第56話 太陽系連邦軍情報参謀本部
4人の乗客が降り、続いてケンとソフィアが地上に降りると太陽系連邦軍の軍服を着ている人が数名とスーツ姿の男達がピアの端にある新しい建物の方からアイリス2に近づいてきた。その背後には武器を携帯している迷彩服の兵士やスーツ姿の連中が並んでいる。
その自己紹介とあいさつのやりとりが聞こえてきたケンは出迎えた相手の地位を聞いてびっくりする。
アン新任大使を出迎えたのは
太陽系連邦政府副大統領であるオキタ副大統領
太陽系連邦政府外務大臣であるヤニス外務大臣
太陽系連邦軍副総司令官の地位にいるケネディ大将
太陽系連邦軍LAベース最高指揮官であるブルー少将
太陽系連邦軍情報参謀本部長であるディーン准将
そうそうたるメンバーがアン大使の着任の出迎えに来ていた。地球連邦軍副総司令官はこの連邦軍のNO.2の地位にあるが総司令官は大統領がなっているので実質軍内部でのNO.1の地位になる。
「初めての大使、それも最重要同盟国からの大使の赴任ということで本来ならもっと盛大に出迎えするところですが、そうもいかないのでこんな形で申し訳ありません」
とオキタ副大統領が言った。地球連邦軍政府のNO.2だ。
「いえいえ。お互いに立場があるのは十分理解しております。そんな中でもわざわざ遠路からお越しいただき本当にありがとうございます」
アン大使が礼を述べる。
「大統領も来たいと仰っていたんですがどうしても動けない件がありましてよろしくとの事でした」
オキタ副大統領が続けて言った。
「お互い秘密裡にという制限がありますのでお気遣いなく。大統領には改めてこちらからお伺いさせて頂きます」
アン大使はそう答えてからアンドリュー中佐以下他の3名の人物を紹介する。
それが終わった後で後ろで立っているケンとソフィアに顔を向けると、
「それであちらの2人がこの船の船長のケン・ヤナギとソフィアです。ケン・ヤナギは名前からお分かりいただけると思いますが地球人であり今はシエラ出身のソフィアと夫婦になっています。この建物というかダミー会社の登記上の社長でもありますね」
全員の視線がケンとソフィアに向いた。軽く頭を下げる2人。
こっちに来たらというアン大使の声で近づいていくとケネディ大将がケンに声をかけた。
「今回の同盟締結が上手くいった理由の一つにケンの存在があると聞いている。君には我々太陽系連邦軍を代表してお礼を言わせてもらうよ」
「恐縮です」
短く答えるケン。頭を下げると隣でソフィアもケンと同じく頭を下げていた。
その後ケンとソフィアも彼らと一緒に新しい建物の中に入っていった。1階は運送会社のダミーオフィスになっている。机とPCがセットされていた。この1階は明日の輸送機でやってくる実務部隊のメンバー数名が使う予定だ。
そして2階に上がるとそこは全く雰囲気が異なっている。認証式のドアを開けるとまるで大都会のオフィスの様にセパレートされた机が並びいくつかの個室も用意されていた。そしてこの2階と3階には地下との直通のエレベーターが設置されている。1階からはエレベーターには乗ることができず。当然地下に降りる事もできない様になっていた。そしてその地下には複数台のエアカーが常時待機しており隣のLAベースと繋がっている。
3階は会議室や資料室などの部屋がつくられていた。
新しい大使館の出来栄えに満足したアン大使がお礼を言った。
「シエラ星の我々の大使館も画像を見る限りかなり立派に作られている様だ。お互い様ですよ」
アイリスに後部貨物扉を開けさせると後部扉がゆっくりと上に開いていく。
設備と同時に持ち込んだエアリフトが慎重に荷物を載せてアイリス2から降ろしてそのままハンガーの奥に運んでいった。機密の塊である荷物の開梱と設置はケンとソフィアの仕事ではない。
荷物が無事にハンガー内の所定の場所に置かれたのを確認するとエアリフトはそのままハンガーに置きアイリスに後部ハッチの閉鎖を指示する。このリフトはこれからこの場所で活躍することになっていた。
「では私とソフィアはこれから戻ります。お身体には気を付けて」
「お互いにな。また来た時にはよろしく」
アイリス2の乗降扉の前でアンドリュー中佐と話をするケンとソフィア。アン大使や他のメンバーとは既に挨拶を済ませて彼らは今は建物の中で地球側と打ち合わせ中だ。アンドリュー中佐も直ぐに戻るという。
「では、また」
ケンの言葉に右手を軽く上げたアンドリューが建物に入っていく。それを見てから2人が機内に入ると乗降口がしっかりと閉じられた。
「アイリス、出発だ。シエラに戻る」
『了解しました。目的地をシエラにセットしました』
LAベースから離陸の許可を貰ったアイリス2は直ぐに上昇するとNWP地点に機首を向けて飛び出していった。
その翌日、200メートルサイズの輸送船が宇宙にある連邦軍の演習空域に現れ昨日アイリス2が着陸したピアに向かって下降していく。リンツ星所属のこの輸送船はユーロセブンという名前を持ち、貨物室一杯にコンテナを積み込んで予定通りの時間に無事に着陸した。
シエラ星の地球大使館の活動が本格的にスタートしたのはそれから1週間後だった。
広大な敷地を持っているLAベース内にはさまざまな建物があり建物同様様々なセクションがその中に存在している。対外的には秘密にしており発表はしていないが太陽系連邦軍情報参謀本部はアメリカ大陸中央部にある軍の本部ではなく実はLAベースの中にある。ここLAベースが連邦軍の対外諜報を取りまとめる本丸になっていた。
今そこではシエラとの同盟締結に大きな貢献をしたと言われている地球人のケン・ヤナギなる人物とその妻であるソフィアについて徹底的な情報収集が行われていた。
シエラ同様に太陽系連邦軍情報部も太陽系以外の星系には多くの諜報部員、スパイを送り込んでいる。スパイを始め、さまざまな情報源からケンに関する情報が集まってきた。
「太陽系以外で活躍している地球人の動きをもっとチェックしないといけないな。ケン・ヤナギクラスの人材が他にもいるかもしれない」
情報部情報分析チームのリーダーが言った。彼の目の前にあるモニターにはケンに関する情報が纏められて表示されている。
「しかしよくまぁこんなおんぼろ船で宇宙に飛び出して行ったもんだ」
チームの他のメンバーが目の前のモニターを見ながら半分呆れた声で言った。
「それくらいの気概のある奴だからブルックス星系でもそれなりに成功を収めたんだろう。甘ちゃんが1人で生きていける世界じゃないからな」
「太陽系内だけで商売をしてて大きな顔してる奴らよりもずっと優秀だな」
「その通りだ。彼の様な人物が本物の開拓者だ」
太陽系連邦軍が集めたケンの情報は総じて高い評価を得ているものばかりでその評価はチームリーダーの予想以上だ。
リームリーダーは次にソフィアのまとめをモニターに出した。
「シエラ情報部少尉の彼女がどういう経緯でケンの船に乗り込むことになったのかは分からないか」
こちらは軍人でもありなかなか情報が取れないので通り一遍の情報が多い。またシエラ情報部が完璧とも言える情報統制を敷いていることもありソフィアに関する情報は非常に少ない。現に彼女は今は昇格して中尉になっているが集められたデータでは少尉のままだ。
「それもそうですが、ケン・ヤナギがどういう経緯でシエラにあれほどまで食い込めたかの情報も全く取れません」
別の席から女性の分析官が声を上げた。
「それも謎だな。普通なら自分の星の人間を使うだろう。地球人のケンがあのポジションにいるのがわからないな」
その後もまとめのレポートを見ていたチームリーダーが言った。
「分からない事、不明な点が多いが今手の内にある情報とシエラの動きから見るとケンは極めて優秀で且つシエラから相当の信頼を得ている人物ということになる。いいか、ケンと地球人として見るな。むしろシエラ人と見て対応するのが良いだろう。それとケンについてもソフィアについても危険度は最低ランクのDにしよう。彼らが我々に対して不利になるアクションを起こす可能性は極めて低いと言い切ってよいだろう。ただ2人への調査は継続して行う。以上だ」
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