された宇宙空域だった。
『100万Km先に小規模な小惑星群があります』
「なるほど、それをターゲットにしろってことか。アイリス。小惑星群に進路をとってくれ30万Kmに近づいたら減速」
『進路。小惑星群、30万Kmまで近づいたら減速します』
ケンの指示を復唱しながら機体は既にバンクして方向を変更していた。
それから10日間アイリス2は小惑星軍で戦闘訓練を続けている。ケンは今まで戦闘経験はなくソフィアとアイリスに教えを乞いながら自らに厳しい鍛錬を課していた。
「ケン、発射ボタンを押すのが遅いわよ。もっと早く!」
『今のは命中していません。発射のタイミングが0.3秒遅いです』
ソフィアとアイリス2からのダメだしをもらいながらも鍛錬を続けるケン。彼もソフィアも実際に戦闘そのものが無いのが最も良いのは知っているがだからと言って訓練をしなくても良いという事ではないのもわかっていた。
宇宙空域でアイリス2に乗っている2人とAIは様々なパターンで鍛錬を続けていた。ソフィアが機体を動かしケンとアイリスが射撃を分担する。時にケンが操船、時にアイリスが操船。そうしながら最も効果の出る方法を詰めていく2人とAI。
当初の予定よりもずっと長い期間戦闘訓練を続けているのでシエラ情報本部から問い合わせが来たほどだ。それでもケンは自分の技量をアップさせる為に納得するまで戻らないとソフィアとアイリスに話をした上で訓練を続けていた。
2週間が経つとようやく戦闘時のパターンができて来た。戦闘時にはアイリス2の操船をケンがメインに行いアイリスがそれをサポート。ソフィアとアイリスで全方向への武力行使を行うのが最も効率がよさそうだ。
「マニュアル併用の場合には今のこのパターンが一番安定しているな」
たった今小惑星の破片を破壊した後でケンが言った。ようやく当たる様になったがソフィアやアイリスに比べるとまだまだだ。
「そうね。アイリスの分析はどう?」
ソフィアが聞いた。
『お二人の理解通りです。ケンが操船し私が上部と下部と後部、ソフィアが前と左右を担当した場合が最も効率よく動けています』
「やっぱりAIと軍人には敵わないってことだ。適材適所でいいんじゃないか」
「やっとケンに自慢できる事ができたわ」
そう言うだけあってソフィアの攻撃時のレーザー砲の命中率は高い。スコープが青色になった瞬間に躊躇いなく発射スイッチを押していく。ケンはどうしても確認しようしてそのわずかな間にターゲットがロックオン状態でなくなることがしばしばあった。それでも訓練の最後の方にはなんとかそこそこ命中するまでには上達する。
「本職には勝てないよ。いや勝とうとも思わないけどな。こっちは運送屋で戦闘経験なんてないんだから。マニュアル戦闘モードの時はアイリスが指示するルートで船を動かすのであとはソフィアとアイリスに任せる」
鍛錬が終わりシエラ第3惑星に戻る途中でソフィアの淹れたコーヒーを飲みながらキッチンで会話をする2人。
『ケンも訓練当初よりはスキルが上がっていますよ』
「ありがとう。そう言われると少しは自信になるよ。ただ客と機体の安全を考えると戦闘時にはソフィアとアイリスに任せて俺は安全な航路を操船するのが一番いい。セミオートとでも言うのかな、ソフィアの武器はマニュアルモード、あとはオートモードが良いんじゃないか?」
『それが一番上手くいく確率が高いですね』
「そうだよな。プロに任せるよ」
アイリスとのやりとりを聞いていたソフィアが言った。
「操船はケンがプロだから任せろってことね」
「その通り」
シエラの15番専用ピアに帰還したあとは整備職員にアイリス2のメンテを頼んで2人は情報本部に顔を出した。
「予定よりも長い間鍛錬をしていたみたいだな」
2人を出迎えたのはいつものシュバイツ准将とスコット大佐だ。部屋に入るなりまず大佐がそう言った。
「今まで運送屋しかやっていないんですよ?武器の使い方にすぐ慣れろという方が無理がありますね」
「ケンはセンスはありますよ。これからもうちょっとマシになるんじゃない?」
ソフィアはそう言ったあとでアイリス2の装備が想像以上に充実していたといい、鍛錬の内容について2人に説明をする。情報部所属の軍人でもあるソフィアの説明は簡潔かつ明瞭でだった。聞いている2人は時折頷きながら彼女の話を聞いていた。
「なるほどMIBの連中も本気モードでやってくれた様だな」
「VIPが乗船される前提ですから当然でしょう」
准将が言うとスコット大佐がフォローする様に言った。
確かにと言ったあとシュバイツもスコットもアイリス2での戦闘についてはとりあえずなんとかなりそうだなという感触を得る。
「戦闘行為が無いのが一番良いのですが、万が一の場合にはアイリスとソフィアに任せるつもりです。門外漢が口出ししても碌なことがない。まずはVIPをお守りすることに注力しますよ」
「そうしてくれ。これからは星系内の移動も注意せねばな。戦闘訓練も備えあれば憂いなしだ。やらないよりやっておいた方がずっと良い」
その通りだとケンは大きく頷いた。ソフィアともこれからも時間と場所があれば戦闘訓練は続けようという話をしていた。
「アイリス2の改装は完了した。本業に戻るのかね?」
「そのつもりです」
「太陽系からのレアメタルについては当座の手当ては終わっている。アイリス2は運送業務をしながら情報収集を頼む」
シュバイツ准将の言葉に頷く2人だった。
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