第46話 似たもの同士

 話し終えて交渉のやり方まで口をだしてまずかったかな?と一瞬思ったケン。話を終えると大統領がソフィアはどうなんだい?と聞いてきた。


「私はケンしか地球人を知りませんが。最初の頃は彼が信義に厚いというのはポーズだと思っていました。博士の発明を持ち込んだ事についても何か裏があるんじゃないか、ひょっとしたらケンは太陽系連邦政府のスパイじゃないかとか思っていました。彼の考え方があまりに我々シエラ星人と同じだったのでそう感じた訳です。表面を取り繕っているけど内面は違うのではと思ってましたが一緒に船に乗って仕事をしてわかりました。ケンはシエラの一般人と同じ感性を持ち、同じ考え方をします。そして彼は地球人の信義に厚いという血を受け継ぎながら商売を通じて得た駆け引きや情報の読み取りなどの技術をその地球人が持っているアイデンティティに上乗せしている人物です。今は私のパートナーですので評価が甘くなりがちですけど、シエラで言えば情報部と外交部の仕事を一人でこなすタイプの人間です」


「ありがとうよくわかった。ただソフィアの言葉は半分以上お惚気だったけどね」


 大統領の言葉でテーブルに大きな笑いが起きた。


「それは当然でしょう。逆にそうでないと問題ですよ、大統領」


 アン外交副部長が助け舟を出してきた。


「まぁ今のは冗談だよ」


 と大統領が言ってから真面目な表情になって


「今の話は非常に参考になる話だ。マッキンレー、シュバイツ。そうだな?」


 ゴホンと咳払いをしてから外交部部長のマッキンレーが口を開いた。


「ケンも気がついているが我々シエラ星人もブルックス系では特殊な立ち位置になっている。全てを自己完結し極力他星の接触を控えるという国是があるからね。ある意味太陽系と似ているかもしれない。ただこれからもこのやり方を続けていった先にあるシエラの未来がどうなるのかという話になると誰も太鼓判を押せないのが実情だ。理想と現実のギャップに悩んでいると言ってもいいだろう。そんな中で偶然にもブルックス系以外の星から非常に魅力的な提案がやってきた。組む相手としては全く問題ないというのが我々の判断だ。ケンは誠意を見せればそれは必ず相手に響くと言ったがそれは我々シエラの人も同じなんだよ。残念ながらブルックス星系内にはお互いに胸襟を開いて話し合う相手がいなかっただけでね」


 外交部長の言葉を聞いていたシュバルツがコーヒーカップをテーブルに置くと彼に続けて口を開いた。


「軍情報部も外交部と同じ考えだ。我々情報部の使命はシエラという星、国家を未来永劫存続させていく為にあらゆる情報を分析して国家に提案し星民を正しい方向に導く手段を提示することだ。太陽系については非常に情報が取りにくいがそれでも断片的に入ってくる情報では太陽系連邦政府はブルックス系のどの星とも違う考え方を持っているということだった。そして彼らは今我々と同じ様に仮想敵国の存在を認めている。今回の提案についてはそれこそ渡りに船と言ったところだが最終的に同盟を結んでも問題ないという決断を下した理由の一つにケン、君の存在が大きかったことは間違いない。アンヘル博士の研究成果を持ち込んできたときはびっくりしたよ。それこそイメージしていた地球人そのもの、いやそれ以上だったからな。そして今の話を聞いて私はケンと契約をしておいてよかったと思っているよ」


 准将は当人には言っていないが外交部部長や大統領にはシエラでの報告の中で伝えていたことがあった。太陽系のベースワンでの交渉の休憩時間にあちらの情報部員の上席らと雑談をしていた時のことだ。彼らからケンについての話が出た。


「今回皆様が乗ってこられた宇宙船アイリス2の船長のケン・ヤナギですがよく彼を見つけてきましたね。我々太陽系連邦軍の情報部が先に見つけていたら間違いなくこちら側に引き込んでいたでしょう。恥ずかしい話ですが船体IDから引っ張り出した彼のデータを見てぶったまげましたよ。ここまで優秀な人材がいたのかと。太陽系を離れて仕事をしていたのでこちらのリクルートのサーチから漏れていたというのが今でも悔やまれます」と。


 外交部長と准将の話のあとで大統領が再び口を開いた。


「私は大統領になってもう30年以上になる。その間ずっと国の将来について考えてきている。もちろん今でもそうだよ。シエラという星、そしてそこに住んでいる人々が幸せになる為にはどうしたら良いのか。幸いにしてシエラには優秀な人が多い。ここにいるメンバー全員はそうだしそれ以外にも大勢の優秀な人材がいる。そして彼らの日々の頑張りがこのシエラの発展を支えていると言える。一方で私は縁、タイミングというのも非常に大事たと感じている。男女に例えると仲の良い男女がいてお互いに意識している。そこで結婚を切り出すにはタイミングがある。それを間違えるとうまくいく話も上手くいかなくなってしまう。お互いに気があるのにちょっとしたことでボタンをかけ間違えたことで一緒になれなかった。国家間の付き合いもタイミングや縁、これは決して無視できないと思っているんだよ。流れを見極めて適切なタイミングで適切な行動を起こすことでお互いに幸せになれると思っているしその判断をするのが自分だと。

 ケンがアンヘル博士の研究結果を持ってシエラに飛び込んできた。そうこうしているとケンの出身地である地球から同盟の話がやってきた。私はこの流れに乗りたい。いや乗らなければならないと考えた。幸いに外交部も情報本部も私と同じ考えをしてくれた。そうなるとあとは簡単だ。私が最初に乗り込んで握手をするだけで後は彼らがやってくれるからね」


 大統領、外交部長、そして情報部准将の話が終わるとケンはコーヒカップをおいてから言った。


「自分はそれほど大それた人物じゃない。それは自分が一番よく知っています。ただ人を騙さないという点だけはずっと守ってきました。考えればこれが地球人として持っているアイデンティティなのかもしれません。そしてそれはこれからもずっと持ち続けていたいと思っています。交渉が上手くいくことを祈っております」


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