第35話 ベースワン
目的地への到着前日になった。アイリス2は順調に飛行を続けている。大佐が2階から降りてきた時にソフィアがスコット大佐に帰路の時間について話をしたところ、自分は全く問題ないが一応准将とアン副部長に確認してくると言って2階に上がるとすぐに降りてきて、
「帰路が往路に比べて7日でも10日でも余分にかかろうがそれで機密が守れるのならそれを優先してくれとの事だ。機密保持、安全重視で結構だ」
と快諾を得ている。
「こちらアイリス2。ベースワンどうぞ」
ケンが通信を始めるとすぐにモニターに基地のエンドウが顔を出した
「こちらベースワン。予定通りだな」
「その通り。順調に飛行している。ETAは明日のそちら時間の16時の予定」
「ベースワン了解。接岸ポイントは追って指示する」
「アイリス2了解」
やりとりを背後で聞いていた准将。
「いよいよ明日からだな」
「そうですね」
短く答えるケン。准将の近くに立っているアンは目の前に座っているケンの背中を見ていた。今回の任務で初めて会って以来1ヶ月以上行動を共にしているがケンは太陽系政府との交渉の内容や自分達3人の任務について一切聞いてこない。操船のプロに徹しきっている。
ソフィア経由の話でもケンはソフィアと二人で話をする時も全く太陽系政府との交渉の具体的な内容について聞いてもこないし話題にもあげないらしい。彼は自分達3人を安全に移動させることに徹しきっているとのことだ。
最初地球人がオーナーの小口輸送船で太陽系まで移動すると聞いた時には正直ケンが太陽系政府のスパイとして潜り込んできているのではないかと疑ってもいたがどうやら自分の考えすぎだったことを理解したアン。
ケンがアンヘル博士の研究結果をシエラに持ち込んできたという報告書を読んだ時にはこんな人間が本当にいるのかと逆に疑ったくらいだがこうして一緒に過ごすと彼が信義に厚い人間だということがわかってきた。そして運送業者とは思えない程に宇宙に対して知見があり、さまざまな独自ルートで集めた情報を自分なりに分析して方針を出す。
情報部と外交部がやる仕事を1人でこなしている様だわ。しかもその仕事の質が極めて高い。情報部がケンを高評価するのも当たり前の話だと思っていた。
『ベースワンまで1時間です』
「航路そのまま。徐々に減速しながら近づいてくれ」
『わかりました。出力を段階的に30%まで落とします』
既に前方には太陽系連邦政府の基地、ベースワンが視界に見えていた。周囲には何もないなか大きな基地が浮かんでいる。
アイリス2の速度がゆっくりと落ちていく中通信が入ってきた。
「こちらベースワン。アイリス2どうぞ」
「こちらアイリス2、ケンだ」
「ケン、ベースワンの接岸は5番ゲートだ。繰り返す、5番ゲートに接岸してくれ」
「5番ゲート了解」
『5番ゲートの座標が来ました。インプットしました』
「OKだ」
全員が椅子に座ってシートベルトを締めている中ゆっくりと機体が基地に近づいていく。秘密基地のせいか基地全体が暗い色で塗装されており、基地の上部と下部には大型アンテナが複数四方八方に向いて立っている。
「想像以上に大きな基地だな」
椅子に座ってガラス越しに前方の基地を見ている准将が言った。
「数百人、いや下手したら千人以上が働いていそうですよ」
「それだけ重要な基地だということだろう。最初の会談場所としたら悪くないんじゃないかな」
准将と大佐がやりとりをしている中アイリス2がその軌道を調整しながらベースワンに近づいていくとさらに速度を落とす。
『接岸まで10分です』
……
『接岸まで5分です』
アイリスの声だけが機内に聞こえ、そうして機体が横にスライドをはじめ、
『接岸まで10メートル、5メートル』
機体が軽く揺れてガシッとロックされる音が船内にも聞こえてきた。
『接岸しました。接岸ロック正常』
「メインエンジン停止。補助エンジンに切り替え」
『メインエンジン停止。補助エンジンに切り替えました』
「お疲れ様でした」
ケンがそう言って立ち上がると全員が同じ様に椅子から立ち上がった。奥のキッチンの隅には3人の小型のバックが既に用意されていた。そして准将と大佐はシエラ軍の迷彩服。アン副部長はスーツ姿になっている。ちなみにソフィアはこの船に乗ってからはいつも私服だ。動きやすい格好で過ごしている。ケンももちろん私服で仕事をしている。
ソフィアが先頭に立って3人を乗務員の乗り口に案内する。ソフィアはアンのカバンを持ち、ケンが准将のカバンを持った。大佐は自分で持って階段を降りるとソフィアが機体の扉を開けた。
扉を開けると太陽系連邦軍の迷彩服を着ている軍人5名が出迎えていた。
「ようこそ太陽系へ。この基地の責任者のエンドウです」
「シエラ情報部のシュバイツ准将だ。今回は世話になる」
握手と簡単な挨拶を終えると太陽系連邦軍の軍人が3人の荷物をエアキャスターに乗せていく。准将は後ろを振り返りドアに立っているケンとソフィアを見ると、
「帰星の際には連絡を入れる」
短く言った。
「わかりました」
こちらも短く返事をするケン。エンドウはちらっとケンとソフィアを見てから准将らについて基地の中に消えていった。全員の姿が見えなくなると扉をきっちりと閉めてからメインルームに戻る二人。船長席に座るとベルトを締め、
「こちらアイリス2。3人は無事下船されそちらの基地に入っていった。アイリス2は一旦離岸し指定のポイントで待機する」
「こちらベースワン。VIP3人の当基地の入館を確認した。離岸を許可するが水や燃料、食料は問題ないか?」
「それらは大丈夫だ。帰路の途中、ブルックス系内で補給する手配をしてある。ありがとう」
やりとりを終えるとアイリスに指示をだしたケン。ソフィアは今のやりとりを聞いてケンの臨機応変な対応に関心していた。いや彼のことだ事前にその質問も想定して回答を用意していたのだろう。
アイリス2はゆっくりと基地から離れるとそこから約30万Kmの距離にあるポイントに移動してそこで機体を止めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます