第64話 その頃シエラ星では

「こちらアイリス2。出航準備は完了している。いつでもOKだ」


「アイリス2、了解した。今からゲートをオープンする。浮上して旋回してくれ」


「補助エンジン始動。微速前進。第2ゲート前で待機」


『補助エンジン始動、微速前進します。その後第2ゲート前で待機します』


「了解」

 

 港湾局との通信を終えるとケンの指示でアイリス2は停泊しているピアからゆっくりと浮上し、高度10メートルで機首をゲートに向けた。それに合わせて第2ゲートがゆっくり左右に開いていく。


 アイリスが復唱し完全に左右に開いたゲートをくぐっていった。移動中に窓から左右を見ると他の船も次々とその場で浮上を開始している。ブリザードが終わり一斉にゲートから船が飛び出していき、その後惑星の周囲で待機していた船が次々と入港してくるのだろう。ヴェラピク港港湾局はこれから猫の手も借りたい程に忙しくなりそうだ。


 第1ゲートと背後で閉じられた第2ゲートの間で浮上して待機しているアイリス2の正面に見えている第1ゲートの扉がゆっくりと上にスライドしていき目の前に真っ白な景色が現れた。


『外気温度マイナス180度』


「メインエンジン作動」


『メインエンジン作動します』


 その声とともにアイリス2のNWPエンジンが稼働を始めるときのわずかな振動が伝わってきた。目の前の第1ゲートは今や完全に上にスライドしている。ケンが正面を見ているとゲートの上にある大きな信号が赤から緑に変わった。同時に港湾局より


「出港を許可する」


「アイリス2、出港します。お世話になりました」


「こちらこそ。良い旅を」


 ソフィアが港湾局との通信を終えた。


「アイリス、出港だ。目的地はバイーア惑星群第1惑星」


『目的地をバイーア惑星群第1惑星にセットしました。出航します』


 ケンの指示を復唱したアイリス2は第1ゲートを飛び出すとそのまま機首を上に向けて一気に宇宙空間に飛び出していった。



 

 アイリス2がヴェラピク星を飛び出したころとほぼ同じ時期、シエラ第3惑星では情報本部と軍司令部とが打ち合わせを行っていた。


 地球連邦軍との同盟締結により彼らが有している艦隊製造技術や武器製造技術がシエラに開示されるとそれを見た軍関係者は全員その優れた性能に驚愕しそしてそれをすぐに自分たちのモノにするために貪欲にノウハウを吸収していった。


 その過程で今まで軍艦の外装(ボディ)の製造をバイーア第1惑星に依頼していたのを今後は一からすべて自星で製造できないかという話になりシエラ大統領府の承認を得たのちに自星で艦船を製造すべく専用のドックを星の中に建設することが決定する。

 今までは民間用の小型船や輸送船の製造ノウハウはあるが軍艦の製造ノウハウが無いためバイーア武器惑星に発注していたという経緯がある。


 専用ドック建設については情報部よりの提案で新しい造船所は今までの首都ポート付近ではなく海に浮かんでいる島全体を軍事工場として開発することになった。Minitary Island Base 通称MIBと呼ばれることになる。


 これは地球訪問時に打ち合わせの場所となったハワイベースをモデルにしている。


 この提案に軍も全面同意する。島全体を軍の基地にすることによって情報漏れを防ぐことができるからだ。


 シエラ政府はシエラ第3惑星のある島を軍事基地として開発することにし、現在その工事の真っ最中だった。


 軍司令部、艦隊幹部と情報部は工事を横目に打ち合わせを続けていた。議題は艦船製造の為の原料をどうやって秘密裡に手当してするかという事だ。


 シエラに限らずほとんどの星は艦船の外装部分(ボディ)の製造をバイーア第1惑星に依頼し、エンジンやAI,レーダーなどの内装や武器については自星で装着する方法を採用している。


 シエラ第1惑星、通称資源惑星で鉄や銅などの汎用金属は問題なく手当できるが艦船のボディを強くするために必要なレアメタルは第1惑星内では採掘できない。



 その為今回シエラで一から艦船を製造するとなるとその材料の手当から始めなければならない事となる。今まで購入していなかったレアメタルをいきなり購入すると周辺国が警戒するのは目に見えている。場合によっては余計な干渉が入るかもしれない。


 ー 詳しくいう事は国家機密になっているので明かせないがヴェラピクから秘密裡にレアメタルをここに持ってくる方法はある。 ー 


 情報部のこの発言を受けた軍は艦隊製造に必要なレアメタルなどシエラ第1惑星では手当できない原料について情報部にプレゼンを行っているところだった。


 プレゼンが終わると情報部より参加しているスコット大佐が口を開いた。


「必要な品名と数量は把握しました。納期については確約はできませんがこちらで動きましょう」


 スコット大佐の発言を聞いた軍の幹部連中の表情が緩む。彼ら幹部連中は情報部ができるといえばできる、出来ないといえば出来ないというのを十分に知っていた。


「ご推察の通りまともな方法では持ち込めません。ダミー会社をいくつか経由してこの星に持ち込むことになります」


 その言葉を聞けばもう十分だ。あとは自分たちができることを進めていくだけだ。他の星と違ってシエラでは個人も組織もお互いを信用して動くという文化が定着している。相手ができるといえばそれで終わりだ。


 会議が終わってスコット大佐は情報本部に戻ると会議の内容をシュバイツ准将に報告する。


「ユーロセブンは地球とここの輸送専用船としていますので使えません。従いもう1隻のエターナルを使ってレアメタルを運びます」


 リンツ星で手当した中古の輸送船2隻はシエラで完全に手直しされているが登録や船体IDは以前のままでシエラとの関連がばれない様にしている。船名については以前のオーナーが船に名前を付けていなかったのでシエラ情報部が自分たちの所有になった時点で

名前とIDとをリンクさせていた。それがユーロセブンとエターナルという2つの船名だ。

この2隻の所属はリンツ星のままだ。名前はあえてシエラっぽくない名前にした。


 2隻の輸送船の内、ユーロセブンは現在地球のLAベースに駐機しておりこの船は基本地球とシエラ間の輸送専用にし、エターナルをフリーの立場で運用できる様にしていた。


 今回はそのエターナルを使用する。ダミー会社を複数使ってヴェラピクからここにレアメタルを輸送する計画だ。スコット大佐はその計画の全容を准将に口頭で説明していく。


「いいだろう。それで進めてくれ」


 説明を聞いていたシュバイツ准将がそう言ってからそうだと話をつづけた。


「アイリス2も使おう。あれは今ヴェルピクからバイーアに向かってるだろう。ソフィアの報告ではなんでもヴェラピクで緊急の輸送を請け負ったらしい。ケンが快諾した結果アイリス2はヴェラピクの港湾局からの受けが良いそうだ」


「なるほど。エターナルとアイリス2を使い分ければさらに怪しまれなくなりますね」


 その言葉にうなずく准将。


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