第57話 仕事再開

 シエラ第3惑星に戻ったケンとシエラは15番ピアでアイリス2の点検を依頼したあとは自宅でゆっくりと過ごしていた。


「ずっと働き詰めだっただろ。しばらくシエラで休んだらどうだ」


 と情報部からアドバイスも受けたこともあり15番ピアでアイリス2のメンテを頼んだあとは買い物をしたり観光をしたりと2人の時間を楽しんでいた。


 そうして3週間が過ぎた頃の夜、自宅のPCを立ち上げるケン。


「そろそろ仕事を探さないとな」


 立ち上げたサイトは例の小口運送業者御用達のサイトだ。PCを見ているとその背後から肩越しにソフィアも画面をのぞき込んできた。


「いいのはある?」


「どうかな」


 画面をスクロールしながら仕事の内容をチェックしていく。

 しばらく画面を見ていたケンは1つの依頼のところでスクロールを止めた。


「これかな?」


 どれ?と顔をモニターに近づけるソフィア。

 そこにあった依頼は



依頼主 : ヴェラピク鉱業

商品 : 採掘車両専用特殊スペアタイア 100本

サイズ: 20m3 (コンテナ大型x1基)

引き取り地 : ブルックス系 グリーンリボン星

目的地 : ブルックス系 ヴェラピク星

期間 : 60日以内

報酬 : 700万ユニオンクレジット(UC)



「グリーンリボン星って? なんだか素敵な名前だけど」


「この星は変わっててね、星の周囲にあるリングがメビウスの輪の様にねじれているんだよ。何故こうなったのかはまだ解明されていない。そして星全体に緑が多くて別名森林惑星ともいわれている。見た目から取った星名だな」


「行ったことはあるの?」


「グリーンリボン星には行ったことがあるが目的地のヴェラピク星ってのは無いんだよ。グリーンリボンは今言ったけど森林惑星だ。森や植林した林が多くあって様々な樹木が生育している。ヴェラピク星については行ってはいないが話は色々と聞いているよ」


 そう言ってから別のPCでサイトを立ち上げた。その星の画像を見て納得するソフィア。


「こっちは氷の惑星なのね」


「そうだ。ヴェラピク星は雪と氷に閉ざされた惑星だ。余りの寒さの為に人は地表には住めない。地下や山の中に都市を作って生活している」


 ヴェラピク星は地表は雪と氷で閉ざされているが地中には鉱産物が豊富にある星でこの星の住民の殆どが採掘関係の仕事に従事しているという。今回の依頼もグリーンリボン星で採れる天然ゴムから作った採掘用の特殊タイヤの輸送の依頼だ。地表は寒いが地中は地下火山のマグマの影響なのか暖かくもなく寒くもなく快適らしい。


「それで採掘車の車のタイヤの補充の需要があるということね。でも地表に人が住んでないのなら貨物船はどこに着陸するの?」


 モニターに写されている真っ白な氷の惑星の映像を見ているソフィア。


「この星にある港は1つだけ。山をくり抜いて作られていて開閉式のゲートがあって外と遮断することで外の寒気が入らない様にしていると聞いている」


 ケン曰く以前乗っていたボロ船は耐極寒設計になっておらずあの船で行けば間違いなく動作不良を起こして墜落しただろうと。このアイリス2なら問題無いという。


「それにしても報酬が高いわね」


「それにも理由がある。この星は1年の内約5分の1の期間は星全体がブリザードに襲われて地表は猛烈な吹雪と寒さになる。ブリザードは突然やってくる。そして数日で終わる場合もあれば数週間続くこともあるらしい。いつ終わるかは全く予測できないって話だ。だからその間は港はClosedとなって使えない。ブリザードが治まるまで大気圏外で待機だ。逆にせっかく荷物を持ち込んで行っても離陸直前にブリザードが発生して港内に数週間足止めになるなんてざらにあるんだよ」


「その待機料も含まれているってことね」


「そう。ただ普通の船なら燃料、食料、そして次の仕事を考えると少々高いくらいじゃメリットが無い話だな。シエラ情報部より安定的に収入があるアイリス2なら問題の無い話だ」


 そう言ったケンは自宅からアイリスを呼び出した。


「グリーンリボン星からヴェラピク星までの輸送だが期間的に受けても問題ないな?」


『はい。問題ありません。依頼を見るに現地でブリザードによる待機期間についてはカウントしないと書いてあります。シエラ第3惑星からグリーンリボン星までは巡航飛行で14日。そこからヴェラピク星までは巡航飛行で35日ですから依頼の60日以内の到着は可能です』


 ケンはそう言うとこの依頼をクリックして確定させ、グリーンリボン星到着を18日後とした承諾のメールが来たのを確認するといくつか別のサイトを開いて数分見ているとそのサイトを閉じだ。キッチンでコーヒーを淹れていたソフィアに顔を向け、


「という事で4日後から仕事復帰にするよ」


 翌日ケンとソフィアは首都ポート15番ピアに出向くと3日後の出発を伝え食料や水の積み込みを依頼する。現地でブリザード待機することも考えてて食料、水は多めに積み込む様に依頼した結果半年以上分を確保した。これでまず問題ないだろう。燃料がカートリッジになって本来の燃料タンクのスペースがなくなり、そのスペースを水や食料の倉庫にしているアイリス2だからできる技だ。


 彼らは食料と同時に市内で防寒具を購入して持ち込んだ。万が一の事態を想定しアイリスと一緒に機体の再調整を行う。アイリス2はシエラの先端技術を詰め込んだ船だ。耐熱、耐寒共に普通の貨物船よりも高い強度を持っているがそれでも再点検を行い外部、内部共に問題が無い事を確認する。


 幸いに燃料はカートリッジでありしかも艦内にまだ相当の在庫があるのでこちらは問題無い。

 

 出発を明後日に控えた日、2人は情報部に顔を出してスコット大佐と打ち合わせをした。彼には事前にアイリス2の予定を連絡してある。


「暫くは中型輸送船が活躍してアイリス2の出番はないだろう」


「ヴェラピク星の後の予定が決まったらまた連絡いれますよ」


 頼むよという声を聞いて情報部を後にした2人。



 2日後私服姿のケンとソフィアがアイリス2に乗り込み出発前の点検を済ませる。整備員よりは異常なしとの報告を受け、AIのアイリスよりは飛行ルートの設定が完了していると報告を受ける。


「ソフィア、港湾局に出航通知を」


「アイリス2、出航します」


「了解」


 港湾局から短い返事が返ってきた。


「アイリス。出発だ。このまま水平上昇。上空100メートルで機首を転換して上昇』


『はい。出航します。このまま水平上昇。上空100メートルで機首転換して上昇します』


 暫くの間地上のデッキで過ごしたアイリス2は久しぶりに離陸すると宇宙空間に飛び出していった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る