第67話 太陽系産レアメタル

 連邦軍との会談が終わるとスコット大佐は情報部に戻りすぐにシュバイツ准将以下関係者と打ち合わせをしてたった今終わった会談の内容を仔細に報告した。


「太陽系からレアメタルを安定的に仕入れることができる様になれば我が軍独自での艦隊製造がグッと楽になる。NWPがあるから他の星系にもバレないだろうし良いことずくめだ」


 そして太陽系連邦軍よりレアメタルの供給がOKとなる前提でその手当てのためのスキームを組み直していく。ヴェラピクより購入するために動いていたシエラが管理しているダミー会社にはコンタクトを一旦中断する様に指示を出し、シエラ港で出港の準備をしていた輸送船エターナルにも目的地変更の可能性が出てきたと説明し待機させることにした。


「アイリス2はどうしますか?」


 情報部員の一人が聞いてきた。


「地球側よりの回答次第だ。数量が多ければエターナルとアイリス2を派遣しよう。エターナルだけでいける場合にはアイリス2はその次の輸送を担当させよう。この2隻は一度はレアメタルの船積みを経験した方がよいだろうからな」


シュバイツ准将がそう決断をする。


 会談から3日後シエラにある太陽系連邦在シエラ大使館から外交部に連絡が入った。太陽系連邦軍はシエラ第3惑星に今後継続的にレアメタルを販売、供給することを了承したというものだった。


 合わせてこのレアメタル輸送に関わる地球側のセクションとレアメタルを生産、出荷している星の情報を開示してきた。


 それによると今回のレアメタルの販売及び交渉の窓口は連邦軍LAベース情報部となり、またレアメタルを生産している星は土星の衛星の1つであるタイタンで、その軌道上にあるタイタン基地より出荷するという。


 シエラ外交部はすぐに情報部と打ち合わせを行った上で必要なレアメタルの種類と数量の希望を地球側に連絡する。


 窓口がLAベースになったのは地球にあるシエラ大使館と隣接しており何かと意思疎通がしやすいという連邦軍側の配慮でもあった。もちろんシエラとの関係が周囲に漏れない様にするという機密保持の大前提がある。


 一連の情報を受け取った地球にあるシエラ大使館はアン大使がすぐに隣にあるLAベースを訪問してそこのトップであるブルー少将とディーン准将に会ってお礼を言った。


「いやいや、エシクがブルックス星系でレアメタルを手当てし艦船を作ろうとしている情報を取ってきていただいてこちらから礼を言わないといけない立場ですよ」


「シエラとしても懸案の事案がこうして同盟相手からのご提案で上手く収まりそうです」


「お互いに仮想敵国はある。準備はしっかりとした方が良いですからね」


 ブルー少将によると最初のNWPエンジンを積んだ輸送船はもうすぐ試験飛行をする予定だという。


「これが成功するとこちらもシエラにすぐ飛んでいける輸送船を持つことになる。そして我が軍の他の艦船にも順次NWPエンジンを搭載していく予定です。すでに工場はそれに備えてフル稼働で動いていますよ。それにしてもエシクがブルックス星系にまで手を伸ばして戦力の増強を図っているとは。こちらも対応を急がねばなりません」


 こうしてシエラと太陽系連邦とは協力体制を強めながらお互いの敵国との武力抗争に備えることとなる。連邦とシエラの両方で同盟国間での技術交流のスピードが上がっていった。



 その頃アイリス2はバイーア第1惑星を飛び出してフェアリーモント星の近くまで飛行してきていた。


『フェアリーモント星港湾局と繋がりました』


 アイリスが言ってモニターに職員の顔が映る。


「こちらアイリス2、キャプテンのケンだ。今回は仕事じゃなくてプライベートでお世話になる」


『こちらフェアリーモント星港湾局だ。ようこそフェアリーモントへ。アイリス2がプライベートの寄港であることは宿泊先のホテルから連絡が来ている。いいホテルに泊まるんだな。あのホテルは独自にピアを持っているからそちらに着岸してくれ。座標は今送った』


「了解した。ゆっくり息抜きさせてもらうよ」


 通信を終えるとアイリスから座標が届いて目的地にセットしたと声が聞こえてきた。


 アイリス2が指定された座標に向かって進みETAが18時間後になった時に通信が入ってきた。ちょうどケンとソフィアの二人が起きていた時間帯で二人はキッチンでコーヒーを飲んで雑談をしてるところだった。


『ケン宛に通信が入りました』


「モニターに通信文をアップしてくれ」


『アップしました』


 キッチンにあるモニター上にシエラ情報部からのメッセージが表示される。


ー フェアリーモントで待機せよ。目的地変更の可能性あり ー


「アイリス。俺の名前で通信内容了解したと返事を送ってくれるか」


 一読したケンが言った。


『はい。今送信しました』


「どう言うことかしら」


 アイリスの言葉が終わるとソフィアが聞いてきた。


「分からないな。まぁフェアリーモントでゆっくりできるんだ。良しとしよう。すぐにどっかに行けと言われた訳じゃないからな」


「そうね。せっかく良いホテルを取ったんだしのんびりさせて貰うわよ」


 この短い通信では確かに背景を読み取ることは難しい。何かの突発的な事情でヴェラピクからすぐにレアメタルを買い付けすることが出来なくなったのか、あるいは他の輸送船で運ぶ分しか買えなかったのか、いずれかだろうとケンは考えていた。ただ目的地変更の可能性ありという意味がわからない。シエラ情報部にしては指示が曖昧だ。他の仕事を受けるなという事は分かるが、なら何を考えているのか。ヴェラピク以外に急ぎで行かなければならない場所が出てきたのか。ただ急ぎなら指示がもっと具体的だろう。


 ケンが思っていることをソフィアに言うと確かに情報部がこんな曖昧な指示を出すのは珍しいという。


「でも待機と言ってる時点でそう遠くない時点で具体的な指示がでると思うわ。情報部はそういう表現では決して間違いをしないから。無いなら無いとはっきりと言ってくるもの」


「そうだろうな」


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