第41話 同盟

 ベースワン、太陽系連邦政府の秘密基地から戻ってからシエラ星外交部と情報部は日々協議を行いながら同盟契約書の原案を作成していた。原案の1行1行について太陽系政府機関とのやりとりを行い加筆修正していく。いくら超高速通信を利用していると言っても太陽系までは1週間以上の日数が掛かる。シエラは既にNWPを利用して高速通信を行う方法を開発していたが同盟契約を締結するまではその技術を相手に開示することはできない。


 まどろっこしいやりとりを続けながらもシエラ政府と太陽系連邦政府は根気良く前向きな協議を続けながら同盟契約書の原稿を作っていった。


 そんな作業を続けている中、ケンとソフィアの二人は呼ばれて情報本部に顔を出していた。今ではケンにもIDカードが発行されており面倒くさい入館手続きをせずに地下にある本部に行くことができる様になっていた。


 二人が本部に行くと窓口になっているアンドリュー中佐が二人を出迎えて会議室の1つに入る。中にはスコット大佐が着席していた。


「久しぶりだな。新居には慣れたかい?」


「ええ。ソフィアに言わせると良い場所だってことでしたが実際に住んでみると確かにいい環境ですよ。静かだし、そして大きなショッピングモールも近くにある。散歩がてら毎日歩いて買い物してますよ」


「それでか。少し日焼けしたんじゃないか?」


「仰る通りです。宇宙ではずっと機内で過ごしてましたからね」


 スコット大佐はケンの次にソフィアを見て


「ソフィアも元気そうだな」


「ありがとうございます。おかげさまで元気です。ただ情報部に所属していながら毎日こんな生活をしていても良いのだろうかとちょっと悩んでいます」


 そう言うと大佐と中佐が大丈夫だよと笑ってから


「休める内にしっかりと休んでおいてくれ、もうすぐ目が回る程忙しくなるぞ」


 全員が着席すると大佐が説明を始めた。


「4ヶ月前に君たちがシエラに戻って以来、いや厳密には戻る前からシエラ政府と太陽系政府は2国間の同盟契約書作成の為に超高速秘密通信を使ってやりとりをしている。知っている通り超高速通信とは行っても相手にメッセージが届くまでに1週間ほどかかるのでそのやりとりのスピードは速くないがな。ただ両星とも基本線は合意しているので契約書の作成作業においては大きな問題はなく順調だといえる」


 そこでテーブルの上に置かれたコーヒーを飲むと、


「2日前に外交部から連絡があった。現在のやりとりから見てそう時間をかけず正式に同盟が締結できる目処が着いたということだ。それでシエラ外交部から締結前提でミッションを太陽系に派遣すると先方に連絡した」


 大佐の話を聞いていたケンには今日の呼び出しの趣旨が見えてきた。黙って聞いていると大佐が話を続ける。


「今回は同盟の締結という大きな行事がある。シエラからは外交部のトップであるマッキンレー外交部部長が太陽系に出向いていくことが決まった。それ以外に外交部からは前回訪問したアン副部長も同行する。そして情報部からはシュバイツ准将とアンドリュー中佐の2名が訪問することになった。私は今回は行かない」


「4名ということですか?」


 話を聞いていたケンが言うと首を横に振る大佐。しばらくの沈黙の後


「ブランドン大統領も行かれる」


 その言葉を聞いてケンとソフィアは驚いた表情になる。シエラを代表する大統領が?と思っていると


「大統領が行くことによって相手も連邦政府のトップが出てくる。そこで一気に同盟締結からその後の協力関係の枠組みを作り上げようと言うことだ。大統領がおっしゃるには自分が行くのが一番速く決着するだろうとのことだ」


「大統領が行かれるのであれば大統領機を使うのが筋でしょう?」


 ケンが言うと


「大統領の太陽系訪問は秘密中の秘密だ。絶対に関係者以外に漏れてはいけない。ということで大統領からアイリス2で移動するのが良いだろうとの話が出た」


 えらいことになったとケンは思った。隣でソフィアも青い顔をしている。赤くなったり青くなったり大変だなとその横顔を見ているケン。ただソフィアが青い顔をするのはわかる。自国の大統領を秘密裏に安全に目的地に届け、そうしてまたここに戻ってくるのがどれだけ大変な任務になるのか。


「今回の太陽系訪問者は今言った5名に加えて大統領府から補佐官が2名、外交部から補佐官が1名そしてこの造船所の技術者2名が同行する。万が一の事態に備えてな。技術者2名はエンジンなどの推進力とハードを担当する者とコンピューター関連の技術者だ」


 皆が黙っているとしばらくしてからアンドリュー中佐が口を開いた。


「こちらのメンバーを太陽系政府に伝えたところ今回の会談は前回の秘密基地ではなく地球で行うことにしたい。太陽系政府からも同様に連邦政府のトップであるマッケイン大統領以下前回も会談に出席した情報参謀本部本部長や外交部トップのヤニス外務大臣らが出席するとの連絡が来ている」


「もう一つ、今回の移動については移動時間を短縮する目的でNWPを全面的に使用して移動する」


 中佐の後にスコット大佐が言った。その言葉を聞いたケンが口を開く前に大佐が続けた。


「出発したらNWPで一気に太陽系に飛んでくれて構わない」


 その言葉の意味すること、つまりこちらの手の内の1つを相手に見せるということだ。シエラ政府の意図はわからないがケンとソフィアにとってはNWPを使えるというのは乗員の安全面からみるとウエルカムな状況だ。NWPは誰にも絡まれない。


「ブルックス系でのワープインポイントについてはNWPの秘密を守りたいから航路については十分に検討してくれ。ワープアウト地点は前回のベースワンの周辺空域で構わない。こちらでもルートをチェックしてはどうかと言う意見は出たがそれよりもアイリスにルートをチェックさせるのが一番良いだろうと言う結論になった。彼女はアイリス2の性能を100%理解しているし太陽系への飛行実績のデータもある。正確なルートと数字が出せるだろう」


 打ち合わせが終わり、ケンとソフィアはその足で15番ピアに向かいアイリス2に乗り込んでAIのアイリスと航路の打ち合わせをし、明日もう一度この情報本部に来ることになった。

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