第36話 ネットニュース
アイリス2が太陽系の外側にあるベースワンの近くにある待機ポイントに停泊して30時間が過ぎていた。
「船長室のシャワーを借りるわね」
そう言ってソフィアがベッドから降りるとシャワールームに消えていった。ケンは一人になったベッドから降りるとそのまま服を着て船長室にあるコンピューターに向かい合うとPCを起動させた。
「何を見ているの?」
シャワーを浴びて着替えたソフィアがPCの前に座っているケンに近づいてきて言った。良い匂いがする。
「最近の太陽系のニュースだよ」
ソフィアがケンの肩越しに画面を覗き込むと政府系のネットニュースが画面にアップされていた。政府系のサイト故固い表現が多いが内容としては火星で事故があったとか政府が新たに木星の軌道上にある衛星に大きなカーゴターミナルを作ることを決定したとか言うニュースが並んでいる。
「どこでも大体報道って同じよね」
ケンの背後からモニターを覗き込んだままソフィアが言う。
「政府系はどこでもこんなもんじゃないの?差し障りのないニュースをアップしている。もちろん軍事関係はまずニュースにならない。でもそれでもざっくりとした様子を知ることができる。例えばストライキが頻発していないとか。労働者の最低賃金がアップしたとかね」
そう言ってから一旦政府系のサイトを閉じると今度は民間系のサイトを開いたケン。そのサイトはさっきとは違ってさまざまな記事がアップされていた。
「半分は推測記事だろうけど、その中にたまに本物があることがあるから一応目を通す必要があるんだよ」
「ブルックス系でもそうしてるの?」
「もちろんだよ。噂話だろうが何だろうが知っておくことは悪くない。それを信じるか信じないかは別にしてね」
ソフィアを話をしながらも次々とニュースタイトルをクリックしてはその中身を読んでいくケン。
「これを見てごらん」
ケンが開いたニュースを見るソフィア。そのニュースとは太陽系の隣にあるロデス系について書いてある。ケンに勧められるままに記事を読んでみたソフィアだがその内容は全てが推測になっていてとてもじゃないが信用に値する記事にはなっていなかった。
ケンは他にもロデスに関する記事をモニターに表示させていった。
「どの記事も推測でここまで書けるってある意味凄いわね」
ケンが開いたサイトの記事をいくつか目を通したソフィアが言った。
「確かに全てが推測だ。ただこの記事からわかることは太陽系の住民にとって既にロデス星系が脅威になっていると認識していることだよ。つまり太陽系にとって眼下の敵はロデス星系の中にあるエシク星だってことを多くの人がわかっている、いや気になっていると言った方がいいかな。記事の内容はともかくロデス星系のエシクが読者の関心がある一つの事案になっているのは間違いないね。こう言う三文記事は今人々が関心があることを適当にでも書いて金にしようとするからね」
「火のないところに煙は立たないってことね」
「その通り。読者に関心があるから記事として成立するんだろう。そう考えると今回の太陽系政府とシエラとの交渉の本気度がある程度わかってくる」
どう言うこと?という目でケンを見るソフィア。
「太陽系政府が単にシエラの先端技術を欲しがっているだけじゃないってことさ。彼らは早急に戦闘に備えた準備をしたいと考えているんじゃないかと思ってね。となると交渉に関しても早く決着をつけて同盟を結ぼうと考える。一方でシエラもファジャルの脅威がある。この交渉は短期間でまとまる気がするよ」
「この記事だけでそこまでわかるの?」
聞いていたソフィアはびっくりしていた。
「エシク関連の記事が1つか2つだったら俺もそういう発想はしなかった。ただネットのサイトでロデスやエシクと検索すると大量の関連記事が出てきたんだよ。ほとんどが噂話か根拠のない作り話だけどそれだけ話題になるってことは皆関心があるってことだ。そして関心があるのはネット民だけじゃなく当然政府や軍もそうだろうと思ったのさ」
「なるほど」
感心した声を出したソフィアに顔を向けたケン。
「これから結構な頻度でシエラとここを行き来することになると思う。シエラに戻ったらもう一度この船を点検しておいた方が良いだろうな」
ベースワンについて62時間が過ぎた。アイリス2はそこに根が生えているかの様に宇宙空間に停泊していてその場から全く動いていない。
オペレーションルーム奥のキッチンでコーヒーを飲みながらケンとソフィアが雑談をしていると
『ベースワンから通信です』
というアイリスの声が飛び込むと同時に基地のエンドウの顔がモニターに映った。
「こちらベースワン。今から6時間後に5番ゲートに着岸願いたい。シエラ星の客人が帰星される」
「アイリス2了解。6時間後に5番ゲートに接岸する。以上」
「アイリス。6時間後に着岸だ」
『わかりました。5時間30分後に移動を開始します』
「シエラに戻る準備は?」
『計器類及びエンジンは定期的にチェックしていますが異常はありません。燃料も十分にあります』
「了解」
アイリスと話終えるとケンはソフィアと共に1階にあるエンジンルームに降りていった。目視でエンジンを点検しモニターに表示されている数値が全て規定範囲内であることを確認するとオペレーションルームに戻る。アナログのチェックにも慣れたソフィア。ケンに付いて歩いては彼の仕事を黙って見ている。
「アイリス、帰路のルートを出してくれ」
オペレーションルームに戻ったケンの言葉で3Dマップが展開された。そのルートを指先でなぞりながら確認していくケン。
「NWPの場所は同じだな。他も基本大丈夫だろう」
「巡航速度で飛行する空域で逆風になるところがあるってことね」
「その通りだ。まぁ無理せずに帰るよ」
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