第48話 ハワイベース

 太陽系内を飛行しているアイリス2のレーダーに地球が映ってきた。乗客は2度の通常ワープを終えて今はそれぞれの客室で上陸の準備中だ。アイリス2は徐々に速度を落としながら地球に近づいていた。追走していた護衛艦は地球の大気圏の手前で離れていって今は航路上には他船はいない。


『ハワイベースまで10分です』


 その声と同時にシートベルト着用サインが点灯する。


「アイリス、着陸に備えてエンジンの出力を徐々に落としてくれ」


『わかりました』


 メインルームの窓越しに地球の姿が大きくなってくる。久しぶりに見る自分が生まれて育った星をケンはじっと見ていた。


「綺麗な星ね」


「ああ。綺麗な星だよ」


 ソフィアもケンと同じ様に窓から見える接近する地球を見ていた。


「本当はケンも地球に降りたかったんじゃないの?」


「こうして地球を見るまでは降りたいなとは思ってたけど近づいてくるとどっちでもいいかなと思う様になってきた。それよりも仕事をしっかりしないとという気持ちの方が強くなってきたよ」


「どうして?ケンの故郷の星でしょう?」


 ソフィアは以前ベースワンに来た時の時のケンの言葉を思い出していた故郷に帰るのってこういう感じなのかと言っていたケン。だからてっきり今回は自分も着陸したいのだと思い込んでいたが予想外の答えが返ってきてびっくりする。


「そう。俺の故郷だ。間違いないよ。でもね帰郷の感慨に浸るのは今じゃないって気がしてるんだ。今自分がやることは大統領以下のお客様を無事に届けてそうして無事に連れ帰ることだ。今頭の中はそのことでいっぱいなんだよ。それにNWPワープがある。帰りたくなったらいつでも帰ってくることができることが分かってるからかもしれない」


 そこまで言うと顔を横に向けてソフィアを見るケン。


「俺が地球に戻って降りる時はソフィアと二人だけでアイリス2に乗っている時の方が良い気がしているんだ。観光もしたいしな」


「ありがとう」


 短くお礼を言うソフィア。


『ハワイベースへの着陸態勢に入ります』

 

 アイリス2は地球の大気圏に入って下降を続けていた。成層圏を抜けると地球の青い水が視界に飛び込んできた。


「メインエンジンの出力を20%にまで段階的に低下」


 モニターを見ていたケンが言う。アイリス2は減速しながらも目的地であるハワイベースに下降を続けていた。


『機種水平 着陸エンジン作動』


『機種水平。着陸エンジン作動しました。地上まで100メートル』


「そのまま降下。20メートルで旋回後さらに減速しながら降下して着地」


 目の前に真っ青な海と綺麗な砂浜が見えている。その奥には宇宙船の着岸バースが見えていた。ピアで待機している人たちの姿も今ははっきりと見えていた。


『降下を続けます。20メートルで旋回、さらに減速しながら降下します』


 ケンが言い、アイリスが復唱する。この独特のやりとりにAIのアイリスもすっかり慣れている様だ。機体がゆっくりと向きを変えながら下降していく。


『着陸まで3メートル、2メートル。着陸しました。着陸は正常。外気に問題なし。ドアロック解除します』


 ほとんどショックを感じない見事な着陸でアイリス2は機体の動きを止めた。


「ドアロック解除後に機内の乗客にも連絡してくれ」


『はい』


 アイリス2は無事にハワイベースの1番ピアに着陸した。全長80メートル程の小型の輸送船アイリス2は初めて地球に着陸する。


「メインエンジン停止。補助エンジンのみ作動」


『メインエンジン停止しました。補助エンジンのみ作動します。出力5%です』


 機体が完全に停止するとソフィアが立ち上がって乗務員出口に向かう。ケンは1階に降りる階段の上で10名の乗客が降りてくるのを待っていた。


 最初に大統領が2階から階段を降りてきた。その後に外交部長マッキンレー、副部長アン。そして情報部シュバイツ准将、アンドリュー中佐と続き、それから大統領と外交部部長の3名の補佐官達が荷物を持って階段を降りてくる。一番最後は技術者のマーベルとアンジーだった。


「ありがとうケン。ゆっくりと休んでくれ。帰りも頼むよ」


「ありがとうございます。帰路もお任せください」


 1階に降りる階段の前で立ち止まったブランドン大統領の言葉に返事を返すケン。そうしてソフィアが開いたドアから大統領を先頭に次々と関係者が降りていった。ピアには太陽系連邦政府の副大統領以下政府の重鎮達が一行を出迎えるべく待っていた。


 無事に全員が降りると扉をしっかりと閉めて2階に上がってきたソフィア。席に着くと連邦政府を呼びだし、


「ハワイベース、こちらアイリス2。全員下船されました。これよりアイリス2は1番ピアから離陸し指定の待機ポイントに向かいます」


「こちらハワイベース。こちらでも全員が下船されたことを確認した。待機ポイントへの移動を許可する。客人が帰星される際には連絡をいれるのでその場で待機してくれ」


「アイリス2了解しました。よろしくお願いします」


 ソフィアが通信を終えるとケンが声を出した


「アイリス、離陸して指定されている待機ポイントに向かってくれ」


『わかりました。離陸し、待機ポイントに向かいます』


 機体が浮き上がりゆっくりと上昇していく。そうして上空で向きを変えるとメインエンジンを噴射し一気に大気圏を抜けて宇宙に飛び出していった。

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