第29話 AIの使い方

 太陽系に向けて出発する当日、早めにアイリス2に乗り込んだケンとソフィア。ケンはAIのアイリスと航路についての打ち合わせを行っていた。メインルームの背後にあるキッチンには新たにシートベルトが締められる椅子が3つ用意されている。


「目的地のこの秘密基地には今から45日後までに到着する必要がある」


『はい。航路を計算しました。3Dマップに投影します。青色部分がNWP、黄色の部分は通常のワープポイント、そして白色は巡航速度での航路になります』


 メインルームに投影された航路を見るケン。惑星がない場所は大胆に青色になっている。


「この航路での到着予定は?」


『44日と18時間後になります。近づいた時点で白色になりますので巡航速度を遅くすることによって到着時間の調整が可能です』


「なるほど」


 アイリスの言葉に答えながら航路をチェックしていくケン。航路上に危険は少ないと判断し、これで行こうと決断する。当然だがNWPする場所は宇宙空間の中でも辺鄙な場所ばかりを選んでいた。


 ソフィアは乗務員入り口で乗り込んでくる3人を待ち受けていた。扉の外に立っているとデッキに4台のエアカーが並んで入ってきてアイリス2の前で止まる。


 先頭のエアカーからシュバイツ准将とスコット大佐が降りてきた。2台目のエアカーからはアン副部長が降りてくる。准将と大佐はシエラ軍の迷彩服だ。そしてアン副部長は今日はパンツにシャツというカジュアルな格好をしていた。

 

 エアカーの3台目と4台目には3人の荷物が積んであった様で情報部や外交部の職員らが大きな荷物をいくつも後部ハッチから機内に運び込む。


 往復で3ヶ月近くの旅だ、荷物が多くなるのは当然だろう。しかも任務の特殊性から途中でどこかに寄港することができない。


 機体側部にある乗務員入り口に近づいてきた准将らがソフィアを見て


「これから3ヶ月程世話になるよ」


 と挨拶をする


「こちらこそ。どうぞお部屋に案内します」


 そう言ってソフィアを先頭にして3人が機内に入ると階段を登って中2階に上がる。そこにあるメインルームで3Dの航路図を見ながらアイリスと打ち合わせをしていたケンも3人を見るとそこに近づいていった。


「長旅になりますのでリラックスして過ごしてください」


「そうさせて貰うよ。飛行はケンに任せているからね」


 3人はメインルームから階段を登った2階にある各自に割り当てられた部屋に入っていった。情報部と外交部の職員がその後から荷物を持って各自の部屋に運び込む。


 事務方の職員らが荷物を部屋に置いて機体から出ていってしばらくすると准将と大佐そして少し遅れてアン副部長が中2階のオペレーションルームに降りてきた。ソフィアが3人の椅子の場所を教えてから全員が部屋の中央で3Dマップが表示されている航路図を見る。


「出発後44日と18時間で目的地に到着予定です」


 そうして航路上のラインの色についても説明をしていく。


「離着陸時、及びワープインとアウト時はシートベルトの着用をお願いします。それ以外でシートベルトが必要になった際には私かアイリスが案内します。それ以外の時間は好きに過ごしていただいて結構です。あと2階には会議室がありますので必要な打ち合わせはそこで行ってください。その他でわからない時や質問があればソフィアか私に聞いてもらえれば答えますしAIのアイリスもいますので」


 ケンの言葉に大きく頷く3人。


「アイリス、挨拶を」


『初めまして。この船のAIのアイリスです。ご質問があれば24時間遠慮なくお問合せください』


 アイリスの柔らかい人工合成音が機内にあるスピーカーから流れてくる。


「よろしく頼むよ」


 准将が答えた。全ての挨拶を終えるとケンが准将に、


「出発前の最終チェックで1階のエンジンルームを見て来ます。ソフィア、後はよろしく」


 そう言うとケンは1人で階段を降りてエンジンルームに向かっていった。


「エンジンルームの点検って全てはAIが管理しているんでしょう?」


 階段を降りていったケンから視線をソフィアに向けたアン副部長がソフィアの顔を見て言った。


「その通りです。基本全ての作動はAIのアイリスが完璧にこなします。ただケンはいつも自分の目で確認をしていますね。彼はAIを信用していないのではなく。自分の目や耳で感じ取ることをAIの情報と同じ位に大事にしている様です。そうよね?アイリス」


『はい、その通りです。ケンの動作は一見無駄に見えますがそれが彼のスタイルです。前に乗っていた船の時代からその行動パターンは変わっていません。ケンは以前こう言っています。


ー AIやコンピューターは優秀だよ。でも万能じゃない。道筋を作ってあげたらAIはその能力を発揮する。ただその道筋を作るのは人間の仕事だと俺は思ってるのさ ー 』


「つまりケンはいつも自分で道筋を作ってからAIに指示を出しているのか?」


 スコット大佐が言った。


『その通りです。おかげで演算処理する前提条件が減るのでこちらも同時に複雑な複数の処理を短時間でこなすことが可能になっています。それが結果的に機体の安全運行にも繋がっています』


 准将や大佐はソフィアから聞いていたとは言え実際にケンの行動を見、そしてAIがケンの行動を好意的に評価している言葉を聞いてこのミッションにケンの機体を選んでよかったと納得する。


 ケンは1階でエンジンのチェックをした後に水や食料の備蓄量の確認、そして燃料のカートリッジの在庫の確認などを行い中2階のオペレーションルームに戻ってきた。


「お待たせしました。出航前のチェックが終わりました。いつでも出発できます」


「では出発の許可をもらってくれ」


 シュバイツ准将の言葉で各自が自分の椅子に座ってシートベルトを締める。船長席に座ったケンがソフィアに出港許可の取得を指示すると同時にアイリスに指示を出す」


「エンジン始動」


『エンジン始動します』


「ケン。港湾局からいつでもOKだとの返事よ」


 その言葉に頷くと、


「アイリス、出発だ」


『わかりました』


 その言葉の後に機体がゆっくりと上昇をはじめ、機首を上に向けると一気に加速をして宇宙空間に向かって飛び出していった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る