第63話 裏取り

「繋いでくれ」


 すぐにモニターにヴェラピク港湾局の職員の顔が映る。


「休んでるところ済まないな」


「いや。大丈夫だ」


「アイリス2はここで荷物を下ろした後の次の仕事は決まってるのかい?」


「いや、ちょうど今次の仕事を探していたところだよ」


 ケンが答えるとそりゃよかったという職員。


「実は急なオーダーが入ったらしくてな、即納でこの星の製品を運んで欲しいとこの星の会社から問い合わせが来たんだよ」


 詳しく話を聞くとヴェラピク星内にあるゴールドベア商会という会社よりの依頼でタングステンの精製品を大至急バイーア惑星群第1惑星に届けて欲しいと言っているらしい。


 バイーア惑星群第1惑星。通称武器惑星だ。


 ケンが話をしているとその横でソフィアがPCからゴールドベア商会を検索している。その検索結果が出ているモニターをケンに向けた。パッと見た限りではこの星でもそこそこの会社の様だ。


「具体的にいつまでに届ければいいんだい?」


「えっとだな、今から40日以内、できれば30日以内だそうだ。報酬は500万UC」


 魅力的な金額だ。そばで聞いているソフィアもいいんじゃない?といった表情をしている。


『ここからバイーア第1惑星までは離陸後25日と7時間の予定です』


 アイリスの言葉がモニターに表示された。声に出さずに文字で伝えてくるあたりもできるAIだ。モニターに表示されるアイリスの回答を見ていたケン、


「報酬は魅力的だが正直30日はきついな。最悪2,3日遅れる可能性が高い。40日以内は問題ないだろう」


「そうだよな。燃料補給も必要だしな」


「そういうことだ」


「ちょっと待ってくれ」


 モニターの向こうで職員がタブレットでやり取りをしている姿が見えていた。

 通話が終わったらしくこちらを向くと、


「OKだ40日以内で了解とれた。まぁできるだけ早くという条件付きだが」


「それは問題ない。そこで1つお願い、1つ質問がある。まず今の話をゴールドベア商会からこのサイトに運送会社指名としてアップして欲しい。ルールになってるんでな」


 そう言ってサイトのURLを送ると


「OKだ。今転送した。すぐにアップされるだろう」


「あとは質問だがどうしてアイリス2にコンタクトしてきたのか教えて欲しい」


「ああ。それは簡単だ。今この港に泊まってる小型船に片っ端から声かけているんだよ。アイリス2が4船目だった。たいていは次の荷物が決まっているか船の能力的に30日は無理だという回答だった。そこは60日くれと言ってきたのでこちらで断っている」


「なるほど。了解した」


「ケン、サイトにアップされたわ」


 隣からソフィアが言ってPCを見せてくる。確かに依頼内容がアップされていた。ヤナギ運送指名で来ている。これがあるとほかの同業者は手を出せない。


 サイトにアップされている条件を確認しても今やりとりをしている通りだ。ソフィアにちょっと待ってくれと指示をしてからモニターに顔を移し、


「サイトで今確認できた。こちらで残存燃料などの計算をしてからこの依頼を受けるよ」


「助かる。エアリフトは明日には回せる。そしてゴールドベア商会の荷物も明日には届くらしい」


 うまくいけばブリザード終了時にすぐに飛び出せそうだ。


「わかった。こちらはいつでも荷下ろし、積み込みは可能だが一応確認してあとで返事する。そう時間はかからない。待っていてくれ」

 

 待ってると言って港湾局との通信が終わった。


「上手くいったみたいね」


「あとはブリザードが予測通り5日で終わることを祈るだけだな」


 そう言ったケンは椅子から立ち上がった。


「どこかに行くの? サイトの輸送承諾クリック、まだしてないわよ?」」


「わかってる。港湾局にもちょっと待ってと言ってある。承諾前に一応確認したい。すぐに終わる」


 ソフィアも慌てて立ち上がるとケンに続いて機体から降りて巨大な港の中を歩いていく。すぐに小型船を見つけたケンはそこに近づいていくとそこにいた乗組員に声をかけた。


 その時になってソフィアもケンの意図に気が付く。

 少し離れた場所で立っていたソフィアのところに戻ってきた。


「この船の船長は聞いていないと言ってるな」


 そう言って再び歩いて次に見つけた小型船に近づいていき、乗組員と話しをしたケンは

戻ってくると


「彼ら港湾局から声をかけられたらしい。次の仕事が決まっているからって断ったそうだ」


 ケンはたまたま隣も小型船だったのでそちらにも近づいていき乗組員に声をかけて二言三言話しをするとソフィアのいる場所に戻ってきた。


「隣の船にも声がかかったらしい。こっちは30日以内の納期が保証できないからと断ったと言っている。これで一安心だ」


 本当に安心した表情をしているケンを見て相変わらずだなとソフィアは感じていた。

 いくら港湾局からの依頼であっても100%信用しない。というか依頼については裏が取れるところは必ず取る癖が完全に身についている。依頼を小口運送業者のサイトに登録をさせるのは支払いが保証されるという点においてまだ理解できるが、本当に片っ端から声をかけたのかすら裏を取ろうとする。


 ケンに言わせるとすぐそこに裏が取れる小型船舶が停泊しているのだから聞くのは当然だろうということだろうか。


 確認できることはすべて確認する。リスクは可能な限り排除する。それらを当たり前の様にやってしまうケン。


 アイリス2に戻るとケンは小口運送業者のサイトにアップされていた指名の運送にクリックを入れて承諾した。



 ブリザード4日目。港は静かだが港内にある外部モニターを見ると強烈な吹雪が吹きまくっているのが映っている。モニターの映像を見る限りブリザード初日から全くその勢いは落ちていない様に見える。


 そんな強烈なブリザードの中アイリス2はこの日ようやくグリーンリボン星で積んできたスペアタイヤが入っている大型コンテナの荷下ろしを完了する。するとすぐにコンテナを積んでいる別のエアリフトが船に近づいてきた。たった今下ろしたコンテナと同じサイズだ。


 コンテナがエアリフトに乗せられて後部ハッチから船内に入っていく際にアイリスが荷物のタグと中身をスキャンし、


『中身を確認しました。商品タグ、中身ともにタングステン精製品で間違いありません』


 その言葉を聞いて安心する二人。コンテナの積み込みが終わると後部ハッチが降りてしっかりとロックされる。 


「お前さん達が受けてくれて助かったよ」


「こっちも仕事が貰えてよかった。お互いにWin-Winだな」



 ブリザード5日目。予報では今日でこのブリザードは消えるらしいが外を映しているモニターを見る限り昨日、一昨日と全く同じ様に強い吹雪が吹きまくっていた。


 ケンとソフィアは出港前の事前チェックを終えていてアイリス2をいつでも出港できる様にして今はキッチンでコーヒーを飲んでいるところだ。


「ブリザードが止んだらここに泊まっていた船が一斉に飛び出していくのね」


「港湾局がどう振り分けるのかだよな。普通に考えりゃ小回りの効く小型船からだろうが余り小型船ばかり先に飛ばすと大型が文句言うだろうし。まぁ俺は何番目でもいいよ。外には海賊もいないだろうしな」


「どうして海賊がいないってわかるの?」


 聞かれたケンは窓の外、港に並んでいる多くの船を見て言う。


「これだけの船が一斉に出港するんだ。海賊船が出てきたら皆攻撃するだろう?返り討ちになるのが見えている。彼らはいたとしても指を咥えて見てるだけだ。何もできないさ」


 ケンの言う通りだ。これだけの数の船が出港しそこに海賊船がいたら全ての船が海賊船に攻撃を加えるだろう。このアイリス2もレーザー砲を装備している。相手が武装しているとしても数の論理で彼らが勝てる確率はほぼゼロだ。


<ブリザードが消えた。通常業務を再開する>


 港湾局から全ての船に通信が入った。それは文字通り消えたという表現が最も適切だろう。さっきまでモニターに映っていた吹雪が今はその影すら見えない。本当に5日で、それも突然消えた。


<1時間後にゲートオープン。出港する船は港湾局よりの指示通りに出港せよ>


 そういう通信があった直後


『港湾局より通信です』


 アイリスが言った。回線を繋ぐとこの前の職員がモニターに映っている。


「アイリス2は1番最初に出港だ」


「そりゃありがたい。助かるよ」


「こっちがお願いした即納の無理な輸送を受けて貰ったからな。それくらいはしないとな」


 カメラに向かってケンがサムズアップをすると相手も同じ様に親指を立てて通信を終えた。


「アイリス。1時間後に出発だ。エンジン最終チェックおよびバイーア第1惑星へのルート確認」


『わかりました』


 ケンもすぐに立ち上がると下に降りてエンジンや他の計器を目視でチェックする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る