第71話 武装
太陽系連邦軍はシエラよりの技術供与を受け彼らが出来得る最大限のスピードで自分達の機体に最新AIを搭載し、NWPエンジンを設置するなどの作業を行なっていた。
隣接しているロデス星系のエシクはたびたび領界侵犯をして太陽系の影響下内に戦闘機を飛ばしてきておりその頻度が最近になって多くなっていた中、シエラ星からの情報でブルック星系にて旗艦クラスを3隻発注しているという情報がもたらされると工場は臨戦体制で軍備の更新及び新造船の建造を進める。
その結果既存の艦船はそのエンジンをNWPに置き換え、全ての艦船に最新型のAIが搭載され連邦軍の軍事力は大幅に上昇することになった。
また太陽系の各地に多数の監視衛星を飛ばして監視の目を広げていった。これらの偵察衛星は小惑星群の中やあるいはデブリに擬態され24時間本部にデーターを送信することになる。
同じ事は地球連邦から遠く離れたブルックス星系の端に位置するシエラ第3惑星でも同じであった。
地球から艦船製造技術に加えレアメタルを入手した彼らは惑星内の海に浮かんでいる島の1つを造船所兼軍事基地としてそこで新型の艦船の製造を進めていた。
既存の艦船のエンジンは全てNWPエンジンに置き換えられ船体も強化しレーザー砲も地球の技術を導入して従来よりも威力が大きくそして射程距離の長いものに変えられている。
エターナルとアイリス2が太陽系より持ってきたレアメタルはシエラ第1惑星で艦隊のボディの材料として製造された後第3惑星に送られそこで組み立て及び内装工事や武器の装着が行われている。
シエラ大統領府にて会議が行われていた。参加者は大統領府の担当者以外に軍情報部、外交部、そして軍総司令部だ。参加者の前にはラップトップが置かれておりそのモニターにはアン大使の報告書が映し出されていた。
「アン大使からの定期報告では最近になってエシクの挑発活動が活発化しているらしい。ドレーマ星での大型旗艦製造もあり近い将来太陽系に侵攻してくる可能性が高いと分析している」
外交部の報告が終わると軍司令部が発言を求めた。
「今回太陽系から導入した技術を見るに彼らの製造技術、特にハード部門については相当高い水準にあると思われる。それに我が星のAI、電子技術が搭載されるとなれば以前よりも戦闘力が大幅に向上すると思われ、エシクの侵攻についても十分に対処できるのではないかと考えている」
「それは逆に言うと我々も太陽系の技術を導入して艦隊を製造しており、ファジャルの脅威にも十分に対抗できると言うことになりますか?」
この会議の司会役をしている大統領府の担当者が聞くとその通りだと頷く軍総司令部からの参加者が言った。
「しばらくの間静かだったブルックス星系、そしてそれに隣接している太陽系、そしてトレオン星系、最近になってブルックス星系の周囲が騒がしくなってきています。情報部としては戦争になる可能性についてはどう見ていますか?」
司会役が情報部に顔を向けた。情報部の出席者はシュバイツ准将とスコット大佐の2名及び補佐官だ。シュバイツ准将が隣のスコット大佐に二言三言言うとスコット大佐が顔を上げて参加者全員を見た。
「エシクがブルックス星系にあるバイーア第1惑星で大型旗艦3隻をオーダーした事実からわかります様に戦闘準備を整えているのは明白です。情報部の試算では2年以内にはエシクの艦隊が太陽系に現れるだろうと見ています」
誰かが早いなと言った。
「一方ファジャルについてですが一時の頻繁な領界侵犯はなくなり星系内での政治的活動に移行していましたがこれも思う様に効果をあげられておりません。従いここで再び武力による侵攻に切り替える可能性が高いと見ています」
情報部よりの報告に顔を顰める他の参加者達。
「ただ武力侵攻をするにしてもすぐの話ではないでしょう。そしてターゲットが我が星とも限りません」
スコット大佐が続けて言った言葉にどう言う事だという顔をする参加者。
私が説明しようと准将が大佐に言ってから参加者の顔を見回した。
「ファジャルは過去数度シエラ第3惑星にちょっかいをかけては全て撃退されております。彼らも簡単に我々を倒せるとは思っていないはずです。ハード(武力)からソフト(政治)に方向転換したのもその一環と考えております。もちろん我々も十分に注意し情報を収集しますがシエラ第3惑星以外への侵略の可能性についても情報部として情報収取に動き出しております」
准将が発言を終えると司会役をしている大統領府の担当者が今後の方針について情報部の意見を求めた。再度准将が発言をする。
「軍総司令部はすでに地球連邦軍より導入した技術による新しい艦船をシエラ周辺に順次配備しております。それと同時に監視衛星も数多く飛ばしておりファジャルがあるトレオン星系よりの進軍には即応体制ができております。これは引き続きそのままで活動をし、情報部としてはブルックス星系内の他の惑星の動きについて情報収集をするつもりでおります。外交部におかれては引き続き太陽系連邦軍の動きを報告願いたい」
大統領府での会議を終えた情報部のシュバイツ准将とスコット大佐は翌日ケンとソフィアを情報本部のオフィスに呼び出した。
ひとしきりの挨拶の後で准将が2人を前にして言った。
「アイリス2は引き続きブルックス星系内での運送業務を行なってもらいながら各星の状況について適宜報告してもらいたい。太陽系がきな臭くなってきており、その余波が我々の周辺に影響が出る可能性もあるからな」
情報本部の会議室で准将と大佐の話を聞いているケンとソフィア。太陽系からレアメタルの原料を持ち帰ったこともあり今何が進んでいるのかおおよその予想がついていたので2人とも准将の話に驚かずに聞いていた。
「まぁ自分はいつも通り運送屋をしておれば良いってことですね」
准将の話が終わるとケンが言った。
「そう言う事だ。ちなみにケンはファジャルが動くとしたらどう動くと考えているんだ?思うところを言ってみてくれないか」
無茶振りしてくるなと准将の言葉を聞きながらケンは思ったが、
「全ての事情を知らない私のあくまで私見ですが、動くとしたら2段構えでくるんじゃないでしょうか」
「「2段構え?」」
准将と大佐が同時に言った。ケンの隣にいるソフィアもどう言う事と言った表情でケンを見る。
「そうです。政治的に動いてブルックス星系を乱そうという動きは上手く行っているとは思えません。となるとやはり実力行使になるでしょう。まずは海賊船を装った治安悪化、これで経済にダメージを与えて連邦の人々の不満を高まらせる。それから本格的に軍隊が侵攻してくるんじゃないですか?今のブルックスの状態でいきなり軍隊を送り込んでも勝算は低いでしょうから」
なるほどとその場にいた3人が感心する。
「自分は運送屋をしているので分かります。物流が落ちこむ時は景気が悪い。その状態が長く続くと不満が出てくる。幸いに今まではその物流が落ち込んだ期間が短かったので大事になっていない。でも人為的に物流を長期間落ち込まされると立ち行かない会社や工場が出てくるでしょう。不満は連邦政府に向けられます。その不満はいつ武力行為に変わってもおかしくない。当然連邦政府は武力行為の押さえ込みにはいるでしょう。そのタイミングで星系外から侵攻してくる可能性があると考えます」
ファジャル主導の海賊船で星系の治安悪化を狙うのが第1段階、そして悪化したところでファジャルの軍隊が乗り込んでくるのが第2段階。2段構えとはよく言ったものだと感心するシュバイツ准将。
それにしても手持ちの情報が少ない中でここまで読んでくるか。
准将と大佐が黙っているとケンが言葉を続けた。
「海賊船が増えたら報告します。ただ増えるとこちらの危険度もぐっと上がる」
「ケンの言う通りの展開になれば当然そうなるな」
そう言った准将の顔をみて頷くケン。
「そしてエシクとファジャルが組むという事もあるかもしれないと思っています。彼らにはNWPがないのでこの可能性は低いでしょうけどこの宇宙では何でも起こりうりますからね」
「うちと太陽系連邦軍との連携の様なものか。ただケンも言っているがNWPがないと星系をまたいでの交渉は簡単ではないな。ただその可能性も頭に入れておく必要はある」
准将とケンのやりとりを聞いている大佐とソフィア。大佐はケンの先を読む能力に感心していた。今までの実績から分かってはいたがそれでも目の前のこの地球人にはいつも驚かされる。
「海賊船が増えてからでは間に合わない。アイリス2にはVIPも搭乗することもある。最悪の事態を想定してこちらも準備しておいた方が良いだろう」
准将はそう言ってケンを見るとはっきりとした口調で言った。
「アイリス2を武装しよう」
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