第51話 下準備開始

 アイリス2は予定通りの時間にシエラ第3惑星首都ポート15番ピアに着陸した。乗降口の扉が開くと外から政府関係者が機内に乗り込んで大統領や外交部長らの出迎えに2階に上がっていく。当然ながら15番ピアを含む空港周辺には軍の兵士達が大勢いた。アイリス2が着陸するとその兵士の一部が機体を囲む様にして周囲を警戒する。


 しばらくして大統領を先頭に乗客が階段を降りてきた。階段を降りたところで立っているケンとソフィアに近づいてくる大統領。


「二人には世話になったよ。おかげでストレスなく移動ができた」


「恐縮です」


 頭を下げるケンに、


「これからも頼むよ」


 そう言ってアイリス2から下船していく。大統領に続いてその関係者そして外交部のマッキンレー部長とアン副部長らが二人にお礼を言っては下船していった。


 最後に情報部のシュバイツ准将とアンドリュー中佐が階段を降りてきた。


「お疲れ様だった。移動中に事故もなく何よりだ。とりあえず今日はこのまま休んでくれて構わない。明日の午後に本部に来てくれるかな?」


「わかりました」


 全員が降りると港に常駐している整備員らが乗り込んでくる。彼らに挨拶をしたケンとソフィアはアイリス2から降りると情報部が用意しているエアカーに乗って自宅に戻っていった。



 大統領を無事に運ぶという大役を終えたケンとソフィアは自宅でゆっくりと休んだ翌日の午後、情報本部に顔を出した。IDカードを使って地下に降りていくといつものメンバーが2人を待っていた。


「大統領も無事に戻られて今日から執務をされている。ケンとソフィアにはお礼を言っておいてくれと伝言を預かっている」


 准将の伝言に頭を下げるケンとソフィア。


「それで早速だがこれからのアイリス2での移動について打ち合わせをしたい。スコット頼む」


 准将に振られたスコット大佐はわかりましたと言ってから2人を見る。各自の前には資料が置かれていた。


「目の前にある資料を見てもらえば分かるが今から2週間後にアイリス2は再び地球に向かう。同行者はアンドリュー中佐、同じ情報部のアダムス少尉、そしてエンジニアのマーベルと電子機器担当のアンジーの4人になる。目的はNWP通信設備の設置及び使用方法の説明、地球に事務所を開設に伴う打ち合わせと今後のスケジュールの確認だ」


「今回は帰路で地球人を乗せてくることはないという事でいいですか?」


 ケンの質問には今回はないと准将が答える。


「NWPの通信設備はすぐに稼働できる様にセットアップしたもの運びこむ。地球での我々の活動拠点については現在地球連邦軍側で場所の選定に入っているはずだ。アイリス2は地球連邦軍の指定された場所に着陸することになる。着陸後は装置を設置後すぐに通信テスト開始する。通信に問題がないとわかった時点でアイリス2は一旦帰星してくれ。4人はそのまま居残って仕事をする」


 わかりましたと頷く2人。ケンもソフィアも雇用主の言う通りに動くだけだ。


「ここからは若干流動的ではあるがシエラに戻ってからおそらく2週間以内にもう一度地球に出向くことになるだろう。その際にはアンドリューが指定する荷物を運んでいき、地球でマーベルとアンジーをその時に乗せて戻ってくる。アンドリューとアダムスの2人は現地連絡員としてそのまま地球に止まって相手側との事務的な交渉の窓口になりながら我々の地球での出先機関の場所について打ち合わせをする予定だ。ただこれは現時点でのラフなスケジュールであるので今後の展開についてはかなり流動的だと思ってくれ。突発的に地球に出向く人員が増える可能性がある」


 お互いに手探りで進めていくしかないと理解している地球連邦軍とシエラ軍。同盟は成立しているので手探りとは言えそれほど大きな問題があるわけではない。とりあえずやりながら調整していきましょうという事で双方が同意している。


 ケンも最初からガッチリと決めて動く必要はないだろうと考えていた。それにNWPを使えば短時間で移動ができる。臨機応変な対応が可能だ。


 アイリス2は最長のNWPを終えてシエラに戻ってから15番ピア、専用デッキでメンテナンスを受けていた。ケンとソフィアはそれほど準備をすることもないので情報部との打ち合わせがない時は15番ピアに来ては船の状態をチェックしていた。


「整備は完了しています。特に大きな問題もありませんでした。この船を作った自分達が言うのも何ですが頑丈で機動性も高い良い船です」


「ありがとう。乗っている俺たちもそう思っているよ」


 アイリス2に乗り込んだケンとソフィアはAIのアイリスと打ち合わせをする。出発してからのルートの確認やNWPポイントの確認など。アイリスに任せおけば大丈夫な事項が多いがケンは自分で確認する意味でも常にアイリスとは打ち合わせをしていた。


『前回のルートでNWPをしてワープアウトしてからの地球での着陸地点についての情報はありますか?』


「ないな。おそらく前回とは違う地点に着陸するだろう。ワープアウトしたらその場で待機する様にしてくれ」


『わかりました』

 

 それ以外に食料、水などの積み込みの打ち合わせなどアイリスとのやりとりを終えるとソフィアがケンに顔を向けた。手にはアイリス2のキッチンで淹れたコーヒーを2つ持っている。1つをケンに渡し、


「準備はおおよそ終わった感じね」


「こっちは終わった。あとはNWP通信装置を積み込んで乗員が乗り込んだらいつでもいける」


 ケンはそう言ってから続けて


「しばらくはここと地球を行ったり来たりだろう。今の段階でアイリス2を整備できてよかったよ」


「シエラと地球で独自のNWPエンジン搭載の宇宙船ができるまではアイリス2が頼りだものね」


 シエラにはこのアイリス2とアンヘル博士が作った輸送船の2隻があるが博士の飛行艇は荷物を積む仕様になっていない。貨物室がないので当面はアイリス2が輸送船として動く必要があった。もちろん船の所属がリンツ星というカモフラージュも重要な条件になっている。


 シエラでは博士のチップ、NWPの図面を入手後エンジンの開発を行い軍の艦艇は順次NWPエンジンへの切り替えが進んでいる。ただ攻撃用軍艦、空母のエンジンを優先的にNWPに変更している為輸送船などのエンジンはまだ旧式のエンジンを積んでいた。


 この段階で軍の艦船を派遣することはできない中、軍艦艇以外でNWPエンジンを積み且つある程度の荷物も積めるという機体はアイリス2しかなかった。


 地球連邦軍の最新技術の艦艇の製造を控えておりシエラの軍ではその準備に忙殺されている。同時に地球連邦軍の実質大使館を設置する連絡事務所の場所や建物についても外交部と情報部を中心に作業がスタートしていた。


 同盟締結後全てが同時に動き始めた。


 地球ではシエラ星同様にシエラ星人の技術者の受け入れ及び実質大使館となる連絡事務所の設置準備が急ピッチで進んでいた。


 地球連邦はその政治的本部をヨーロッパ平原に置いており大統領官邸をはじめ政府機関のほとんどがヨーロッパにある。数は多くないが他の星系の大使館も皆ヨーロッパの本部の近くに拠点を構えている。


 一方で軍の総司令部は北米大陸の中央部に設置されていた。背後がロッキー山脈となるその裾野に広大な土地を構えそこに地球連邦軍の中枢が集まっていた。


 北米大陸は軍の主要な基地が各地に点在しており、一般人や旅行者はそれらの軍の施設には近づくことができない様に法律で定められている。近づくことができるのは軍から許可を受けている者だけだ。


 北米にあるいくつかの基地の1つにLAベースと呼ばれている場所がある。旧ロスアンジェルスと呼ばれていた場所は今は連邦軍の管理下にあり巨大な基地になっており多数のピアや倉庫が広い敷地の中にゆったりと配置されていた。


 そのLAベースに隣接する土地ではまさに新しいビルと飛行艇が発着陸できるピアの整備が行われている。そしてそのビルは隣のLAベースのとある場所と地下で繋がる様に地下トンネルの工事も同時に進められていた。


 

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