第34話 太陽系連邦政府外宇宙監視基地
その後もアイリス2は順調に飛行を続けていた。VIPの3人もすっかり機体と旅に慣れてリラックスして過ごしているのが側から見てもわかる程だ。
「アイリス、太陽系連邦政府の基地と通信を開いてくれ」
『わかりました』
相手側と通信を行う日、メインルームには全員が集まっていた。しばらくすると
『太陽系連邦政府外宇宙監視基地と繋がりました』
というアイリスの声と同時にモニターにケンと同じく黒髪、黒い瞳の精悍な表情をした男性が現れた。迷彩服を着ている。
「こちら太陽系連邦政府外宇宙監視基地。私はここの責任者のエンドウだ」
「こちらケン・ヤナギ。アイリス2の船長だ。シエラ第3惑星から客人を3名乗せてそちらに向かっている」
「船体IDを確認した。なるほどよく考えたものだ。それならカモフラージュとしては完璧だな。それにケン、君は地球人なのか」
「その通り。そっちでも調べているとは思うがリンツ星を拠点にしてブルックス系で小口荷物の運送業を営んでいる。今回は縁あって客人をそちらに運ぶことになった」
エンドウはアイリス2と話をしながらケンが写っているモニターの左にある別のモニターにも視線を送っていた。そこにはケンの経歴や仕事内容が表示されている。一番下に彼の分析を行ったセクションのケンの評価点が載っていた。”AA”となっている。最高がSでその下がAAA、AAは無名の小口運送業者としては相当高い評価点と言える。エンドウがケンの評価モニターに目をやっているとケンの声が聞こえてきた。
「アイリス2は今から3日と12時間後にそちらのポイントに到着予定。そちらの基地にて下船するのは情報部シュバイツ准将、情報部スコット大佐、それと外交部のアン副部長の3名だ。アイリス2の乗務員である私とソフィアの2名は客人の3名が下船後基地から離岸して会談が終わるまで付近で待機したい。待機ポイントの座標を後で送っていただくと助かる」
「了解した。3名の客人が当基地にて下船、その後アイリス2は基地周辺の空域で待機。いずれも問題ない。なおこちらからは情報参謀本部本部長のディーン准将、シモンズ部長、そして外務省宇宙局のスズキ局長の3名が今回の会談に参加する」
ケンが大佐を見ると頷いている。どうやらお互いに事前に聞いていた面子に変更はなさそうだ。
「ところでこちらの機体はレーダーで補足されているか?」
「補足している。現在の航路をそのまま進んでくれ。この空域は普段から軍関係者以外立ち入り禁止区域に指定している。現在この空域にいる他星船はアイリス2だけだ。それとこれからの通信ではこちらをベースワンと呼んでくれ。それがコールサインだ」
「ベースワン、了解した。通信を終わる」
すぐに待機する座標が送られてきた。
「アイリス、3名が船から降りて基地に入ったらアイリス2は離岸してこの座標にて待機する。
『わかりました。座標をインプットしました』
通信を終えるとシュバイツ准将がケンに近づいてきてケンの肩を叩きながら
「ありがとう。これで一安心だよ」
と言った。
「聞いていた通りここは飛行禁止区域らしいです。懸念することもないので予定通りの着岸となるでしょう」
「そうだな。では我々は一旦休ませてもらおう。その後は3人で最終の打ち合わせをするとしようか」
准将の言葉に頷いた大佐と女史の3人が階段を登っていった。
ケンは船長席、操縦席に座って前方の宇宙空間を見ていた。4年近く前に地球を飛び出して以来の太陽系がもう目の前だ。感慨深いものはないが言葉にできない何かが込み上げてくる。
「久しぶりの太陽系ね」
座っているケンに背後から近づくとその両肩に自分の両手を置いてソフィアが言った。
「うまく言えないけど故郷に帰るってのはこう言う感覚なのかなと思っていたところさ」
ソフィアはケンの両肩に手を置いたまま顔を前にあるガラスに向ける。ガラスの向こうには宇宙空間が広がっていた。遠くに光っている星がゆっくりと左右に移動していくのが見えている。
「私もこの前シエラ星に戻った時は嬉しかったわ。特に何かがあるって訳じゃないんだけどシエラ星が見えたら気分が落ち着いたの。故郷ってそういうものよね」
「もう太陽系に来ることはないだろうと勝手に決めつけてたけどさ。そんなのってこだわる必要がないんだなって。自分が帰りたくなったらいつでも帰れる。それが故郷だよな」
しばらくそうやって窓の外を見ていた2人は立ち上がるとキッチンに移動して軽い食事を食べながら打ち合わせをする。
「今回は友好的な会談だろう。会談中のトラブルは考えなくても良いと思ってる」
「そうね」
ケンの言葉に頷くソフィア。
「帰星時も隠密行動、安全重視で飛行したい。アイリス2の存在とその目的はできるだけ隠しておきたいからな」
「おそらく情報部も同じ考えよ。安全重視で仮に往路よりも帰路で日数がかかっても准将なら理解してくれると思う」
食事を終えたソフィアが二人分のコーヒーを持ってきた。ケンはカップを受け取ると、
「それなら問題ないけどな。というのは往路では宇宙風が追い風のところが多かったんだが帰路になると逆風になるんだ。さっきアイリスに計算させたら帰路の方が7日程余計にかかると言う答えになった。もし往路と同じ日数かそれ以下の日数を要求されたらNWPをしなければならなくなる。見つかるリスクがゼロじゃなくなるんだよ。もちろん燃料や食料については7日どころかもっと伸びたところで問題ないほどのストックがある」
「今回NWPの話をして相手が理解してくれればここからブルックス星系までNWPをすることによって時間短縮はできるわよね?」
ソフィアの言葉にそれはそうなんだがと言ってから、
「でも最初からお互いの手の内は全部晒さないだろう。NWPを相手に開示するには最低でも同盟契約を締結するのが条件になるだろう。今回は日数がかかるが3名には諦めてもらうか」
「私から大佐に話をしてみるわ」
ソフィアが言うとそうだな。ソフィアの方がいいかもなと同意するケン。
「准将も大佐も常識的な考えをする人よ。軍人だからって無茶を言う人とは違う。ケンの心配もわかるけど安心して、大丈夫だから。確かに多忙な人たちだけどそれ以上に国家の機密を守る事の重要性は理解しているわ」
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