第65話 武器惑星

 『ケン宛てに通信が入りました』


 起きていてメインルームの船長席に座っているケンにアイリスの声が聞こえた。ソフィアはあと2時間休憩タイムだ。

 

 アイリスがどこからの通信といわない時、その通信はシエラ情報部からの連絡になっている。 


 座っている席の前にあるモニターに通信文が現れた。


「アイリス。見ての通りだ。バイーアで荷物を下ろしたらヴェラピクに近い星で待機しておいた方がよいだろう」


『ではフェアリーモント星になりますね。この時期ですとホテルの空室も多く待機するには最も条件が良い星になります』


 フェアリーモントか、ソフィアと二人でのんびり過ごすのも悪くないか。



 起きてきたソフィアにこの仕事が終わったらフェアリーモント星のホテルでのんびりしようというと彼女の目が輝いた。有名な観光惑星で休暇を取ることが嬉しいらしい。


 ケンとしてはソフィアが喜んでくれればよいのでバイーアのあとはフェアリーモント星に向かうことにしたがまずは積んである荷物を無事に届けなければならない。


 アイリス2なら30日以内でのデリバリーは可能だがあまり順調にやると却って怪しまれるので30日を1,2日過ぎたタイミングでバイーアに到着する様に機体を飛ばしてしていた。現在は分速40,000Kmでのんびり飛行中だ。


『バイーア第1惑星到着予定は今から5日と25時間後、ヴェラピクを出てから31日と2時間後になります』


「いい感じだ」

 

 そう言ってケンは隣に座っているソフィアにフェアリーモントでのホテルの予約を頼む。


「どこでもいい?」


「ああ。折角の休暇だからケチらずいいところに泊まらないか。お財布も潤ってるし」


「じゃあとびっきりの所を探さなきゃ」


 嬉々としてサイトでホテルを探し始めるソフィア。アイリスとフェアリーモント到着予定日などを確認しながらどこにしようかなんて言っている。


 それを横目にケンは今回の情報部の依頼について考えていた。


 飛び込んできた通信の内容はシンプルだ。


 ー 近々ヴェラピクからシエラまで荷物を運ぶ仕事がある。今の仕事が終わったら新規の仕事は取らずに近くで待機しておく事 ー


 まだ契約していないが近々発生する仕事。内容はヴェラピクからシエラへの鉱産品の輸送。鉄や銅は確かシエラの資源惑星で採れる。となると運ぶのはおそらくレアメタルだろう。


 見えてきたなとケンは理解する。今自分たちが積んでるのと同じ品物だ。


 ホテルを予約したわよというソフィアにフェアリーモントに泊まる背景となった情報部からの通信を見せるとのんびりできると喜んでいたソフィアの顔が一瞬で引き締まった。彼女も情報部員だ。少しの言葉でその背後にある意図を推測することができる。


「いよいよシエラで純国産の戦闘艦を製造するのね」


「そうだろう。地球連邦軍との同盟で開示されたノウハウを基にしてやりそうだな」


「情報部から来ている報告書を見ると地球連邦軍の軍艦の船体製造とレーザー砲の製造技術はブルック星系のどれよりも高水準らしいわ」


「それにシエラが誇る電子部品関係。同盟2国の軍事力はすぐに大幅に上昇しそうだな」


「強い軍事力は強い抑止力になる。一度はどこかで披露しないといけないけどその後はずっと楽になるでしょう」




『バイーア惑星群の勢力範囲に入りました』


「第1惑星の港湾局と繋いでくれ」


 すぐにモニターに第1惑星の港湾局の職員の顔が映ってきた。


「アイリス2だな。連絡が来ている。バイーア第8ポートの2番ピアだ。座標を送る」


 すぐに座標が送られてきた。アイーバは星全体に工場が点在しており第1惑星内でも10以上の港を持っている。


『座標確認しました。ETAは今から1日と8時間後です』


「了解。このまま進んでくれ」



 予定時間通りにアイリス2はアイーバ第1惑星に着陸する。後部ハッチが開くとこの前第8惑星でも感じた匂いが一瞬入ってきた。隣を見るとソフィアも頷いている。


 ケンとソフィアはいつも通り荷物の積み卸しには毎回立ち会っている。今回のこの星は降りたくない星だがだからと言って機内で待つことはせずにしっかりと機体後部のハッチ近くに立っているケン。


「かなり急ぎの荷物だったみたいだな」


 ケンが立ち会っていた港湾局の担当者を見つけて言った。

 荷物はすでにエアリフトに積まれてゆっくりとアイリス2から卸されているところだ。


「その様だな。詳しいことは聞いてないが相当焦ってた。製造会社が材料の数量の計算ミスをしちまったとかじゃないのか?」


「あり得るな。まぁこっちはおかげで稼がせて貰ったよ」


 荷下ろしを見ながらそんなやり取りをしていると一人の男性がアイリス2に向かって走ってきた。どうやらこの荷物の受け取り人の様だ。

 

 アイリス2にたどり着くと息を切らせながら


「助かったよ。あと8日でこの材料が切れるところだった。切れたら工場が稼働できなくて大損するところだったんだよ」


「間に合ってよかったよ。でかい船でも作る時の材料かい?」


「そう。ドレーマ星から旗艦クラスの軍艦3隻の注文でさ。全額前金で貰ってる代わりに納期に煩いんだよ。これで何とかなりそうだ」


 ケンとソフィアにお礼を言ってエアリフトに積まれたコンテナと一緒に倉庫の奥に向かっていった。

 

 港湾局の担当者がケンに顔を向ける。


「あんたのおかげだな」


「まぁ損が出ないのならよかったよ」


 内心の思いは別にしてあくまでいつも通りの表情で答える。隣のソフィアはずっと黙ってやりとりを聞いていた。

 

 荷卸しが済むと後部ハッチがゆっくりと閉まっていく。


「じゃあこれで。また来ると思うけどその時はよろしく」


「ああ。気を付けてな」


 二人はアイリス2のメインルームに戻るとまずソフィアが港湾局から出港の許可を取る。許可が下りるとAIのアイリスを呼び出し、


「この星での仕事は終わった。アイリス、出港だ」


『はい。出航します』 


 いつも通りのやり取りでアイリス2は機体を浮かせると次の目的地であるフェアリーモント星を目指して飛び出していった。


「次の目的地はフェアリーモントだ」


『はい。フェアリーモントを目的地に設定しました』




「ケン、ドレーマ星って確か貧しい星よね」


 機体が宇宙空間に出て巡行速度になると二人で背後のキッチンに移動し、ソフィアがコーヒーを2つ淹れてテーブルに置き、椅子に座ると言った。


「その通り、かなり怪しいな。あの星は軍艦なんて持つ星じゃない。しかも前金で全額払ってる。普通ならあり得ない。しかも3隻だ」


「ということは」


「そう。本当の顧客はドレーマ星じゃないってことさ。彼らは単なる買い付けの窓口だ。ドレーマ星自体がダミーだろう」


 その言葉にソフィアも納得する表情になった。


「情報部に連絡いれておくわ」


「それがいい。ファジャルの軍艦になるのか海賊船になるのかはわからないがいずれにしても良い話じゃない。旗艦クラスが3隻は影響が大きい」


 ケンはファジャルの軍事技術のレベルを知らない。ソフィアにその点を聞くと彼女も首を左右に振った。


「私も詳しくは知らないの。ファジャルについては情報部の別のセクションが担当だから。でも以前聞いた話だとあちらの星系とこっちの星系の軍事技術はほぼ同じだって言ってた」


 そう言って彼女はその場でPCを立ち上げると報告書を作成し始めた。

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