第70話 シエラ第1惑星
タイタンベースで積み込みを行っている時にNWP通信でシエラより入電があり、積み込んだ荷物はシエラ第1惑星に運んで欲しいとその座標も合わせて送ってきていた。ここで積み込んだレアメタルを第1惑星の工場で精錬し、製品に仕上げることになる。
『NWPワープアウトしました』
その言葉と同時に軽いGがかかり、いつものシエラ第1惑星の小惑星群の近くにワープアウトしたアイリス2。機首を第1惑星の港に向けて降下を開始する。
この第1惑星は資源惑星でもあり一般人の立ち入りが禁止されている。ケンはもちろんソフィアも初めての訪問らしい。第2惑星の方は農業星でもあり比較的自由度が高いらしい。
「第1惑星って機密の塊の様な惑星でしょ?当然ね」
とシエラ星人であっても入星が制限されることについては理解しているソフィア。確かに見る人が見ればおおよその精製能力はわかるだろうしうろうろすれば採掘している鉱物の種類だってわかるのかもしれない。
ケンもソフィアも無用に刺激をしたくないので運送業者に徹するつもりでいる。
『第1惑星港湾局より通信です』
繋いでくれと言うとモニターに男性職員の顔が映った。
「こちら第1惑星港湾局だ。遠路御苦労様」
「こちらアイリス2、配達にやってきた」
「大統領府よりも連絡が来ている。今から座標を送るのでそちらに着岸してくれ。5番ピアだ」
『座標受け取りました』
アイリスの声が聞こえると
「座標を受け取った。5番ピア了解」
港湾局とやりとりをしている間にもアイリス2は第1惑星に近づいていた。成層圏を抜けて下降していると第1惑星の地表が見えてくる。資源惑星ということで赤茶けた大地ばかりだと想像していたが窓から見える景色には緑も多く木々も生えていた。
「もっと赤茶けた大地を予想していたのに大違いだな」
「私も初めて見るけど本当ね。緑が多いわ」
アイリス2が高度を下げていくと地表面がより鮮明に肉眼でも見えてきた。資源惑星と呼ばれているがその開発は可能な限り自然と調和した形で進めているのだろうと目の前の風景を見ながらケンは想像する。乱獲をしていないところもシエラという星の優れている点を垣間見た気がしていた。
「高度100メートルで水平、そのままゆっくりと降下。20メートルで機首を変更して着地」
『100メートルで機体水平、そのまま降下し20メートルで機首の向きを変更して着地します』
いつものやりとりを経てアイリス2はシエラ第1惑星の港に着岸した。
『着岸完了。外気圧、外気温問題ありません』
「ハッチロック解除、メインエンジン停止。補助エンジン作動」
『解除しました。メインエンジン停止しました。補助エンジン作動します』
ケンとソフィアがシートから立ち上がると機体後部に移動する。ケンの指示で後部ハッチがゆっくりと上に上がっていきアイリス2のピアの前で待機している作業車の姿が目に入ってきた。
「遠路御苦労さんだったな」
港湾局の職員が声をかけてきた。彼の指示で作業車が大型コンテナを荷下ろすべく後部ハッチに向かって動き出した。
「こっちは仕事だからな。貰えるものが貰えるのならどこでも行くさ」
ケンもソフィアも目の前の港湾職員がどこまで背景を知っているのか分からないので差し障りのない会話を続けている。
「この後はどうなってるんだい?」
運び出されるコンテナを見ていた職員が顔をケンに向けた。
「決まってないんだよ。第3惑星に行って次の仕事を探すつもりだよ」
無事にコンテナが運び出されたのを確認したケンとソフィア。港湾局の職員に礼を言って後部ハッチを閉めるとメインルームに戻ってきた。
「指示がないがとりあえず第3惑星に向かおう。簡単なメンテもしたいし」
「そうね。ここまできて素通りって訳にはいかないわよね」
そう言うことだと言ったケンがアイリスに指示を出すと離陸の許可を貰った機体がゆっくりと上昇をして宇宙空間に飛び出して2人の自宅があるシエラ第3惑星に機首を向けた。
アイリス2が離陸して飛び去ったのを見ていた港湾局の職員、さっきまでケンの相手をしていた担当者は個室に戻ると秘密通信をシエラ情報部に送信する。この職員は情報部所属だった。
ー アイリス2は荷物を下ろして第3惑星に向けて出発。乗員であるケン、ソフィア共に積載している荷物について、また第1惑星に関する話は持ち出さずに離陸した。船自体に異常はなくまた2人とも積んでいる荷物や第1惑星についても無関心な模様であった ー
こうして訪問者の言動を報告する義務がある職員。彼の仕事は港湾局としての仕事以外にシエラに不利益を与える可能性がある訪問者を見つけ出すことだ。また船がシエラ製でない場合の船の様子特に武器関係の装備についてチェックするという仕事が与えられている。今回のアイリス2はリンツ星所属なのでその点もチェックした職員。
彼はこの船が太陽系からレアメタルを運んできたことは知っているがその背景や乗組員についての情報は持っていない。そこは情報のコントロールが上手く効いている。
通信を受け取った情報部は通信の内容をスコット大佐に伝えた。
「当然だな。だからの一流なんだ」
通信を見た大佐はそう呟いた。
アイリス2はシエラ首都ポート15番ピア、彼らの専用ピアに着岸するとそこにいる職員にメンテナンスを依頼した。
「1週間ほどは動かないと思うのでその間でお願いしたい」
「わかりました」
2人は一旦シエラの自宅に戻った翌日、情報部に顔をだした。アポイントを取っていたのでスコット大佐が2人を出迎える。
「今回のレアメタルの輸送、アイリス2とエターナルの2船でかなりの量を持ち込むことができた。また地球連邦軍よりは今後も太陽系産のレアメタルの供給について確約をもらっている」
スコット大佐の言葉に頷く2人。つまり今後も土星のタイタンベースへレアメタルの引き取りに出向くことがあるということだ。ケンの思いを察したかの様に大佐が続けた。
「今回は初回ということでかなり多めに購入したが次回以降は数量を抑えるだろう。つまりアイリス2で運ぶことが多くなる」
「NWPが使えるのであればリスクは低いしこちらは問題ありませんね」
ケンの言葉に頷く大佐。
「まぁ直ぐにまた太陽系のタイタンベースに出向くことは無いだろう。こちらの指示があるまで通常の輸送業務をしてくれて構わないよ」
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