第40話 大統領府所属

 ケンとソフィアはアンドリュー中佐が情報部前で降りるとそのまま新居を探しに市内をウロウロする。シエラ第3惑星での土地勘がないケンは家探しはソフィアに一任だ。自分では静かでしっかりと休めれば場所はどこでも良いと彼女に伝えてある。


 一方でソフィアはせっかくならとあちこちを見て回っていた。そうして二人で何件かの物件を見て最終的に新築3階建の高級マンションの3階の角部屋に新居を決めた。


「一軒家じゃなくていいのか?」


「不在が多くなるでしょ?ならセキュリティの良いマンションの方が心配しなくてもいいわ。それにこのマンションは場所もいいし部屋も広い。ケンは知らないだろうけどこのマンションのあるこの地区は首都の中でも高級住宅街なのよ。この地区に住むのが夢だったの」

 

「ソフィアが気に入ってくれたのならそれでいいよ」


 二人の新居が決まると必要な家財道具を持ちこみ、1週間後に全てが揃った。あとでソフィアから聞いたところによるとシエラ星人以外の他星人がこの星で不動産を所有して居住するには複雑な手続きと同時に厳しい身元チェックが行われるらしいがケンの場合はシエラ情報部だけではなく大統領府もその身元を保証するとの通知があったらしく全く問題なく手にすることができたということだ。


「世話になりっぱなしだな」


 新居の片付けが一段楽した時にケンが言った。


「ケンはそれだけのことをしてるのよ」


「その分アイリス2に乗ってしっかりと仕事をしないとな」



 家の問題が落ち着くと二人は造船所に顔を出して作業を見て打ち合わせを行い、時には情報部に出向いてそちらでも打ち合わせをしていた。


 そうやって2ヶ月が過ぎた頃にアイリス2の改修工事が全て完了する。

 

 新しいアイリス2の試運転をするべく二人が15番ピアに顔を出した。出迎えたドックの職員が


「内装の変更以外ではAIのバージョンアップを行なっています。その他の計器類は従来通りです」


 ありがとうと礼をいうケン。ソフィアと二人で乗り込むと新しくなった内装を見て回る。船長室は場所が奥になったがレイアウトや部屋の造りはそのままだ。ソフィアの部屋は完全に1部屋になっていた。


「綺麗に仕上がってるわ」


「ああ、いい仕事をしてるな」


 客室は10室どれも広めでゆったりしておりベッドにクローゼット、机、椅子、そしてシートベルト用の椅子が邪魔にならない場所に置かれていた。新たに部屋の扉の上にランプが付けられていた。シートベルト着用サインだ。壁にはシエラ時間を表示するデジタル時計が埋め込まれていた。夜の睡眠時には時刻表示ライトを暗くしたり消したりすることもできる。


 キッチンも広くなっていてテーブルも大きくなっている。奥の保管庫も十分な広さがある。会議室も広くて各自がPCを使用できる様に配線が敷かれている。外見は輸送船だが内部は高級な旅客飛行船の様になっていた。


 1階の貨物室は以前よりも小さくなっているが高さも奥行きもそれなりにあり通常のコンテナ貨物は積める様になっている。そしてエンジンルームはNWPエンジンが設置されておりその奥には補助エンジンが新たに設置されていた。万が一の事態を想定して設置してあり普段は使わない。奥の保管庫もそのままだった。燃料カートリッジはしっかりと補充されていた。


 一通り機内を見て回った二人は一緒に回っていたドック職員に


「しっかり仕上げてくれている。ありがとう」


「シエラのVIPの輸送船でもありますからね。万が一がない様に念には念を入れて作り上げました。データ管理回線については予備の回線もつけましたので万が一回線トラブルになった場合にはサブ回線にて対処できます」


「それは助かる」


 説明を終えた職員が機体から降りるとケンはアイリスを呼び出した。


「調子はどうだい?」


『アップデートしましたので快調です』


「これから試験飛行を行う」


『はい。ルートはすでにインプットしています。地図を出します』


 そう言って3Dマップが投影される。


「これは前回の空域だな?」


『そうです。同じ様にNWPをして空域での飛行になっています』


 わかったと答えるケン。


 出発前の点検を終えると船長席に座ってシートベルトを締める。


「港湾局を呼び出してくれ」


 ケンがそう言うとアイリスが


『この機体は大統領府所属の機体としてシエラ港湾局に登録されました。従って離陸着陸については毎回港湾局の許可を得る必要がなくなりました。離陸、着陸の通知だけでOKとなっています』


 アイリスの説明を聞いてびっくりする二人。


「それならソフィア、離陸の通知を頼む」


 ソフィアがアイリス2の離陸を通知するとすぐに了解と返事が来た。


「出港する。エンジン始動」


『エンジン始動します』


 アイリスが復唱すると低音のエンジン音が微かに響き機体がゆっくり上昇を始めた。そうしてそのままアイリス2は宇宙空間に飛び出していく。重力がなくなるとすぐに巡航速度までスピードを上げる。


『NWPまで5分です』


 宇宙空間を疾走するアイリス2。さっきまで正面の窓から見えていたシエラ第1、第2惑星はすでに遠くなっていた。モニターを見ていたケン


「特に異常はないな」


『はい全て順調です。NWP1分前です』


 そして機体がNWPする。もう慣れたNWPの感覚。数分後には指定された宇宙空間に飛び出ていた。


 ケンとソフィアは交互に操縦桿を握って操作性の確認と訓練を行う。それが終わると二人で2階にあがり1部屋ずつチェックしていった。NWPの衝撃で物が倒れたり、大きく動いたりしていないかの確認だ。自分達の部屋も含めて全ての部屋に問題がないことがわかるとソフィアをメインルームに残してケンは1階のエンジンルーム、保管庫。それから中2階の奥のキッチンや保管庫、会議室の様子もチェックする。


「全て問題ないな」


「きっちりと仕事をしてくれたみたいね」


「その通りだ」


 試験飛行を終えたアイリスがシエラ15番ピアに着岸すると待ち受けていた職員に試験飛行中のデータを渡し、


「何も問題はなかったよ」


「よかったです。あとで我々もチェックとデータ分析を行います」


 こうして試験飛行は無事に終わり、アイリス2はいつでも太陽系に向けて出港が可能となった。


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