第54話 初代駐地球大使

 地球とシエラ、お互いの連絡事務所が完成した。そしてその少し前には中古で買い入れたリンツ星籍の輸送船の改造も終了している。


「初代の在地球大使にはアン副部長が任命された。彼女は外交部の他の職員2名と正式に地球に赴任することになる。そして情報部からもアンドリュー中佐が赴任することになった。他のメンバーは今既に地球にいる情報部の2名だ」


 情報本部の地下でスコット大佐から説明を受けるケンとソフィア。


「今言った外交部員3名とアンドリューの合計4名はアイリス2で地球に移動する。貨物室には外交部と情報部が現地で使用する機材などをコンテナに入れて用意をするので運んでほしい」


 わかりましたと返事をするケン。スコットによるとアイリス2の翌日に輸送機を地球に飛ばす予定でそちらには機体をメンテナンスする担当者やAI担当者ら合計6名が乗り込んで移動するらしい。そしてその輸送機はそのまま地球に留まることになるという。輸送機の機長、副機長の2人も今後は地球がベースとなる。


「アイリス2が先行する形で現地に飛んでもらう。4人と荷物を下ろすとそのまま帰星する様に。それとアンドリュー中佐が地球に赴任することにより今後君達アイリス2の窓口は私になる。窓口が変わるだけだ他は変わらない。24時間いつでもドアは開いていると思ってくれて構わない」


 出発は5日後となった。2人は15番ピアに出向くとそこにいた整備員に5日後に地球に向かうと説明をする。


「メンテは終わっています。NWPエンジンもメンテ済み。AIも問題ありません。いつでも飛ばせますよ」


「そりゃ助かる、ありがとう」


 その後水と食料の手配をした2人は自宅に戻った。地球との往復が数時間になった今2人には特に準備をするものもない。夕食を終えた二人は今はリビングのソファに座ってコーヒーを飲んでいた。ソフィアお気に入りの豆でケンも今ではこれが大のお気に入りになっている。


「シエラ星の初代の大使がアン副部長なんだな」


「そうね。情報部から聞いている話だとマッキンレー外交部長から話が出た時に2つ返事でOKしたらしいの」


「彼女は優秀だし地球との交渉での実績もある。任期が何年かは知らないがシエラに戻ってきたら部長になるんじゃないのかな」


「その流れになるでしょうね。彼女は優秀なだけじゃなく周りの声を聞く耳を持ってる。駐地球大使にはうってつけの人物だし帰星後に外交部長になっても立派に仕事をしてくれそう」


 シエラの人々には能力主義が行き渡っているが同時に今のソフィアの様にしかるべき地位にある人物について常に周囲がその評価をしている。高い地位についてもその資格がないと判断されるとあっという間にその地位から外されるのが常だ。


「そう言う意味だと今の大統領は長いよな」


「ブランドン大統領は30代で大統領に就任されたの。前大統領が重い病気になった時に指名されたらしいの。当人は最初は嫌がっていたと聞いているわ。でも大統領府や情報部そして他の部署からも既に高い評価を受けていた彼は結局周囲に推される形で大統領に就任したの。それからは前大統領の意志を受けつつ改革を進めてこのシエラをさらに良い星にしてくれた。国民の支持率が今でも90%を超えているのよ」


「そりゃ凄いね」


 ソフィアが席を立ってコーヒーのお代わりを2杯作っているその背中を見ながらケンは今の話を頭の中で整理していた。


 それにしても90%以上の支持率は地球ならありえない支持率だ。ただ短い時間だが大統領と食事をし、一緒にアイリス2で移動したケンは今のブランドン大統領が素晴らしい人物であることは疑いないと思っている。この支持率も当然だろうと。


「後任候補ってのはいるのかい?」


 どうぞとコーヒーのおかわりをケンに渡したソフィア。


「色々出ているわよ。でも権力闘争的な動きはないの。国民も興味があってネットやニュースではいろんな名前が出てるけど名前が出ている人は皆好意的に見られているわ」


 それがこの星の人々の星民性なのか。皆真面目に考えているのが伝わってきた。地球では今でも権力闘争があると聞いているし他の星でもしかりだ。ただシエラ第3惑星ではそうじゃない。この星が生き残って発展するには誰が良いのかという視点を中心に星民が考えるし政府もその視点から考えている。政府と星民のベクトルが一致している珍しい星だとケンは思っていた。


 ソフィアによると政府内では政策を巡って日々議論が絶えないそうだ。方針を巡ってはいろんな意見がぶつかりあってその中から最良の答えを見つけていく。それは国民が常に政府をチェックしているからだと言う。


「自分達が選んだ大統領や政府がちゃんと機能しているかどうか国民はいつも目を光らせているわ。皆そのプレッシャーの中で仕事をしているの。そんな風に星内では議論をして事を進めていくけど対外つまり他の星とのトラブルになると星民は一致団結して政府を支持するの」


 近くにファジャルという潜在的な敵がおりいつ攻撃されてもおかしくない場所にあるシエラ。対ファジャルという点において国民は常に一致団結している。これはシエラが生んだ天才科学者イダルゴ・アンヘル博士が暗殺されそうになったという事件が過去にあり、その黒幕はファジャルであると全ての星民が信じているからでもある。過去の事件でも星民はこの事件を決して忘れないという。


 常に強大な敵国の正面に立っているシエラはほぼ全星民が一度でも敗戦すると自分達の住む星が亡くなると信じている。


 ケンが普段自宅のマンションの近くにあるショッピングモールに行けば皆表情も明るく買い物をしたり映画を見たりと生活を楽しんでいるがそんな彼らもいざという有事には国の為にする仕事、役割が決まっているのだとソフィアから聞いたときはびっくりした。


「平和であることは素晴らしいことよ。でも平和ボケはしちゃダメだっていう事もここの星民は分かっているの」


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