第49話 同盟締結

 シエラ星と太陽系連邦との会談は予想通り、いやそれ以上に順調にそしてスピーディに進んでいた。


 ブランドン大統領とマッケイン大統領が直接面談しお互いに最初から胸襟を開いて率直な意見交換を行い両国間であらゆる分野で同盟を結んで協力していくという方針が確認された。このあらゆる分野には科学技術はもちろん軍事面での強力も含まれる。


 この合意をもとに外交部同士の打ち合わせでは相互に連絡事務所の開設し適宜情報を交換しあうこととなった。もちろんシエラと地球が相互に連絡事務所を開設することは極秘事項となりお互いに違う名称での拠点となる。シエラにとっては初めて自分の星に他星の出先機関が開設されることになる。この名称とその場所については後日決めて連絡しあうこととなった。


 一方シエラ情報部は大統領や外交部との面談を横目に見ながら連邦軍参謀本部と交渉を続けていた。連邦軍は当然今回シエラから飛んできた宇宙船に積み込まれているNWPエンジンやAIに関しての技術を欲し、シエラは地球連邦軍が保有している攻撃型艦船の製造技術を欲していた。


 トップ会談で双方が同盟締結で同意したとの一報が入ると同時に両者は突っ込んだ話し合いを進めていく。参謀本部は太陽系連邦軍の艦船の詳しい図面や3Dの映像をシエラに開示しながら説明をしていった。シュバイツ准将は説明を聞きながらその進んだ技術に感心する。今回訪問に同行している技術者のマーベルがその技術に関心しながら准将や中佐に補足説明をしていった。


「ブルックス星系にはないコンセプトで製造されています。連邦軍の軍隊は大型の旗艦を造らずに中規模の空母を数隻中心とした駆逐艦、巡洋艦の艦隊としております。機動力を重視した艦隊になっていますがそれぞれの船の強度は大型旗艦並みであり、また装備されている武器も相当なものです。我が星の軍隊でいえば大型旗艦師団並の攻撃力を持ち、同時にそれ以上の機動力を装備しているのと同じレベルとなります。ついでに言えば現在ブルックス星系でここまで威力のあるレーザー砲を製造できる星はありません」


 シュバイツ准将に説明をするマーベルの話を聞いている連邦軍参謀本部の連中も自星の艦隊を褒められてしてやったりの表情だ。


「なるほど。これほど堅牢なボディと装備があれば機動力を全面に押し出せる。いや見事なものだ」


 シュバイツ准将が感心した表情で言った。続いて今度はシエラ側のアンジーがIT関係、特にAIについて説明をすると身を乗り出してくる連邦軍の参加者達。


「太陽系連邦軍のAIより何世代も進んでいる。その処理能力があればヒューマンエラーはまず起きないだろう」


 AIに関する質疑応答が終わると次にシエラが用意した新しいNWPエンジンのプレゼンをすると再び地球側の参加者達が感心した声をあげる。


「これは素晴らしい。なるほど従来のワープ対応エンジンの能力をさらに高めたのではなく全く違う思想で開発されている」


「その通りです。従来のワープ対応エンジンの能力アップには限界があります。このNWPエンジンは全く異なる発想から開発されました」


 そうしてマーベルがそのエンジンの説明を行った最後に部屋にいる連邦軍の方に顔を向けると、


「このエンジンの唯一の問題点は燃費です。ただこれは改良の余地が十分あると考えています」


 と言って話を締めた。シエラが起用しているカートリッジを利用したエンジンはいくら同盟相手と言えども開示はしない。


「燃料については我々は既に通常燃料から原子力燃料への切り替えに成功している。現在保有している軍の艦隊の全てが原子力燃料だ。燃費は問題ないだろう。そしてこのNWPエンジン、これが艦隊の船に装備できればすぐに敵を攻撃することができ、逆に緊急時にはすぐにその場から離脱することもできる」


 太陽系連邦軍のディーン情報参謀本部本部長の言葉に列席しているシエラ参謀本部の他のメンバーは驚いた表情になる。自分達の知らないところで連邦軍は自分達で太陽系にほぼ無限に存在する物質を使って原子力エンジンの小型化に成功していたのだ。原子力エンジンは存在しているがサイズダウンが難しいというのがブルックス星での一般的な評価であり固定基地以外の船に積むことが出来るサイズのエンジンはまだどこも開発されていない。


 しかも連邦軍はその情報を開示してきた。シュバイツ准将は驚くと同時に相手の本気度を理解する。その後連邦軍からは今回シエラ人が乗ってきたアイリス2にこのエンジンが積み込まれているのであれば見学したいという希望が出たが、それに対してはシュバイツ准将がきっぱりと断る。


「あの船はカモフラージュ用の民間船でもあるので今回は勘弁していただきたい。次回に基本図面を持ってくるのでそれで許して欲しい」


 連邦軍参謀本部はそう言われると納得せざるを得なかった。その後はNWPを利用する前提での細かい打ち合わせを行う。両星ともこのNWPエンジンについては最大級の守秘義務が発生するのでむやみにNWPを発動しないために当面、つまり平時においては太陽系の決められたエリアとシエラの決められたエリアの間のみの移動に使用するということで合意する。太陽系連邦軍もこのNWPシステムの機密が外に漏れない様に専任の部隊を結成して機密保持には万全を尽くすということを確約する。


「AIといいNWPシステムといいシエラは相当進んでいますな」


「連邦軍のハードの製造技術、これはブルックス星系でもここまでの技術はありませんよ」

 

 お互いに相手を認め合いながら打ち合わせは続いた。


 会談の3日目に地球とシエラはお互いの大統領が2星間同盟を締結して書類にサインをした。これにより今後はシエラと地球との間で人や情報の行き来が増えることになった。そしてシエラは次回の訪問時にNWPシステムを応用した通信設備を地球に提供することにする。


「これを設置すると通常通信が楽になります。送信後1時間弱で相手側に着信できますので。もちろん暗号に変換してのやりとりです。外部に漏れることもありません」


「NWPを使っている時点で相手には見えない、聞こえないのですけどね」


 中佐の言葉に続けて准将が言った。



 

「アイリス2、こちらハワイベース」


 地球から離れた地点で待機しているアイリス2に通信が入ってきた。会談のスケジュールを知っているケンとソフィアはそろそろ連絡が来るだろうとオペレーションルームで待機していたところに飛び込んできた通信。すぐにソフィファが答える。


「こちらアイリス2。ハワイベースどうぞ」


「会談は無事に終わった。アイリス2は太陽系時間の明日の1000時に以前と同じ1番ピアに着岸してくれ」


「こちらアイリス2、了解しました。明日の1000時にハワイベースに着陸します」


「予定通りに終わったみたいね」


 通信を終えたソフィアが船長席に座っているケンに顔を向けて言った。


「もめないと思ってたからな。予定通りだろうと」


 そう言ってから、


「これから暫くは忙しくなりそうだ」


 ケンはそう言うとアイリスを呼び出して今の待機場所かその近くからNWPしてシエラへ戻る可能性があるので準備する様にと指示を出した。


「ここからNWPするの?」


 アイリスがわかりましたと返事をした後でソフィアが聞いた。


「同盟が成立したとなると少なくとも太陽系連邦軍にNWPを隠す必要はなくなる。今後の行き来を考えても地球の近くにNWPした方がお互いに時間のロスがなくなるからな。それにここからNWPした方が大統領も安全だ」


『ケン、いつでもNWPを作動する準備ができています。ワープインポイントについては現空域の周囲1,000万Kmは安全ですのでここからワープする可能性が98%以上と予測しています』


「了解、ありがとう」


 そう言ってから


「ワープアウトポイントはシエラ星で我々がワープインした小惑星群のあの地点になるだろうな」


 と呟いた。

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