第66話 発注主
NWP通信で飛び込んできたソフィアの報告を受け取った情報部は直ちに動き出した。ブルックス星系に送り込んでいる諜報部員を総動員して情報を収集する。情報の取捨選択については厳しい訓練を受けた部員たちが膨大な入電から適切にプライオリティをつけていく。そしてソフィアからの連絡は最上級のプライオリティとなった。
シエラ情報部より宇宙のあちこちに派遣している情報部員への暗号メッセージもその通信の最初に
ー 本件はトッププライオリティで対処すべし ー
と指示したこともあり次々と情報が入ってきていた。
ただそれらのほとんどは
ー この星では現在軍備増強の兆しはなく。また老朽化している大型艦船もない ー
という報告であり、
いくつかの星からは
ー 戦闘艦の老朽化は以前から言われているが今回のオーダーがこの星によるものかどうかは今の所不明 ー
というものだった。
情報部もケンと同意見でドレーマ星が前金で旗艦3隻の金を払うこと自体があり得ない話であり、どこかのダミーの役割を担っているのだろうという結論になっている。
そんな中ブルックス星系の各地に散らばっている情報部員ではなく全く違うセクションから情報が飛び込んできた。
ー ドレーマ星付近で見たこともない船型の輸送船を見かけた ー
という情報だ。シエラでは惑星や衛星にスパイを送り込んでいる以外に星系のあちこちにある小惑星群の中にデブリに見せかけた通信傍受設備の衛星を送り込んでいる。それらは日々星系内を飛び交う膨大な通信を拾っては本部に送信してきていた。本部はそれらを一旦受け取りキーワードを打ち込んでスクリーニングして通信内容をチェックしている。
この通信傍受を担当しているセクションから先ほどの通信が入ったとの連絡があり直ちに付近にいるシエラ籍の輸送船がその実態を探るべく活動を開始する。と同時に通信をチェックしているセクションがさらに調査していくと予想外の事実が明らかになった。
星系内を移動している多数の輸送船と港湾局の会話を抜き出してチェックしていたところ、ある輸送船と港湾局との通信のやりとりの中で、
ー エシクって一体どこだよ。そんな聞いたこともない星の船の後に入港なのか? ー
という会話を発見する。
ロデス星系のエシクは太陽系連邦軍の目下の脅威となっている星だ。
確定するには情報がまだ不足しているが、点と点がつながったと判断した情報部はこの情報を太陽系連邦軍に渡すべく外交部経由でシエラ星にある地球大使館とコンタクトを取った。
「スコット大佐、お久しぶりですね」
「アーノルド大使も。どうですか?シエラには慣れられましたか?」
シエラ軍基地の隣にあるケン・ヤナギ運送の建物、そのビルは1階のみ運送会社の体をなしているが2階から上は完全に別の建物になっていた。地球にあるシエラ大使館と同じく頑丈に作られた建物の中には地球より派遣された外交官や情報部員が仕事をしており、ビルの地下には隣接するシエラ軍事基地への地下道が整備されている。
ここにもNWP通信設備が完備され、1時間かからずに地球と交信することが可能になっていた。
同盟を締結し地球からやってきた一行とは既に何度も打ち合わせをしている情報部。スコット大佐は大使以下全員と顔見知りになっていた。
建物の3階にある会議室に案内されたスコット大佐と情報部の部員2名、それと外交部の担当者2名の5名はテーブルを挟んでアーノルド大使以下連邦から派遣されている情報部員や外交部員と挨拶を済ませると早速会議を始めた。
ロデス星系にあるエシク星がこのブルックス星系内にあるドレーマ星をダミーとしてバイーア第一惑星で軍艦3隻を建造している可能性が高いという情報を出すとテーブルの向かい側に座っている地球人全員の顔色が変わった。
「情報自体は少ないですが確度的には高いというのがシエラ情報部の見解です」
そう言って説明を終えるスコット大佐。
少し間を開けて一人の地球人が話を始めた。彼は連邦軍参謀本部よりこの星に赴任しているアダム大佐で、こちらでいう情報部の大佐、つまりスコット大佐と同等の地位にある人物だ。
「情報ありがとうございます。正直驚いていますが十分にあり得る話だと考えられます」
アダム大佐が言うには連邦軍の持っている情報ではロデス星系でもレアメタルは産出されるがその量は多くなくロデス星系内の星に対しては配分制で販売しているらしい。
つまり艦船を作りたくても配給されるレアメタルの量分しか製造できず、なかなか増強することが出来なくなっている。そしてそれはここブルックス星系のヴェラピクでも同じだ。どの星も一度に大量にレアメタルを買い付けることができない。
「今まではその情報があったので我々としてもエシクが大規模な攻勢をわが連邦に仕掛けてくる事はないだろうという見方をしていたのです」
今回の情報から彼らはロデス星系内ではなく他星系からレアメタルどころか艦船そのものを手当てしようと考えているとわかりそれはすなわち急いで軍備を増強する必要があるからだと判断する。
「嬉しい状況ではありませんな」
「そうですね。ただ事前に情報をいただけたので十分に対処する時間があります。幸いにシエラから導入した電子技術によって質の高いAIや電子部品の製造を開始することができ、現在順次艦隊に搭載しているところです。もちろんNWPエンジンについても然りです」
礼を言ったアダム大佐にスコット大佐も言葉を返す。
「うちの技術がそちらの役に立って何よりです」
「太陽系には幸いにレアメタルは無尽蔵と言って良いほど存在しています。こちらの艦隊の方が数が多くそれに加えてシエラの電子技術が導入されればまず負けることはないでしょう」
エシクが太陽系を狙っている理由の1つは我々の資源ですと補足する大佐。
「なるほど。それにしてもレアメタルが無尽蔵にあるというのは羨ましい話ですよ。我々の星系ではヴェラピク星でしか採掘できませんから。星系内の各星が保有している軍艦や電子部品に使用されるレアメタルはほぼ100%ヴェラピクのものになっていいます」
太陽系連邦軍側は今のスコット大佐の話を始めて聞いた様だ。驚いた顔をしていたが彼ら同士で少し話をしたあとでアーノルド大使がこちらに顔を向けると、
「レアメタルという重要な原料、素材が1つの星系からしか手当て出来ないというのは秘密保持の点から見ても不安でしょう。我々がレアメタルをシエラに提供しましょうか?もちろん商売なのでしっかり利益は貰いますが」
今度はシエラ側の連中がびっくりする。まさに渡りに船といった話だ。
「今のアーノルド大使の話は社交辞令ではありませんよね?」
大佐が言うと声を出して笑ってそんなことはありませんよという。
「我々はそちらの星から最重要機密を開示していただいている。もちろん我々からもレーザー砲の技術や艦隊製造技術を提供している。ただいくら艦隊製造技術を提供してもそれを建造する際の原料の手当てで不安を抱えておられるのであればその原料提供も含めて協力するのが当然でしょう」
アーノルド大使はこの後地球と交信をして確認するというがまず問題ないだろうと言い、アダム大佐も地球とシエラの同盟関係を考えれば問題ないですよと言う。
「しかも今回の様に我々にとってとても重要な情報を教えて頂いている。貰いっぱなしというのは気分が落ち着かないんですよ」
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